『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

まもなく日本マーケットにやってくる「M&A時代」という潮目

日本の大企業が今直面するピンチとチャンス

米国発の金融メルトダウンが止まらない。11月14日・15日にワシントンで「金融サミット」が開催されたものの、その場で決められたのは、特に米国が気にする諸点に対する応急措置だけで、結局問題は来年4月2日に開催される第2回金融サミット(ロンドン)まで先送りになった感がある。


その結果、金融メルトダウンが続くことになる。日本マーケットもその例外ではない。一部には「今が底だ!」などと喧伝する国内外の“越境する投資主体”たちが後を絶たないが、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンたちは決してそうした甘言に騙されてはならないだろう。こうした金融メルトダウンについて、次なる大展開が見られるのは、早くても来年1月20日にオバマ米次期大統領が就任して以降だからである。「情報リテラシー」を磨きながら、他方でじっくりと情勢を分析し、本当の「その時」を待つこと。これしかやるべきことはない。


もっとも、日本経済にとって現状は「ピンチ」でしかないと考えるのは早計だろう。さしもの米系“越境する投資主体”であっても壊死し始めている中、公開マーケットにおいて証券を発行し、事業展開のためのファイナンスを確保するという意味で「直接金融」はもはや機能しなくなりつつある。私と私の研究所(IISIA)は今年4月頃より、そうした状況を予測分析した上で、商業銀行が企業に対して資金融通を行うという意味での「間接金融」への転換こそが今後の主たるトレンドであるとも述べてきた。実際、「潮目」はそちらに向かいつつあることは明らかだ。


しかし、そうはいってもこれまで米欧系“越境する投資主体”が展開してきた「略奪」を旨とする金融資本主義に、日本の商業銀行は未だ蝕まれており、十分なファイナンスをもって日本マーケットをマネーで満たすには、やや心もとないところがある。したがって、日本マーケットでは各セクターにおいて“体力勝負”、すなわち内部留保しておいた資金量が、各企業の活力を決める展開となりつつある。


つまり、これまで、とりわけ米国流の会計基準が「持ってはいけない」「時代遅れだ」と糾弾してきた企業の埋蔵金(内部留保)こそが頼みの綱になってきているのである。そのような中で、これまで米系“越境する投資主体”たちの甘言にのって直接金融ベースへとファイナンスを移した日本企業をめぐり、大手であっても雲行きの怪しい展開になりつつある。


すると、何が起きるのかというと、実は最も体力のある業界トップの日本企業たちが、盛んに「企業統合」という名の第2位以下への蹴飛ばし戦略を盛んに展開し始めているのである。このコラムでも繰り返し述べてきたとおり、戦後日本の経済は、あらゆるセクターが米国勢(GHQ)によってつくられた経緯がある。それが今、正に日本勢の手によって米国発金融メルトダウンの中で壊されつつあるのである。正に「潮目」到来なのだ。

「2009年に巨大コンツェルンが相次ぎ倒産」と喧伝するドイツ勢

このような視点から、世界中でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢についてウォッチし、マネーの織り成す「潮目」を見つめる中で、どうしても気になる報道を見つけた。「信用収縮によって、2009年は巨大コンツェルンが倒産する年になる」(12月10日付独版フィナンシャル・タイムズ参照)というのである。つまり、資金繰りが悪くなる中で、ドイツにおいても正に上記のような「体力勝負」が延々と続く展開となっており、しかもその中で最も有利なはずの大企業たちがバタバタと倒れることは必定だというのである。


もっとも、これに手をこまねいて見ているドイツ財界ではない。実は、日本の公正取引委員会にあたる連邦カルテル庁はここにきて、企業再編・統合に対し普段より甘めの判断を下しつつあるという情報がある。なぜなら、仮にそこで「企業再編・統合」を、やれ“独占だ”“寡占だ”といって糾弾し始めた場合、結局は倒産が相次ぐだけなのであり、大量の労働者が解雇され、失業率が上がるという悲劇となるからである。ドイツでは来年、総選挙(連邦議会選挙)が実施される予定である。そう考えると、失業率のアップなどという事態が生じることは、国内政治的に決して許されるはずがない。そこで、規制は一時的に緩和、企業再編・統合は容認ということになるのである。


実際、不況下で強い「生活防衛産業」の典型であるディスカウント小売業界では、ドイツ政府のこうした甘めの判断をもって、旺盛な企業再編・統合が進展
しつつある。こうした「潮目」が日本にも必ずや押し寄せてくることになるだろうと私は考えている。つまり、2009年は一方において「企業倒産」の年、他方では「企業再編・統合」という名のM&Aの年となる可能性が高いのである。

アジアで見られるのは円と人民元の覇権争い

この点も含め、今後、激動が想定されるマーケットとそれを取り巻く国内外情勢について私は、12月20・21日に東京、横浜、そして2009年2月7・8日に東京・横浜でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。


企業再編・統合が盛んに進むということは、当然のことながら、その企業を成らしめている資本構成にも大幅な変動が生じるはずである。同時に、そうした企業再編・統合に反対する経営者や株主も多数いるのが通例であるので、その結果、暗闘・乱闘が日本マーケットの内外で生じる可能性が高い。そして2009年、日本マーケットはM&A旋風という、一般には想定されてこなかった感の強い「潮目」へと巻き込まれていくことになるのだ。


もちろん、今が「底」だといいたいのではない。あくまでも米国におけるオバマ新政権の誕生、そしてその直後に出される可能性が高い「デフォルト(国家債務不履行)」宣言の後こそがフォーカスすべきタイミングである。だが、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンとして見るべきは、実は各セクターの業界第1位を中心とする主力企業群なのである。


密かに進行しつつある、日本マーケットにおける本当の「潮目」をしっかりと見通すことができるか。あるいは目先を翻弄する細かな情報に翻弄され、「潮目」を完全に見失い、“その時”までにすべてを失うことになるのか。今、正に日本の個人投資家・ビジネスマンの「情報リテラシー」が問われている。この「情報リテラシー」を研ぎ澄まし、私たち日本人が、いかにしてこれからの新たな「日本」を築き上げていくべきかについて、来年1月に開催する「新刊記念講演会」でお話できればと思う。ご関心の向きは是非足をお運びいただければ幸いである。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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