『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

鳩山政権成立でジャパン・マネーは海外逃避?

日本の「リベラル」回帰で民主党が政権獲得

8月30日に行われた第45回衆議院総選挙は、マス・メディアの予想通りに、民主党が大勝する結果となった。


民主党が、一つの政党が獲得した議席として戦後最多となる、308議席を獲得して圧勝。政権交代が実現することとなった。自民党は、細川・羽田政権を除くと、1955年の結党後初めて政権の座から降りることとなる。個々の候補者の当落状況をみると、自民党の有力議員が軒並み落選する一方で、民主党は新人議員が大量に当選するという、ある意味国会議員の“新陳代謝”が図られた観がある。


議会制民主主義の国であれば、政権交代は「当たり前」としばしば語られる。しかし日本では、50年以上にもわたって保守系の自民党が政権を握り続けるという事態が続いていた。そのため、国内外のマス・メディアは今回の「政権交代」をとらえて、日本の議会制民主主義がようやく「普通」に機能し始めたというかのような報道を行っている。そのため政権交代の内実、つまりはその政策面で見た昨今の意義はいささか捉えづらくなっている。しかし、一言でいってしまえば、それはいわゆる「リベラル」回帰であろう。


民主党は自民党に比して「リベラル色」が強く、ともすると「社会民主主義的」な色合いすら漂わせている。今回の選挙は「政権交代」が焦点となっていたが、その内実は「保守」からリベラル色の「社会民主主義」への転換とも考えることもできよう。

「不満足の夏」がいよいよ首をもたげる

このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が、地球の裏側から飛び込んできた。


日本では衆議院総選挙の投開票が行われた8月30日、地球の裏側にあるドイツのザールラント州、及びチューリンゲン州でも州議会選挙が行われた。その選挙では、連邦政府のメルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)がいずれも与党第一党の座を維持したものの、大幅に議席を減らし、大敗したのである(同日付 独ドイチェ・ヴェレ参照)。背景としては、CDUによる長期政権に対する批判の噴出がある。一方、左翼各党が躍進したが、今回の両州選挙は9月27日に実施されるドイツ連邦議会総選挙の前哨戦とみられていただけに、欧州議会選挙で最大票を獲得したCDUを率いるメルケル首相に大きなショックを与えたことは間違いない。中道右派の保守政党とされるCDUの地方レヴェルでの退潮に伴い、「リベラル色」の強い左翼党がそれに乗じて連邦議会選挙を有利に進めることになる推測が出てきている。


視点をより大きくとると、次のように言えよう。――1989年の「ベルリンの壁崩壊」、そして、東西ドイツ統一以降、米欧系の“越境する投資主体”たちの資金がドイツ国内へ大量に流入していた。しかし、リーマン・ショックを契機とする“金融メルトダウン”によりその資金流入が途切れ、経済成長の恩恵を享受できなくなったドイツ国民の間で与党CDUに対して不満が蔓延するという事態、つまり「不満足の夏(summer of discontent)」が今回の州議会選挙の与党敗北という結果をもたらしたといえよう。


「不満足の夏」は何もドイツだけで語られるわけではない。よりひどい状況になっている英国をはじめ、欧州全域に広がる大きな現象である。こうしたリベラルへの回帰は、日本、米国、ドイツだけにとどまらず、“金融メルトダウン”が引き起こした世界的な潮流となっているのだ。

鳩山政権成立でジャパン・マネーは海外逃避?

このように“金融メルトダウン”による「リベラル」への回帰という “潮目”を含め、激動の世界を巡る情勢について私は、来る9月6日に横浜で、10日に東京(国立・日本橋)で、12日に大阪で、そして13日に名古屋でそれぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」でお話する予定だ。関心を持たれた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。


ちなみに、次期首相となる鳩山氏は国債発行について「(今年度よりも)増やさない。増やしたら国家が保たない」とテレビ等で発言している(8月23日付産経新聞参照)。一方で、公約には月額2万6,000円の「子ども手当」など、財政負担を伴う政策がふんだんに盛り込まれている。その財源については税金の「ムダ遣い」の是正や公務員給与の削減、更には「埋蔵金」の活用を挙げている。しかし“金融メルトダウン”の波にさらわれ景気低迷にあえぐ今日の日本の状況に鑑みると、税収が減少し、こうした民主党が語る「財源」だけでは賄えない可能性は充分ある。それでも国債発行を抑制する代わりに所得格差の是正を声高に主張してきた民主党の「リベラル」色が強まるならば、ついには高額所得者への課税が強化される可能性も考えられよう。そうなると、今すぐにではなくとも、ついには日本人高額所得者の海外への逃避、つまり「キャピタル・フライト」に至るという最悪な事態も想定しておかなければならない(もっとも、安定した「日本円」を求めて昨冬からますます米欧系の“越境する投資主体”が続々と日本を目指しているのとは好対照だが)。それでは高額負担を回避すべく逃げ出す虎の子のジャパン・マネーは一体どこへ向かうのか?――日本金融マーケットに依然として混沌状況が続くことは必至で、日本の個人投資家・ビジネスマンは民主党政権が打ち出す経済政策から見える“潮目”を逃さず、しっかりとウォッチしていくことが必須な展開となってきている。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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