『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

日銀が踏み切った「危険な政策」とは?金融政策に見るマネーの潮目

“慎重居士”の日銀、ついに英断を?

今月22〜23日にかけて、日銀政策決定会合が行われた。これを受けて23日に議事結果「当面の金融政策運営について」が公表され、米国債などの外貨建て債券を、金融機関に対する資金供給の担保に加えることとなった。これにより、金融機関が保有する米国債などを使って、日銀から円資金を調達できるようになった。そして、外国金融機関の日本支店などを中心に、資金調達の安定性が高まる効果があるとみられている。


日銀はリーマン・ショック直後、金融危機に対して楽観的な見通しを抱いていたのであろうか、もしくは意図的にか、即座に政策を打とうとしなかった。しかし、2008年の末以降、様々な政策を矢継ぎ早に打ち出すようになった。それこそ、金融政策マニアと呼ばれ“慎重居士(しんちょうこじ)”である白川日銀総裁が心変わりしたのではないかと思われるくらいの、大胆な政策に打って出るようになったのである。


果たしてこの「変身」は、いったいどういうことであろうか。また、本当に今まで“慎重居士”だった日銀が変身したのであろうか。我が研究所は2008年の4月より、ブログやメルマガなどを通じて、次のような分析を提示してきた。「米欧勢を中心にハイパー・インフレーションへの展開へと進み、各国がゼロ金利に踏み切れば、利子を前提とする従来型の金融ビジネスは結果として立ち行かなくなる可能性がある」。


当初、こうした分析に対しては、我が研究所の熱心なクライアントの皆様でさえ、「本当か?」とにわかに信じられないという声をあげていたようである。しかしながら、その後、こうした事態が着実に進行したのはご存じの通りだ。


2008年9月の「リーマン・ショック」以降、世界有数の“越境する投資主体”であるゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの2大投資銀行でさえもその存続が脅かされ、最終的に銀行持株会社への移行、つまり「投資銀行」というビジネス・モデルを放棄せざるを得なくなった。そのことは、大きく報じられてきたところである。

果たしてうまくいくのか、お手並み拝見!

さて、この度の日銀の新たな政策は、外債投資で毀損した国内金融機関の救済が主な目的であると読み取れる。しかし、どの程度効果が出るかというと、現時点では判断しかねる。というのは、外債購入を無制限に行うことは考え難く、何らかの制限(例えば“トリプルA”)を設けることとなろうからだ。(もっともこうした格付けは、サブプライム問題ではあてにならない、いい加減なものだと明らかになった。)高格付けの債券に制限されれば、国内の債券買入れがうまくいっていないように、今回の新たなオペレーションも効果を発揮し得ない可能性が高い。


さらに付け加えるならば、日銀が1月末から始めたコマーシャルペーパー(CP)買入により、企業が発行する際のCP金利は2月後半から急速に低下し、ついには短期国債を下回るなど絶大な効果をもたらした。しかし、仮に日本経済の根幹を支える製造業のCPが買い進まれていなければ、実業への資金供給が進んでいないことを意味し、実体経済への波及は限定的であろう。


また、海外の投資家が、日本の金融機関への外債売りつけを促進させる可能性も潜んでいる。こうした動きが加速すると、外債購入に用いる外国通貨(米ドル、ユーロ)の調達=円売りが加速し、円安方向に向かうと想定される。さらに、マーケットで円資金がダブつくことになり、短期金利の一段の低下が想定される。


他方、日銀は円のダブつきによるインフレーションを伝統的に嫌っているため、日本国債売りオペ(不胎化介入)などで、円資金をマーケットから引き揚げるオペレーションを打つ可能性も考えられる。


こうしたリスクの高い外債は、国際政治、国際金融経済情勢の急変で急落するおそれや、最悪のケースでは「デフォルト」に至る可能性を抱えている。そのような事態に陥ると、日銀が特に重視している「バランスシート(B/S)」を毀損(きそん)することとなり、日銀執行部、ひいては総裁の責任論が噴出する恐れもあり得る。これらを踏まえて、本当に日銀が「変身」したのかどうかを今後注意してみるべきであろう。

