『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

先送りされた米国デフォルトとその先にある“潮目”

「デフォルト・ビジネス」とは何か?

世間には様々なビジネスがあるが、その中の一つに「デフォルト・ビジネス」がある。デフォルト、すなわち「国家による債務不履行」が間もなく生ずると叫ぶことによって当該国のマーケットより資金を避難させ、“よりマシなマーケット”と称する場所での金融商品の売買へといたいけな客を誘う商売のことを指す。このコラムを読んでいる皆さんの脳裏には、そう言われて複数の「経済評論家」たちの名前が浮かび上がってきたのではないかと思う。


1990年代初頭に続々と登場した彼らが展開する議論には一定のメルクマール(特徴)がある。試しにそれを列挙するならば次のとおりとなるだろう。


もっともポピュラーなのが、「日本はほどなくしてデフォルトになる。だから海外に投資せよ」と叫ぶもの。いかにももっともらしい議論を展開するので、聞いている方はついつい見も知らぬ、しかし“安全”とされる海外の高額金融商品に手を出してしまう。


ただし、単に海外の金融商品への勧誘だけではやがて“拝金主義”といった批判を免れなくなるので、ここで捻りを加える必要がある。往々にしてそれは余りにも感情的な「愛国主義」「排外主義」といった形を取る。曰く、「私は日本という国を守りたい。しかし、あざとい外国人たちが美しい国・日本の富を虎視眈々と狙っている。だからデフォルトになる前に、しっかりとそれを海外に移し、増やさなければならないのだ」。


よくよく考えてみれば“なぜ外国勢から貶められそうになっている日本からわざわざ海外へと資産を移す必要があるのか”という疑問が生じてきそうなものだが、ここでもう一つの捻りがある。それは、こうしたデフォルト・ビジネスを展開する自称「経済評論家」たちは決まって“断言調”の言葉でいたいけな客たちを誘うという点だ。人間とは悲しいもので、世間はそれほど単純なものではないと分かっていても、ついつい“分かりやすいもの”“ズバリといってくれるもの”に頼ってしまうクセがある。


「日本はデフォルトになる、預金封鎖になる」と叫んでは、海外のヘッジファンド等への投資を勧誘するこうした御仁たちが後を絶たない中、現下の金融メルトダウンにもかかわらず生き残ってきた個人投資家・ビジネスマンたちはいずれも“情報リテラシー”を身につけ始めている。もはや騙されない彼らの姿を見て、さしものデフォルト・ビジネス紳士たちも続々とその主張を変え始めたようだ。しかし、ある時は日本がデフォルトになるという“時期”をずらしてみたり、あるいは「日本株こそ投資先として適当だ」と根拠なく叫ぶ御仁たちの断末魔にもう騙されてはならない。そして繰り返し申し上げておきたい。――単純な議論を展開する者は、読者を罠に陥れる悪魔である。絶対に信じて、
動いてはならない。

先送りされた米国デフォルト

そのような中、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、ここにきて一つの気になる情報が飛び込んできた。


去る24日、クリスマス・イヴだというのに開催された米連邦議会上院で、懸案であった連邦レヴェルにおける財政赤字の“上限枠”に関する引き上げが決議されたというのである。引き上げられた金額は約2,900億ドル。これで総額約12.4兆ドルが「上限」ということになった(12月24日付 米国ザ・ヒル・ドット・コム参照)。


「所詮、形式的に決められた上限枠なのだろう。大した意味など無いのではないか」――そう思われるかもしれない。しかし、侮ることなかれ。実際にはここでいう“上限枠”が引き上げられないと、これまで発行した米国債(既発債)の償還をこれから発行する米国債(新発債)によって賄うことができず、米国勢は支払い不能に陥ってしまうのだ。そう、これがデフォルト(国家債務不履行)である。だが、とにもかくにも今回、上限枠の引き上げは小幅ながらも実現した。その限りにおいて米国勢によるデフォルト(国家債務不履行)は遠のいたかのように見える。


こう述べると必ずや読者の方々から次のような声が聞こえてきそうだ。「原田武夫も上記の御仁たちと同じくデフォルト・ビジネスに入ったのか?“デフォルトになるぞ”と叫ぶオオカミ少年によって一体、何をいたいけな読者たちに勧めようというのか」。


