『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

米国勢に狙われた日本の保険セクターに未来はあるのか?

続々と海外におびき出される日本の保険会社たち

金融メルトダウンが進む中、ここに来て鳴り物入りの再編・統合を繰り返しているセクターがある。それは日本の保険業界だ。


なぜ今、再編・統合なのか。――その理由は1つ、彼らが大量に保有している米国債にある。“CHANGE(変革)”を掲げ、鳴り物入りで登場したオバマ米政権。その実態はというと、戦後に蓄積されてきた莫大な公的債務にあえぐばかりであり、全く身動きがとれずにいる。内政面での得点がなかなか稼げない中、焦るオバマ大統領はイランやアフガニスタンといった外交問題での得点を狙っている。しかし、そこでの急激な方針転換は「節操の無さ」を露呈させる結果に終わってしまっている。


このコラムでも繰り返し述べてきたが、オバマ大統領として本気で“CHANGE(変革)”を目指すというのであれば、もはやいったんご破算にする、すなわちデフォルト(国家債務不履行)しか手段はないのである。しかし、そうなると当然、世界中で米国債をこれまで大量に買い込んできた当事者たちが一斉にしわ寄せを食うことになる。そこで犠牲者の筆頭格となるのが、実は日本の保険業界なのである。


「このままではジリ貧だ。まずは再編・統合で体力増強を図るとしても、最終的には何らかの手段に打って出て、それでもっと稼がなくては」。


そう焦る日本の保険セクターは、一見したところ暴落して“安値”になっているかのように見える海外の保険会社たちを買収し、盛んに海の向こうのマーケットに飛び出し始めている。その主たるターゲットとなっているのが、米国、中国、そして東南アジアだ。戦後60年余り、貯金の積立と並んできっちりと保険料を払ってきた日本人たち。それによって大量の内部留保を密かに抱えている日本の保険セクターは、「今が買い」とばかりに海外での勝負に打って出ている。――しかし、果たしてそこに“罠”はないのか?

米国勢による本当の狙いは保険セクター

そのような中、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、ここにきて1つの気になる情報が飛び込んできた。


米国の連邦議会には専属のシンクタンク「連邦議会調査局(CRS)」がある。このCRSが今年4月3日付で調査レポート「グローバルな金融危機:分析と政策面での示唆」を発表したことが話題を呼んでいる。


CRSは米連邦議会という公的機関の付属研究所であるにもかかわらず、自らのレポートを一般には広く公開していない。そのため、納税者である米国民たちからの批判を絶えず浴びている。しかし広く公開されていない分、そのレポートの内容、さらにはそれが刊行されるタイミングを仔細に追うと、「米国勢が今、何を考えているのか」を分析するのに際して有力な材料となる。もっともその内容は、たいていの場合、非常に平板であるかのように見えるものだ。タテマエ上は「連邦議会で議員の方々が議論を行われるに際し、参考になりますように」といったスタンスであり、事実の単なる羅列であるかのように見えるものも少なくない。しかし、公開情報インテリジェンス(OSINT)の視点からいうと、正にそこが真骨頂なのである。――「雄弁な資料ではなく、むしろ無味乾燥なドキュメントに何気なくかかれているメッセージにこそ、それを書いた者の真意が宿っている」のだ。単なるファクツの記述であるかのように見える部分は、むしろそれを気付かせないためのカムフラージュにすぎないことがままある。その中でもなお「真意」を読み解いていくことに、OSINTの醍醐味があるといっても過言ではない。


その観点から見た時、4月3日に出されたこのCRSレポートには、次のような趣旨の記述があることに気付くのだ。


「今回の危機で国際通貨基金(IMF)は復活したが、IMFは未だ特定の問題に対する解決を行うには至っていない。この絡みでは、資本適正や安定性を管理するバーゼルIIの取り決めを行った国際決済銀行(BIS)のような機関は確かにある。しかし、金融危機が体系的なものとなり、証券会社や保険会社、さらには銀行を含んでいる場合には、こういった資本適正にのみ焦点をあてた機関は不十分なのである」


やや複雑な言い回しではあるが、要するにこういうことだ。――銀行セクターについては、悪名高き「自己資本比率を巡る規制」があり、その音頭をBISがとっているから良い。しかし、保険や証券といったセクターについては、そうした規制がない。これが問題なのであって、もっと包括的な規制とそれを行う機関が必要なのではないか。


ここで「自己資本比率を巡る規制」といって真っ先に思い出されるのは、哀れな日本の銀行セクターの姿である。1980年代後半以降、国際業務を行うためには「自己資本比率を巡る規制」を守らなければならなかった。そのうえ株価が強烈に下がっていくことで財務状況が悪くなりすぎ、再編・統合、ひいては外資勢によるM&Aを甘んじて受けざるを得なくなったのである。


一方、現在の日本の保険セクターは前述した通り、盛んに海外業務へと進出している。そのような中で、こうしたBIS規制なみのルールを課されたとすればどうなるだろうか。さらに、仮にそのタイミングで米国がデフォルト(国家債務不履行)を宣言し、そのあおりで日本の保険セクターが持ち合い株として保有している株式の株価が大暴落するといった事態が重なった場合を想定してみるとどうか。銀行セクターが「かつて通った道」が、今度は保険セクターの行く末に沿ってくっきりと見えてくるということはないだろうか。

間もなく訪れる本当の「潮目」を知る

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢(とりわけ米国勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオ)”について、私は5月9日、10日に東京、名古屋、そして5月23日、24日に東京、大阪でそれぞれ開催する「新刊記念講演会」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きはぜひともお集まりいただければ幸いである。


さて、かつて生じた平成バブルが崩壊した際、私たち=日本人は口ぐちにささやき合ったものだ。「“日本はすごい”“ジャパン・アズ・ナンバーワンだ”とかおだてられ、米国の不動産など、海外での買い物を繰り返したものの、結局は高値で買わされ、安値で買いたたかれたに過ぎなかったではないか。もう2度と、こうした愚かな振る舞いを繰り返すべきではない」。あれから20年近くが経過した今、果たしてどうだろうか?私たち=日本人は成長しているのだろうか?


一方では海外に“雄飛”し、虎の子の人材たちを続々と外国へと派遣し続けている日本の保険セクター。他方で米国勢はというと、明らかにそれをターゲットとした“次なるビジネス・モデル”を金融マーケットの中で描きつつある。


米国勢は決して死んでなどはいない。正確に言うと「死んだふり」をしているに過ぎず、金融メルトダウンはそのための巨大な書き割りに過ぎないのだ。そのことを知り、間もなく生じるであろう本当の「潮目」を悟る能力=情報リテラシーを研ぎ澄ませる努力が必要だ。それを怠らない日本の個人投資家・ビジネスマンだけが、次なる時代に向け本当の雄飛を遂げることができるのである。米CRSレポートにわずかばかり書かれた一文は、そのことをくっきりと私たちに教えてくれている。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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狙われた日華の金塊

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