底はまだ先?GDP2桁減、日経平均バブル後最安値割れ間近の日本経済

GDP、オイルショック時に次ぐマイナスに

内閣府が2月16日発表した08年10−12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で、前期比3.3%減、年率換算で12.7%減となりました。マイナス成長は3四半期連続。減少率は、第一次石油危機時の1974年1−3月期の年率13.1%減に次ぐ約35年ぶりの大きさです。

GDPは国内の経済活動によって生み出される付加価値の総計です。つまり、国の経済規模や経済成長力を如実に表す“統計の王様”とでも呼べる指標です。

各国ともGDPはマイナスとなっていますが、日本のマイナス幅は、欧米に比べて突出したものとなっています。

各国・地域の08年10−12月期実質GDP成長率
各国・地域 GDP
日本 ▲12.7
米国 03.8
ユーロ圏 05.7
英国 05.9
韓国 ▲20.8
中国 _06.8※

(注)内閣府調べ。GDPは実質成長率、前期比年率%、▲はマイナス。※中国は前年同期比


日本の大幅なマイナス成長の要因は何だったのでしょうか。

08年10−12月期のGDP増減率の内訳
GDP 03.3(▲0.6)
(年率換算) ▲12.7(▲2.3)
個人消費 00.4(_0.3)
住宅投資 _05.7(_4.0)
設備投資 05.3(▲3.4)
政府消費 _01.2(▲0.2)
公共投資 00.6(_1.0)
輸出 ▲13.9(_0.6)
輸入 _02.9(_1.7)

(注)カッコ内は08年7−9月期、前期比%、▲は減


内訳を見ると、「輸出」のマイナス幅が突出していることが分かります。自動車、家電などの企業で赤字決算が続出していることからも分かるとおり、世界恐慌の影響により、輸出が悪化しGDPを大きく押し下げたということです。

中川氏辞任の影響は?日経平均後最安値割れ間近

こうした危機的な状況に対して、政府が効果的な対策を取ることが期待されるわけですが、現実はそうはいきません。このタイミングで、中川昭一財務・金融担当相が辞任したのです。

中川氏はG7後の記者会見でろれつが回らない姿を日本、そして世界にさらしてしまいました。

「風邪薬が原因」「口に含んだがごっくんはしていない」などのその後の対応の拙さや、会見の模様が動画サイトで世界中に出回ってしまったことなどもあり、世論の反応も大きく、当初は中川氏擁護に回っていた麻生首相も、辞意を受け入れざるを得なくなりました。

中川財務相、G7会見で迷言 泥酔(YouTube)

財務・金融担当相は大変な重責を担うポストです。実力派、政策通といわれる経済財政担当相の与謝野馨氏が兼任で後を継ぐことになりましたが、財務相と経財相の兼務は「極めて異例」(内閣官房)との声もあります。“異常事態”と捉えるべきでしょう。

実際、重要会合の欠席や延期が相次いでいます。22日にタイで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓の財務相会合の欠席が決まっており、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の会合も延期となりました。

与謝野氏は、4月2日にロンドンで開かれる第2回緊急首脳会合(金融サミット)に麻生首相と共に出席する予定です。経財相として経済財政諮問会議の運営にあたりならが、追加経済対策の司令塔役も担わなければなりません。

ただでさえ大変な業務を、兼務で大丈夫なのか。政治の混迷が株式市場にとっての重しとなているといわざるを得ません。日経平均株価もバブル崩壊後の最安値間近まで下落、7,000円の大台すら危ういといった声も聞こえてきています。

“好機”を逸した?日本のIFMへの拠出

こうした政治的な混乱のせいで、国際舞台でもっと評価されてよいはずのことが、全くといっていいほど無視されてしまっているのも残念なことです。

中川元財務相は13日、国際通貨基金(IMF)のストロスカーン専務理事と会談し、IMFに最大1,000億ドル(約9兆2,000億円)の資金支援を行う合意文書に正式に署名しました。

現在、新興国を悩ませているのは、世界恐慌に伴う急激なリスクマネーの逃避です。そのギャップを埋めるため、“最後の貸し手”としてIMFなどが直近09年だけで6,000億ドル(約54兆円)規模の金融資金支援を計画しています。ただ、IMFに残っている融資枠は1,500億ドルに過ぎず、財政基盤の抜本的強化のため、各国に拠出を募っている中で、一番に名乗りをあげたのが日本でした。

金額的にも、「金融危機で資金難に陥っている国を支援するためIMFに最大10億ドルを拠出する決定を下した」(プーチン首相)というロシアの10倍であり、国際貢献の規模として賞賛されるべきものといえます。

しかし、足元の中川問題も手伝い、この事実はほとんど報道されていません。マスメディア側の問題もあるでしょうが、政府として「ムダ金ではない」ということをきっちりと説明できていないことは否めません。

また、国際社会でのプレゼンスを高める「国家としての戦略」と捉えても、あまり上手くいっているとはいえないかもしれません。

麻生首相は昨年11月22日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のため訪れたペルーのリマで、胡錦濤国家主席に対し「貴国のように外貨準備を多く保有している国からの参加を歓迎したい」とIMFへの拠出を打診しました。しかし、胡主席は「日中両国は世界における経済大国だ。共に努力していきたい」と述べるにとどめており、確約はしていないのです。

中国は金融危機への対応を新世界秩序を巡るパワーゲームと位置づけ、存在感を高める“好機”を伺っているのです。IMFに拠出するのであれば、その見返りを得ようとしている、と考えられるでしょう。

今回の日本のIMFへの拠出は、タイミング、規模ともにその“好機”になりえたはずです。それなのに、合意文書に署名した大臣が辞任してしまっては…。

とはいえ、政治に文句を言っていても始まりません。自分を守ることができるのは自分だけです。例えばIMFを巡る動きでしたたかさを発揮した中国。その中国の成長と再度の株価上昇に期待し、少しでも投資しておく、というのは、自分の身を守る1つの方法といえます。

厳しい状況ですが、「やれることはある」。それを肝に銘じ、政府に文句を言うだけでなく、「やれることをやる」という姿勢が重要でしょう。

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

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マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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