率直に申し上げよう。私が申し上げるのはいわゆる「デフォルト・ビジネス」のためでは全く無い。私の率いる研究所が行っているのは“情報リテラシー”教育だ。そして私たちが考えるに、“情報リテラシー”とはインターネット上にあふれる公開情報をどのように集め、読み解いていくのかという要素(OpenSource Intelligence)と、そうやって読み解いた情報を用いてあり得べき将来に向けたシナリオをつくっていくという要素(シナリオ・プランニング)から成る。そして公開情報上、とりわけ日本の大手メディアが一切報じない上記のような事情からは、明らかに一つのあり得べき展開可能性として米国勢による“デフォルト(国家債務不履行)”が見えているのであって、そうなる危険性に備えを怠ってはならないというリスク・マネジメントこそ、今必要な行為なのである。


もっとも、これは「一つのあり得べき展開可能性」に過ぎないということも忘れてはならないだろう。米国勢がこれ見よがしに自らの“デフォルト(国家債務不履行)”の危険性を喧伝する背景には、明らかにそれを怖れる“越境する投資主体”たちによる米ドル離れ、米ドル売りを誘うことによって米ドル安へと誘導。これによって国外への輸出を振興しようという意図があるからだ。


つまりは、「デフォルトになる。だからこれを買えば良い」などと単純な処方箋が書けるものではない。しかし、そうだからこそ、まずは自らの手で情報を収集し、自らの頭でこれを読み解き、そして戦略にまで落としこんだところで具体的な行動へと移すことのできる能力=“情報リテラシー”を身につけることが必須なのである。デフォルト・ビジネス紳士たちにもはや騙されることなく、またこうした緊迫する国際金融情勢をチャンスに変えていくためにも必要なことは、これ以上でもこれ以下でもないのである。

激動の2010年を先読みする

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で日本マーケットを取り囲む米欧勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は、1月9日に東京で、30日に大阪で、31日に名古屋でそれぞれ開催する「IISIAスクール」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。また、来年(2010年)1月23日には今回で3回目となる恒例の「IISIA年頭講演会」を1,000名規模で東京・杉並にて開催する予定である。既に700名近い方々のご応募を頂いている。是非、お早目にお申し込み頂ければと思う。


先ほど“情報リテラシー”の真髄は「公開情報インテリジェンス」と「シナリオ・プランニング」にあると書いた。後者の観点から見て常に今後の展開可能性は複数あり、それを絶えず念頭に置きながら、前者の観点、すなわち絶えざる情報収集・分析を繰り返し、ブラッシュ・アップを図っていくべしということを意味している。


それでは米国勢が上記の様に自らの抱えるデフォルト(国家債務不履行)を完全に回避せず、この場に及んでも小幅の修正に終始した先には一体何が起こり得るのであろうか。――今回の修正によって“延命”した感のある米国勢が次に辿りつく先は実はもう見えている。それは、2010年2月という“潮目”のターゲットである。なぜなら現状のペースで財政赤字が拡大した場合、間違いなくこの段階でこの“上限枠”に達してしまうからである。そう、その瞬間に米国勢はいよいよ「真実の時(moment of truth)」を迎えることになるのだ。


絶体絶命に陥る可能性すらある米国勢。そこで彼らに打つべき手はあるのか?またそれを「打つ」気概と戦略を彼らは果たして持ち得るのか?――新春にあたり、この点についてお知りになりたい方々は是非、1月23日から始める東京・大阪・名古屋における我が研究所の「IISIA年頭講演会」に足をお運び願いたい。意欲ある聴衆として皆さんとお会いできる日を今から楽しみにさせて頂いている。

  • はてなブックマークに登録はてなブックマーク登録数
  • BuzzurlにブックマークBuzzurlブックマーク数
  • [clip!]livedoorクリップ数
トラックバック

トラックバックはまだありません。

この記事に対するTrackBackのURL:

筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

  • メディアの情報のほとんどはもう終わったこと。現実に先駆けて今後の展開を分析!≪株式≫≪為替≫≪商品≫これを聞かなければ何れも始まらない!!
  • ⇒音声教材「週刊・原田武夫」

狙われた日華の金塊

原田武夫国際戦略情報研究所公式メールマガジン

元外交官・原田武夫率いる原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)の公式メルマガ。どこでも聞けない本物のマーケットとそれを取り巻く国内外情勢分析は必見です!気になるセミナーや社会貢献事業など、IISIAの幅広い活動を毎日お伝えします。

メールアドレス: 規約に同意して