投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
WEB2.0に移り始めた米独戦争
インテリジェンスとWEB2.0
以前よりこのコラムで繰り返し分析を提示してきたことなのであるが、インターネットでいういわゆる「WEB2.0」以降の世界は、米系インテリジェンス機関とは切っても切れない関係にある。例えば私たちの国=日本で、米系インテリジェンス機関が情報収集活動を展開することにしたとしよう。この時、やり方は大きく分けて3つある。まず1つは直接、青い目の諜報員を日本に派遣する方法。2番目は現地人を何らかのインセンティヴによって、エージェント(協力者)とするやり方。そして3番目が、これらとは全く異なり、本国である米国からいわば「遠隔操作」により情報収集を行う方法だ。
第1の方法は、訓練を受けた諜報員が「現場(=日本)」に潜入して情報を収集するため、そこで得られた情報の信頼度は極めて高い。しかし、このやり方には難がある。というのも考えて頂きたい、「青い目をした諜報員」が日本の巷をうろうろしたのでは、余りにも目立ちすぎてしまうからだ。もちろんアジア系の米国人を派遣するという手もあるが、相手が無防備な日本ならまだしも、巧妙な手段で米国籍を取得した二重スパイである可能性があることを考えると、これでも全く問題が無いというわけではない。
そこで第2の手段はどうかということになるわけだが、これはこれで問題がある。なぜなら、そもそも「米国」という国家に対して忠誠心があるかどうかが疑問である上、米国勢以上のインセンティヴを支払う集団・組織・国家があればそちらになびいてしまう危険性は十二分にあるからだ。したがってこの手段はあくまでも時限付きで行うべきものなのかもしれない。
その結果、たどり着くのが3番目の方法ということになる。そしてその典型例が、実はいわゆるWEB2.0、あるいは最近のWEB3.0なのである。例えばWEB2.0の例としてブログの例を挙げてみよう。一時に比べれば下火になったものの、日本人は放っておいても、個人情報満載のブログを毎日毎日書いてくれるのである。それを海の向こう側から「検索」すれば、たいていの場合はターゲットとした特定の日本人に関する情報は“無料”で集まってしまう。何事にも「効率性」「経済性」が国家運営において強く求められる今日、米系インテリジェンス機関にとってこれほどまでに好都合なツールはないというべきだろう。逆に彼らからターゲットにされる各国勢からすれば、最も好ましくないツールなのであって、あの手この手でWEB2.0以上を正当化し、普及させようとする米国勢には時に怒りの礫(れき)を投げるようになるというわけなのである。
Facebookを攻撃し始めたドイツ勢
こうした観点でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。
ドイツ勢の中でもハンブルク市の個人情報保護当局が突然、米系インターネット関連企業の雄であり、SNSサイトの典型である「Facebook」を運営する企業に対し、違法な手段で個人情報を集積しているとして「提訴」したというのである。同社の側も既に訴状を受け取ったことを認めており、迅速に善処することを表明しているのだという(8日付シンガポール「ストレーツ・タイムズ」参照)。日本勢の中でも非常に有名な「Facebook」であるが、米欧勢の“角逐(かくちく)”が続く中、実はその渦中に置かれていることをご存じない読者の方々も多数いらっしゃるのではないだろうか。しかし、これはあくまでも「現実」なのだ。私たちが何気なく使っているWEB2.0が、実は情報漏洩という観点からは極めて危険であることを、ドイツ勢は法的手段をもって示しているということも出来るだろう。
もっともこうしたドイツ勢による動きを、単に一民間企業に対するものであると考えると、物事の本質を見失う可能性があるような気がしてならない。なぜなら、ドイツ勢は当局より米系最大手検索サイト「Google」に対しても、同様の非難を行ってきた経緯があるからだ。つまりドイツ勢は、ここに来て急激に米国勢が仕掛けてくるインターネット攻勢に対し、「個人情報保護」を盾に待ったをかけている感があるわけなのである。
