『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

揺れる「商業銀行」というビジネスモデルの向こうに見えるもの

ヘッジファンド、投資銀行、そして…「商業銀行」

去る5月7日、全米で19の主要商業銀行を対象とするストレステストの結果が発表された。それによると、19の商業銀行のうち10行が、2010年に資金不足に陥る可能性が指摘されている。そして、これら10行には、日本円にして総額約7兆4,000億円分もの資本増強が要求された。同日のダウ平均株価は102ドルの下落を記録する一方、「これで膿(うみ)出しは済んだ」といわんばかりの声も上がっている。


だが、ことはそう単純ではない。今回の件を単独ではなく、金融メルトダウンの一連の流れの中で捉えるならば、「ヘッジファンド」「投資銀行」に続き、「商業銀行」というビジネス・モデル自体が1つの転機を迎えているという、より慎重な考察を要する事態が浮かび上がってくるのである。


我が研究所は昨年(2008年)4月頃より、公開の媒体(ブログ、メルマガ等)を通じて次のような分析を読者の方々に提示してきた。「米系“越境する投資主体”の雄である投資銀行は、まもなくその姿を消すことであろう。なぜなら、金融システムの世界史的な大転換の中で、直近までのその最先端の担い手であった彼らこそ、金融メルトダウンの元凶であることが明らかとなってくるからである」 。


当時、こうした“警告”について、我が研究所の熱心なクライアントの皆さんですら、「まさか」と信じられなかったようである。しかし、その後、事態は着実にそちらの方向へと進んでいったことはご存知のとおりだ。2008年9月の「リーマン・ショック」以後、世界有数の“越境する投資主体”である2つの投資銀行までもがその存続を脅かされ、結局は銀行持ち株会社への移行、つまりは「投資銀行」というビジネスモデルの放棄へと追い込まれた。そのことは、大手メディアによる報道を通じて公知の事実となっているのではないかと思う。


しかし、そうした大手メディアの報道の中では決して語られないものの、マーケットの猛者たちが当時からいち早く「もはやIF(もしも)の問題ではない」と考えていたポイントが1つあった。それこそが、「これからのマーケットで生じる金融メルトダウンの中で“主役”となるのは、もはや投資銀行ではない」という見解だったのである。では、その代わりに舞台の中央へと飛び出してくるものは一体なにか。――答えは「米系の商業銀行」であった。


なぜそうなるのか、想定される仕掛けについての説明は各人各様だ。これから崩落していく米国経済の中で、根幹を為すセクターに引きずられるという説明がある。また、それを待たずして、そもそも抱えている巨大な損失が露呈するという見方もある。ただ、1つだけ言えるのは、これらマーケットの猛者たちによる見解には共通点があるということだ。それは、「これからは米系商業銀行こそが崩落していく」という読みなのである。 そしてその読みは、現在、海の向こうで展開している事態によってまさに裏書きされていると言える。

戦前日本の銀行制度を想起する

ここで思い出されるのが、1929年から始まる金融恐慌、そして昭和恐慌の中で、日本でも「銀行セクター」がヤリ玉に挙げられたという点である。しかも、国内における取り付け騒ぎで問題になったというだけではない。そもそも当時からして、日本の銀行制度は時代遅れであるという指摘が英米勢よりしきりになされており、それが実際、日本経済崩落の要因となったのである。


この点について、今、私の手元にある本(高橋亀吉他『昭和金融恐慌史』講談社学術文庫)をひも解くと、英国の有名紙「マンチェスター・ガーディアン」が日本の銀行システムを評して、次のように述べていたとの指摘にぶつかる。


「結局、日本の銀行整理がますます重要となるに違いない。日本は驚くべき経済発展を成し遂げたにもかかわらず、その銀行制度は半世紀も遅れて、現代の発達した産業界には不適当なものとなっている」 。


明治維新の当初、日本には西洋流の「銀行制度」は無かった。明治政府は立法を行うことで銀行設立を在野に呼びかけるが、なかなかうまくいかない。それがようやく実ったのは、かつてのサムライたちに対して手切れ金として渡していた「秩禄公債」があったからである。彼らは、そうした秩禄公債を資本金として積み立て、日本各地で雨後の竹の子のように銀行を作り始めたのである。その数は数千にも及び、かえって政府が「これ以上の銀行設立は認めない」と命ずるほどだったのだという。


しかし、こうしたきっかけで設立された銀行たち、特に財閥系ではなく、地方における銀行は、そもそも成り立ちからして「在地豪族の、在地豪族による、在地豪族のための銀行」とでも言えるものであった。そのため、危機に際してこれに対処するための仕組みすら持っていない場合が多く、その脆(ぜい)弱性が英国勢をして先ほどのような批判へと駆り立てる有様だったのである。


これに対し、時代は一気に下って、現代日本。国富1,400兆円とも言われた日本の銀行セクターが、ファンドや投資銀行といった直接金融上の“越境する投資主体”とは一線を画する形での経営手法を堅持した結果、世界でもっとも注目される存在の1つになっている。そのことは、読者の皆様もご存じのとおりである。


一方、米英勢はと言えば、一時は自国における金融セクターの“先進性”を喧伝していたものの、今や虫の息である。――「歴史の皮肉(Ironie der Geschichte)」とはまさにこのことであろう。

世界史の新たな一ページが開かれる時

こうした論点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その背景にありながら私たち=日本の個人投資家が知ることのなかった歴史上の“真実”について、私は去る4月24日に上梓したばかりの拙著『計画破産国家アメリカの罠――そして世界の救世主となる日本』(講談社)の中で詳細に論じている。読者諸賢には、ぜひ1度手に取っていただきたい。


やれ「時代遅れだ」「コーポレート・ガヴァナンスが足りない」などと米欧勢から尻を叩かれ続けたものの、結局は時代の寵(ちょう)児となりつつあるのが日本、しかもその金融セクターなのである。だが、「ようやく日本の時代がやってきた」などとあぐらをかいていてはならないだろう。これから訪れる世界史の新しい1ページは、まさに“航海図無き海路”なのである。誰もお手本はいない。見回すと自分しか、マーケットの中で生き残っていない。すなわち、自分自身で考えるしかないという状況に、日本の金融セクターは言うに及ばず、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマン、いやもっといえば、日本社会全体が飲み込まれるのである。


「日本にはもっと何かが出来るはずだ」
「日本にヴィジョンを示して欲しい」


私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンが知らないところで、実は密かにそうした熱望が世界中で高まっている。そこで一体何を語り、何を訴え、そして何を動かしていくのか。――私たち=日本人ひとりひとりの能力がかつてないほどのレベルで問われる日が、もうすぐそこにまでやってきている。ちなみにこの問いに関する我が研究所なりの「答え」は、5月23日、24日に東京、大阪でそれぞれ開催する「新刊記念講演会」にてお話する予定だ。2009年以降の日本と日本人のあるべき姿に関心を持たれた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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