投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
突然“日本売り”を叫び始めた欧州勢の真意とは?
米欧で続く“出口戦略バブル”
ここに来て弊研究所のクライアントの方々とお話をさせていただく中で、如実に気付いたことがある。それは皆さん揃って「金融メルトダウン疲れ」とでも言うべき表情を浮かべられているということだ。
1929年から始まった大恐慌の際には、決してこうではなかっただろう。確かに「恐慌」はそれ以前でも起こっていた。しかし、何度も何度も株価が乱高下し、ついには“瓦解”へと至る大恐慌(Great Depression)は当時、すべての人にとって初めての体験だったのである。そこで世間を支配していたのは「これから何が起きるか分からない、その中で自分が何を失うか分からない」という途方もない恐怖心だったのではないだろうか。
時代は下って2009年。大恐慌から80年が経過した今、私たちはあの時とは異なり、「これから何が起こり得るのか」についておぼろげながら知っている。その結果、昨年(2008年)の“リーマン・ショック”くらいまでは「要するに空売り(ショート)だろう」と高をくくっていればよかったのである。しかし、歴史は繰り返すにしても、完全に同じペース・同じ形で繰り返しはしていないのである。何度も危機的状況が訪れてはやり過ごされ、そしてまた危機的状況が発生するという繰り返しの中で、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンの心の中にはやるせない倦怠感が澱の様に溜まってしまった。あとに残されたのは、とてつもない疲労感、いったい何によって生じたのか定かではない疲労感だけだ。
そのような中、米欧勢の中央銀行たちは昨秋以降続けてきた量的緩和策がいよいよインフレを惹起(じゃっき)しそうになっているのを恐れ、またぞろ“出口戦略”へと殺到しつつある。そこでは「景気は緩やかに回復している」と語り、取り繕うことで“出口戦略”に向かう下準備が着々となされている。しかし、実体経済にマネーはまわってはおらず、本当に「出口」を突きぬけてしまうと、実体経済が破たんしてしまう危険性すらある。そのため、マーケットにばらまかれたマネーはそのままにされたままとなり、インフレという時限爆弾が着実に炸裂へと向かいつつある。その中で溢れたマネーが行き先を求めて金融マーケットへと向かっている結果、米欧マーケットではまたぞろ「上昇」が“演出”される展開となってきているというわけだ。――正に“出口戦略バブル”の時代到来である。
突然“日本売り”を叫び始めた欧州勢
そのような中、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、ここにきて1つの気になる情報が飛び込んできた。欧州勢がここに来て突然、よりによって私たちの国=日本こそがバブル経済に直面しており、これがまもなく“炸裂”することで世界全体が奈落の底に落ちると叫び始めたのである(15日付 独国版フィナンシャル・タイムズ)。このドイツ勢による報道だけではない。同じような論調は欧州勢が抱える有力メディアのあちらこちらで見え始めている。そこで一貫して語られているメッセージはただ1つ、「日本こそ、これから金融メルトダウンの“最終局面”に向けた引き金を引き、崩壊への道を突き進むのだ」というものである。
その際に“論拠”として提示されているのが、日本における貯蓄性向の低下である。目先の景気指数が日本で良いのは、巨額の財政赤字をいとわずに、麻生太郎前政権が景気回復策を講じてきたことによる。しかし問題は「同じこと」がこのまま続けられるかだという。こうした巨額の財政赤字をファイナンスする手段として、盛んに用いられてきたのが日本国債(赤字国債)である。そしてこれを一体誰が買っているのかといえば、他ならぬ日本国民がなけなしの貯金をすることによって、これが金融機関を経由して日本国債の購入資金として使われてきたのだという。ところが超低金利政策が続けられた結果、貯蓄に旨みはなくなってきており、日本国民は統計上、明らかに貯蓄から離れてきている。「そうなっている以上、いったい誰がこれから景気回復策のための赤字国債を買ってくれるというのだろうか」――欧州系“越境する投資主体”たちはそう口ぐちに語り、“日本発大恐慌の到来”を喧伝して止まないのである。
“越境する投資主体”が描く本当のシナリオとは?
この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中でとりわけ欧州勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は11月28日に福岡で、12月19日に大阪でそれぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」(無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。
このコラムの賢明なる読者の皆さんは、欧州勢が突如叫び始めた、こうした「日本元凶論」がいかに荒唐無稽なものであるかを直感的にご理解いただいているのではないかと思う。これまで弊研究所から一貫して分析を提示してきたとおり、他ならぬ米欧系“越境する投資主体”たちが“よりマシなマーケット(safe haven)”として選定し、昨年(2008年)初冬頃より日本円を求めて殺到してきた国、それが私たちの国=日本なのである。これはマーケットに多少なりとも本質的に関与している者であれば誰もが知っている“常識的”な非公開情報なのだ。
ところが、そのようにして巨額の資金を“円転”した米欧系“越境する投資主体”は、次にこれを運用しなければならない立場に置かれている。とりわけ欧州勢は、今年(2009年)初夏の段階で個人投資家のレヴェルにまで日本株ファンド用資金を“集金”していた経緯がある。そこから計算して、数ヶ月後の秋には実際の“買付”を行うものと弊研究所は考え、そうした予測分析シナリオを提示してきた経緯がある。
しかし、「高いまま」で彼ら“越境する投資主体”が日本株を買うわけもないのである。そこで何らかの理由をつけて大量の“日本売り”を誘っては一方で売り崩し、他方でこれを大量購入するといういつもの手段に出ていると考えるべきなのである。ところが私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンは、「金融メルトダウン疲れ」でそもそもマーケットすら見ていないのである。“ここ一番”であるにもかかわらず、「また同じだろう、今回の下落も」と考える結果、本質的に違う今現在の日本マーケットにおける展開を見損ねてしまっているのだ。
正に「灯台下暗し」とはこのことだろう。しかし、欧州勢による巧みな情報戦を、持ち前の“情報リテラシー”で乗り切った日本人だけに、次の時代へと向かう切符は手渡されるということを忘れてはならないのである。
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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