『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

“出口戦略バブル”と“デフォルト”、どちらが真実か?

始まった“出口戦略バブル”

11月が始まり、季節はすっかり冬となりつつある。お隣の国・中国の北京では22年ぶりとなる「11月1日の降雪」が発生。ちょっとした騒ぎになっているとも聞く。もっとも季節は移り変わっても、やや気になるのがマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を巡る膠着(こうちゃく)状況だ。例えて言うと、ゼリーが固まる瞬間のようなどっちつかずの状況が、日本そして世界の至るところで見られるのである。


こういう時、決まって感じることが1つある。――「凪(なぎ)の後にやってくるのは怒涛(どとう)の嵐」。折りしもそのように思っていた矢先、メディアの世界で経済記者として大活躍している盟友がメールを送ってきてくれた。「何かが起きそうでまだ何も起きていない不思議な瞬間。こういう時の後には何かが必ず起きますから、ぜひその“何か”が分かったらば教えてください」とのことであった。そう、“情報のプロ”たちは今、ひとしく不気味さを感じているのである。


マーケットについて言うと、この不気味さが奏でられる最大の要因となっているのは“出口戦略バブル”とでも言うべき事態の推移だろう。昨年(2008年)秋に発生したリーマン・ショック以来、各国の中央銀行総裁たちの頭によぎる悪夢はただ1つ、「インフレ」、しかも「性質の悪いインフレ」だ。これを防ぐためには、いわゆる“出口戦略”を速やかに展開する必要がある。8月末にイスラエルが政策金利の引き上げを行って以来、実はそれとして語っていないものの、各国は“出口戦略”を密かに、しかし実態として開始してきている。


ところが、実体経済にはマネーが十二分にまわっていないにもかかわらず、その流れを止めてしまう(=出口戦略)というのでは世間が納得しない可能性が高い。そこで中央銀行は政府共々、「景気は緩やかに、しかし着実に回復している」と以前よりもまして叫び始めているのである。そしてその声につられるようにして、各国の投資主体たちは続々と金融マーケットへと再びカネを投げ込みつつある。――これが実態経済の回復無き金融バブル、すなわち“出口戦略バブル”の始まりだ。11月に入り、少なくとも2週間にわたる米国での株価上昇を見ると、そのことが如実に分かるのである。

再び“デフォルト”を騒ぎ始めた米国勢

そのような中、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある当研究所でウォッチしていると、ここにきて1つの気になる情報が飛び込んできた。


米国・ニューヨーク州が何と“デフォルト(債務不履行)”の危機に置かれており、このまま行くとクリスマスを迎えることなく破たんしてしまう危険性があるとパターソン同州知事が公言したというのだ(10日付 米国CBS2News)。ニューヨーク州は、カリフォルニア州とテキサス州に次いで、大きな経済規模を誇る米国の州だ。しかも、金融機関を含む米系主要企業が、軒並み本拠地を置いていることでも知られている。そこが“破たん”する可能性があるというのだから、尋常ではない。


このコラムで私はかつてカリフォルニア州における“デフォルト(債務不履行)”騒ぎとそれがもたらすマネーの“潮目”について論じたことがある。結局、今年(2009年)8月に入り事態は収束し始め、現在では誰も何も語らなくなっているかのように見えなくもない。そして、この事との比較で言うと、今回のパターソン発言も「結局は“大山鳴動、ネズミ一匹”。何も起きるはずがない」と思えてしまいそうではある。


しかも時代は上記のとおり、正に“出口戦略バブル”の入り口を越えたばかりのところである。米国勢は去る10月半ば頃より、来年(2010年)11月に実施予定の連邦議会選挙を控え、事実上の「選挙戦」に入ったばかりだ。「選挙に都合の悪いことは語らないし、フタをする」というメンタリティーが全米を覆う中、“デフォルト(債務不履行)”などという言葉は圧倒的な「政治の力」を前に誰も口にしなくなった感がある。――しかし、本当にここで私たちは120パーセント安心してしまって良いのだろうか。「危機はもはや終わった」と。

その先に見える本当の“潮目”とは?

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中でとりわけ米国勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は11月28日に福岡で、12月19日に大阪でそれぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」(無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きはぜひともお集まりいただければ幸いである。


先日、とある自動車メーカーの幹部の方とお話する機会に恵まれた。同幹部曰く、「金融メルトダウンは終わったのですよ。ウチはグループ企業でカネをまわしているし、そもそも為替レートの影響もそれほどではない。金融は“雑音”にすぎないし、そんなものに目を向けている暇があるのであれば、研究開発に励んだ方がよほど意味はある」のだそうだ。


念のために申し上げおきたいのだが、私は「これから国家破産が生じる。だからこの金融商品を海外で買っておくべきだ」などと叫んで止まない、いわゆる“デフォルト・ビジネス”を営むものでは全くない。そうではなくて、日々の公開情報分析(OSINT)をベースにしながら、予測分析シナリオを修正していく中で出てくる、現段階における結論を述べているだけなのだ。


しかしだからこそ、上記の自動車メーカー幹部氏には面と向かってあらためて申し上げたいのである。――「金融メルトダウンは終わってはいない。むしろ“その時”はこれからやってくる」と。研究開発には確かに時間が必要だ。5年越し、あるいは10年越しの計画が立たなければ、自らがお払い箱になってしまうと研究者たちは考えるのかもしれない。しかし、金融マーケットにおける“真実”を知ることなく、いたずらに“wishful thinking(=こうあって欲しいと願うことと真実を取り違えても、あえてそうなると信じてしまうこと)”によって莫大な投資を始めた結果、あとで外部環境が急変し、金融資本主義の怒涛の流れの中、溺死するようなことがあっては元も子もないのである。


不気味な高揚感を伴い進展する“出口戦略バブル”。そして密かに、しかし確実な形で叫ばれ始めた“デフォルト”。このどちらが真実へと到達するのか。――私たち=日本の個人投資家にとって1回限りの“熱い冬”が始まりを告げている。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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狙われた日華の金塊

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