米欧金融界に足下をみられる日本

今般、日銀がこうした「危険な政策」に踏み切ったのは一体どういう背景があるのか。目を米欧の中央銀行の金融政策に転じてみると、今回の「外債購入」という政策はあまり見当たらない。いわば、“慎重居士”の日銀が嚆矢(こうし)を放ったという意味では評価できるが、米欧の中央銀行がここまでのリスクを取っていないのは、不思議に感じられる。


FRB(米連邦準備制度理事会)は、リーマン・ショック以降、米国債の大量購入によりマネタリーベースを2倍以上に拡大させてきた。また、ECB(欧州中央銀行)は7日、主要政策金利を25ベーシスポイント引き下げて1.00%とした。そのうえでユーロ圏の企業が発行したカバードボンドの買い入れを決定したほか、銀行への資金供給では、期間をこれまでの倍の最大12ヶ月にするなど、「非伝統的措置」をとることを決定した。


米欧の中央銀行は金融政策を出し尽くした観があるが、日銀に「非伝統的な金融政策」や「よりリスクの高い金融政策」を自分たちよりも先に取らせることで、高みの見物をしようとしているという見方もできよう。また、本来外債は、その発行元の国の通貨当局が購入するべきものであるにも関わらず、日銀にリスクの高い債券を引き取らせようとする米欧のしたたかな企みも隠されているのではないかと考えられる。


一方、日銀には、FRB、BOE(英国中央銀行)、IMF(国際通貨基金)などの外国公的機関に出向しているだけでなく、米国大学への「留学組」が存在している。そういう職員が、米欧中央銀行の幹部だけでなく、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの2大投資銀行と親密な繋がりを形成しているのだ。それらのことを鑑みると、日銀側にも「外資系金融機関の救済」という下心が隠されている可能性もあり得る。


米欧の企みや職員の下心により、日銀のバランスシートに損失を与えるようなことになれば、最終的に日本国民の税金の補填という事態を招きかねない。日本国の経済成長という国益を考えるならば、日銀は外債購入よりも、むしろ国内中小製造業の社債を直接購入することなどで、中小企業という“田畑”に直接水をまくシステムを構築すべきであると考える。もっとも、こうしたシステム構築には労力を要するため、日銀は消極的であろう。結局、日本は“ぼったくり”にあう羽目になるのではないか。

新しい時代を読む鍵

日本は、これまで外交だけでなく、金融セクターでも“苦渋”をなめさせられてきた。そのことは、我が研究所の公開の媒体(ブログ、メルマガなど)だけでなく、拙著『騙すアメリカ 騙される日本』(ちくま新書)においても、詳細に論じている。そしてその「騙すアメリカ」による最新版(それも世界を巻き込んだ最大級)の罠については、最新刊の『計画破産国家アメリカの罠――そして世界の救世主となる日本』(講談社)を参考にしていただきたい。


日本の金融機関は、バブル崩壊以降の金融再編の中で、BISの自己資本率規制によって国際金融の展開を阻まれてきた。さらには「金融ビック・バン」と銘打って、「日本の金融機関はグローバル・スタンダードに合っていない」などと米欧勢から茶々を入れられてきた。それにもかかわらず、最終的に“ネオ・ヘイヴン”となりつつあるのが日本の金融セクターなのである。


しかし、「やっと日本の時代がやってきた」と油断してはならない。これから到来する世界史の新しい1ページは、“不確実性”に満ちている。米欧はもうあてにはならない。また、既存の体質を引きずった金融機関は取り残され、すでに時代遅れといった感がする。何を拠り所にすればいいのか分からないのだ。結局、動乱する国際金融マーケットの中で、自らの判断で行動せざるを得ない事態に、日本の金融セクターだけでなく、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマン、ひいては日本国全体が直面しているのである。


今、「日本のとるべき道は何なのか?」「日本の行く末はどうなるのか?」という未来の指針への渇望が、日本の投資家・ビジネスマンに満ち溢れているのではないだろうか。


そこで一体何を語り、何を訴え、そして何を動かしていくのか。――私たち=日本人一人ひとりの「鼎の軽重(かなえのけいちょう)」が問われる大きな“潮目”が、すぐそこにまでやってきている。ちなみに、この問いに関する我が研究所の「答え」は、6月6日、7日に東京、横浜でそれぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」にて言及する予定だ。2009年以降の我が国と日本人のなすべき行動に関心を抱いた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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