「相場力ＵＰ」に役立つ矢口新の『トレードセンス養成講座』

株式市場で、収益見通しの上方修正といった買い材料が出れば、買いたい人が増え株価が上がる、また、スキャンダルなどの売り材料が出れば、売りたい人が増えて株価が下がるというのは、誰が考えても納得がいくことでしょう。多くの場合には、株価はこの通りの値動きを見せます。

ところが、今回の問題のように、買い材料なのに株が売られる、売り材料なのに株が買われることも、実は頻繁に起きています。このような場合には「市場心理が弱気だから売られた」、あるいは「市場心理が強気だから買われた」と解説されることがあります。実際に、弱気が市場を支配しているときには、少々の買い材料くらいでは疑いの目を向けてしまい、なかなか買う勇気が出ないものです。

買おうという意欲を、食欲に例えてみましょう。美味しそうなものがあれば食べたい。これは自然です。では、いつでもどこでも、美味しそうなものがあれば必ず食べるでしょうか？ケーキ好きな人がいて、満足するまで食べた後で、もっと美味しいケーキがあると言われて、それでも食べるでしょうか？あるいは、食べ過ぎでお腹をこわしているときに、大好物のケーキなら大丈夫と食べるでしょうか？アナリストや評論家は、自分ではケーキを食べないので、いつでも美味しいケーキを勧めてくれるのです。

市場心理は食欲に似ています。どんなにいい材料だと思っていても、これ以上買えない状態の時には、それほど強気にはなれません。また、多くの人が買って痛い目にあっていたなら、強気どころか弱気に傾きます。そんな時には、買い材料でも売られるのです。

また、「材料出尽くし」とは、買い材料が売りのきっかけに、売り材料が買いのきっかけにされるものです。多くの好材料は、それがニュースとなって市場に流れる前に、噂や観測で知れ渡っています。その噂や観測の確度が高く、また材料が良ければ良いだけ、その株は発表前に買われてしまいます。そのことを「株価が材料を織り込んだ」、あるいは「織り込み済み」と表現します。織り込み済みの株価もまた、好材料の発表とともに、少なくともいったんは売られます。株が夢を買うものだとすれば、好材料の実現は夢の消滅をも意味します。新たな夢が見られない限り、その株には、ある意味、もう魅力がないのです。

買い材料で株が売られるとき、売り手には売り手の事情があります。その事情は、買い材料に目を取られているあなたには多くの場合見えません。株価がかなり値下がりしているのは、決して好ましい兆候ではありません。上がると思っていた思惑がはずれたなら、いったん損切りして出直しをはかる。それが相場の鉄則です。