一方、やや視野を広げてみると米国勢は欧州勢、とりわけドイツ勢と日本を含む各国のマーケットにおいて、熾烈(しれつ)な闘争を繰り広げてきた経緯がある。その様子はまさに「米独戦争」と呼ぶにふさわしいものであったわけだが、そこで常に焦点となってきたのが、金融マーケットの根幹というべき「情報」なのであった。確かに、私たちとは異なり、ドイツ人もいわば「青い目」をしており、米国人とはその意味で区別がつきにくいと言えなくもない。しかし、ドイツ勢には「ドイツ語」という言語の防御壁があり、情報収集で上記に示した3つの手段でいえば、第1番目の手法を用いるとどうしても目立ってしまうという難点を米系インテリジェンス機関は抱えてきた。それが証拠に第二次世界大戦直後より、戦勝国・米国勢は敗戦国・ドイツ勢がナチス時代から育成してきたスパイ網を活用し、現在のドイツ連邦諜報庁(=米中央情報局(CIA)に相当)を育成してきたのである。そうである以上、遠隔操作で、しかも自動翻訳ソフトを用いればこの「言語の防御壁」すら、やすやすと乗り越えることのできるインターネットによる対独情報収集ほど、米国勢にとって魅力的なものはないに違いない。
しかし、ここで問題となるのが、無邪気な日本勢と同様に、ドイツ勢も果たして日常的にインターネット上へ「個人情報」をまたぞろ書いてくれるかどうかなのである。そこでWEB2.0が登場するわけなのであって、逆にいえば迎え撃つドイツ勢としても米系インターネット関連企業でWEB2.0、あるいはそれと密接不可分な関係にあるものについては厳しい目で監視をし、必要があれば「法的措置」すら講じるべしということになってくる。――つまり、「米独戦争」はWEBの世界においていよいよ燃え盛っている可能性があるというわけなのだ。
これから何が起きるのか?
この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で米欧勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は7月23日(金)、24日(土)、25日(日)にそれぞれ神戸、大阪、名古屋、そして8月7日(土)、8日(日)に東京、横浜にて開催する「IISIAスクール」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。
日本勢の中ではほとんど語られていないことであるが、実のところ、2005年頃より米国勢の中でもエスタブリッシュメント層に近づけば近づくほど、インターネットは日常的な通信手段としては用いられなくなりつつあることをご存じだろうか。いや、もっといえば携帯電話ですら、必要最小限で会話をし、ごく短時間で切る、ということがマナーとなっている感がある。なぜか?その理由は簡単だ。――金融メルトダウンがいよいよ“最終局面”に到達しつつある中、米国勢の中では熾烈な勢力争いが始まっており、相互にインテリジェンス機関を巻き込みつつ、諜報戦が国内であっても繰り広げられてきているからだ。そのような中、無邪気に電子メールで「今日の予定」「待ち合わせ場所」を書いたり、あるいは盗聴可能な携帯電話を用いた会話の中で個人情報をしゃべったりすることなど、しかるべき立場にある人間であればあるほど、「控えるべき行為」となってきているというわけなのである。
しかし、ここで疑問が一つ浮かんでくる。「では米国勢の中でも統治階級というべきエスタブリッシュメント層たちは一体、どのようにしてコミュニケーションをとっているのだろうか」と。私は“その答え”が、意外にも相当程度プリミティヴ(原始的)なところであり、同時に極めて“限られた者”だけに許された形で用意されているのではないかと考えている。よくよく考えてみれば、この“答え”を即座に理解出来るものだけが、長期化する金融メルトダウンの中で「生き残り」を可能にすることが出来てきたのである。なぜなら、拡大し続けるWEBの世界にあふれる金融情報に翻弄されれば、その分混乱し、金融メルトダウンの中で損失を拡大するリスクが大きくなり続けてきたからだ。逆にいえば、WEBに対して過度に依存しない形で生活の根幹を立て直した者だけが、情報の洪水におぼれることなく、金融メルトダウンの中でも着実に富を拡大し、あるいはその規模を維持し続けてこられたのである。この意味でWEB2.0を忌避(きひ)し始めたドイツ勢もまた、“そちらの方向”へと自らの社会を導こうとしているのかもしれない。――WEBが張り巡らされ、しかし意味ある人々はWEBを用いない世界へと。
金融メルトダウンの向こう側にある世界は、この意味で「“答え”を知るが故にWEBすら用いない者」と「“答え”を理解できず、だからこそWEBに依存してもらう者」が完全に二極化されてしまう世界なのかもしれない。さて、果たして読者の皆さんはこのどちらであろうか?
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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