『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

この夏に吹き荒れる欧州破産騒動の嵐

欧州勢が狙うシステム大転換

目先は、バーゼル銀行監督委員会による自己資本規制強化という「外圧」を理由に増資に励むメガバンクたちにつられて、まずは「上昇基調」を“演出”されている感の強い日本マーケット。しかし、そうした短期的な展開は物事の本質では全く無く、むしろその向こう側、すなわち「金融メルトダウンの向こう側」において米欧勢が何を画策しているのかを常に考え続け、それに照準を合わせるべきだということを私はこのコラムで繰り返し述べ続けてきた。


その際のポイントとして、押さえておきたいことの一つに、欧州勢の「真意」がある。今年(2010年)5月上旬に大騒ぎとなったギリシア勢に続き、スペイン勢、ポルトガル勢といった南欧勢が続々と“デフォルト(国家債務不履行)”危機へと足を突っ込み始めたことは記憶に新しい。しかしそのような中で、当の欧州勢はというと銀行セクターの安全性を示すためとして「ストレス・テスト」なるものを実施中であり、その結果は7月23日にも公表される段取りとなっている。


このような欧州勢の動きを見ていて、読者の皆さんも必ずや思われるのではないだろうか。――「なぜ、欧州勢はそこまでして自分の首を絞めようとするのか」と。事態の鎮静化を図るのであれば、スペイン勢なども国債発行による資金調達を再び成功し始めたことでもあり、何もここまで事を荒立てる必要など、本当は無いのかもしれないのである。しかし、そうであるにもかかわらず、なぜ欧州勢は余りにも自虐的な振る舞いを続けるのであろうか。


この問いに対する私の答えはただ一つ。「欧州勢は事態の鎮静化とは全く異なる“目標”を目指している」のだ。それではその全く異なる“目標”とは何なのかというと、現在の金融資本主義を巡るシステムそのものの「大転換」に他ならない。だからこそ欧州勢はあまりにも自虐的な振る舞いに終始し、時にそれは破滅的にすら見えてしまうのだ。そしてその振る舞いによって既存のシステムが破壊されればされるほど、待ち望んでいた「救いの日」は近いということになってくる。――これが複雑怪奇な欧州勢の「真意」なのである。


「国家破産法」を後回しにした欧州勢

こうした観点でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。


7月12・13日に開催されたEU財務相理事会においてドイツ勢がいざという時に備え、「国家破産法」とでもいうべきルールを定めておくべきだと提案。しかし、他国の賛同を得られることが出来ず、まずは10月に開催されるタスク・フォース会合までこの議題は取っておこうということになったというのである(13日付ドイツ「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァィトゥング」参照)。要するにドイツ勢曰く、ある日突然“デフォルト”になってしまっては困るというわけなのだ。いかにもドイツ的な議論ではあるが、“デフォルト”ならば“デフォルト”なりの「秩序」をもって整然とそれは行われなければならないというのである。表向きは「事態の鎮静化」を目標としているはずの他の欧州勢が一様に「反発」したとしても不思議ではない。なぜなら、これではあたかも欧州勢自身が自らの“デフォルト”を認めるかのように見えてしまうからだ。


しかし、今回の「先延ばし」によって事態はますます混迷してきた可能性があると私はむしろ考えている。なぜなら、ドイツ勢はこうした「国家破産法」を制定すべきだとかねてより議論してきているのであって、今回「先延ばし」になったからといってすぐさま旗を降ろしたとは到底考えられないからである。むしろ、秋に再び議論を行うというのであれば、その時には他の欧州勢が納得ずくで議論を展開できるよう、然るべき「事実」が先行しているように仕向けることすら、国家戦略的にはあり得るかもしれないのである。


では、その然るべき「事実」とは一体何なのかといえば、言うまでもなく欧州勢における“デフォルト”危機の再燃なのである。その意味で今年(2010年)の夏はこのまま行くと欧州勢のいずれかの地域においてこうした危機・騒動が燃え広がる危険性が高まっているというべきなのである。――なぜならば、「システム大転換」こそが欧州勢の目標であり、そのためには混乱は忌避されるべきではなく、むしろ歓迎されるべきものだからだ。


これから何が起きるのか?

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で欧州勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は8月7日(土)に東京、8日(日)に横浜、28日(土)に福岡、29日(日)に広島、神戸にてそれぞれ開催する「IISIAスクール」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。


「狼少年」という寓話(ぐうわ)がある。「狼が来るぞ!」と繰り返し叫んで遊んでいた少年が、本当に狼が来た時に泣き叫んでも村人は誰も助けてくれず、哀れ絶命してしまうという話だ。“デフォルト”を巡る議論はある意味、この寓話に似ていなくはない。日本勢の「国家破産」を唱える「経済評論家」は、1990年代前半より多数存在しており、彼らは「日本勢はまもなく国家破産する」と連呼し、外貨建ての金融商品へ乗り換えさせることでマージンをとる、いわゆる“デフォルト・ビジネス”を展開してきた。こういった手合いに騙されてきた私たちからすると、どうしても“デフォルト”と聞くと胡散臭(うさんくさ)い話のように思えてしまい、真剣にとらえない傾向が拭えなくなってしまっている。


しかし、ここであえて繰り返したい。――全ての決定を秋まで「先送り」したというからといって、それまでの間に何らの動きが見られないとは限らない。むしろその真逆であり、「先送り」された後に合意を得るためにはそこで議論されるはずの問題が「現実」となってそれまでの間に招来しているよう、戦略的、意図的に“仕向け”られる危険性があることを常に念頭に置くべきなのだ。


やや景気も上向きであるかのように、日本勢の中では一部“喧伝(けんでん)”する者がいるものの、だからこそ地球の裏側で仕掛けられている本当のシナリオを見失うべきではない。今年(2010年)の夏は欧州勢における“デフォルト”騒動の嵐で一気にヒートアップするのだから。


  • はてなブックマークに登録はてなブックマーク登録数
  • BuzzurlにブックマークBuzzurlブックマーク数
  • [clip!]livedoorクリップ数
トラックバック

トラックバックはまだありません。

この記事に対するTrackBackのURL:

筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

  • メディアの情報のほとんどはもう終わったこと。現実に先駆けて今後の展開を分析!≪株式≫≪為替≫≪商品≫これを聞かなければ何れも始まらない!!
  • ⇒音声教材「週刊・原田武夫」

狙われた日華の金塊

原田武夫国際戦略情報研究所公式メールマガジン

元外交官・原田武夫率いる原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)の公式メルマガ。どこでも聞けない本物のマーケットとそれを取り巻く国内外情勢分析は必見です!気になるセミナーや社会貢献事業など、IISIAの幅広い活動を毎日お伝えします。

メールアドレス: 規約に同意して