『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

米中角逐の向こう側にある新興国バブル崩壊という“潮目”

中国勢が拒否する「G2」論

最近になって国際社会で語られ始めたことの1つに、「G2」論がある。G2、すなわち米国と中国がペアとなり、これからの世界を牽引(けんいん)していくという議論だ。例によって米国勢が盛んに“喧伝(けんでん)”しては、その信奉者を増やしてきている感がある。


こうした流れの中で、ご多分に漏れず日本のいわゆる「言論人」たちも声高に「G2」論を信じてやまない旨の発言を繰り返している。やれ「ジャパン・パッシング(日本通り越し)」論だ、あるいは「米国の次は中国と国際金融資本が言った」などという議論である。


しかし、この「G2」論を、当の中国自身は明確に拒否していることを読者の方々はご存じだろうか。最近でも11月中旬に訪中したオバマ米大統領と会談した温家宝首相が、まさに面と向かって、「我々(=中国勢)はG2論などというものを認めていない」旨を述べた。つまり、中国勢は明らかに米国勢を疑っているのだ。なぜ「これからは中国だ」などと米国勢が叫ぶのか?その理由はただ1つ、「我々(=中国勢)からカネを引き出すためだ」と中国勢は分かっているのである。


実は、この話にはもっと前からの“伏線”がある。2007年8月に欧州勢が「量的緩和」」に踏み切ることで露呈したいわゆるサブプライム・ショックの直後、米系“越境する投資主体”たちは次のような議論を至るところで叫んでいた。


「これから始まるのはショックどころか、メルトダウン、すなわち金融システムそのものが溶けていってしまう過程だ。しかしこれを食い止める方法が1つだけある。それは国際経済からある意味、分離する形で独り繁栄を遂げつつある中国が“救世主”となり、世界中にマネーを供出することだ」。


こうした議論は当時、“デカップリング論”と呼ばれた。しかし、一見するともっともらしいこの議論にチャレンジしたのが、他でもない、褒められているはずの中国勢であった。中国勢は、例えば翌2008年1月に開催された世界経済フォーラム総会(ダヴォス会議)の席上、出席者をつかまえては、次のように説明してまわっていたというのである。


「とんでもない!中国は世界経済からデカップリング(分離)などしていない。特に米国経済が倒れれば、対米輸出に依存している中国経済も倒れることは必至。他国をケアする余裕など全く無いのだ」。


つまり、温家宝首相が「G2」論と名ばかりは変えて米国勢が唱え始めた議論を再び即座に却下した文脈は、既にそこにあったというわけなのである。

取り囲まれた中国勢

そのような中、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、ここにきて1つの気になる情報が飛び込んできた。


去る15日よりフン・クアン・タイン国防相がヴェトナムより米国を訪問。それに先だって、米国防総省筋はかつて敵国だったはずのヴェトナムに対し、米国製兵器の売却を行う意向を明らかにしたというのである(14日付 米国 NOSINT参照)。実に10年余りにわたって血みどろの死闘を繰り返した「敵国」ヴェトナムは、今や大切な「友好国」だというわけなのである。依然として当時の従軍経験による後遺症に悩む米国国民が多いことを思い起こせば、これがオバマ政権にとっていかに重大な決断であるかを理解することができよう。


しかも、問題なのはそれだけではない。この国防総省筋は同時に、同じく「敵国」として歴代の米政権が嫌悪してきたはずのリビアに対しても、米国製兵器の売却を行うことを明らかにしたというのである。米欧勢を駆逐(くちく)し、北アフリカ地域における「王者」の地位を争ってきたのがリビアの最高指導者・カダフィ氏だ。ここに来て関係は正常化しているとはいえ、依然としてリビア至上主義とでもいえるような態度を取り続けるカダフィ氏に、米欧勢は常に翻弄(ほんろう)されている感がある。それなのに、米国勢はここに来て兵器売却に踏み切るというのである。――正に「国際情勢は複雑怪奇」と言わざるを得ない。

そして新興国バブルは崩壊する

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で日本マーケットを取り囲む米欧勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は、1月9日に東京で、30日に大阪で、31日に名古屋でそれぞれ開催する「IISIAスクール」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。また、来年(2010年)1月23日には今回で3回目となる恒例の「IISIA年頭講演会」を1,000名規模で東京・杉並にて開催する予定である。既に600名近い方々のご応募頂いている。是非、お早目にお申し込み頂ければと思う。


さて、米国勢がかつての「敵国」たちの囲い込みに入っていることにはもちろん理由がある。端的にいえば、米国勢にとって最も重大なパートナーであり、同時に最大の仮想敵でもある中国勢を牽制(けんせい)するためだ。まずヴェトナムと言って思い出されるのが、中越戦争(1979年)だ。カンボジアのクメール・ルージュ政権を巡って行われたこの戦争は、本来であればアジアにおける「強大国」とでもいうべき2つの共産主義国家を決定的に対立させるに至った。


そしてリビア勢が今、声高に牽制しているのが中国勢によるアフリカ・中東地域での買い漁りなのだ。中国勢はその有り余る外貨準備を用いて、資源確保のため、この地域で大量の土地を買いあさっている。北アフリカの“盟主”としての意識の強いカダフィ氏としては、これが絶対に許せないというわけなのである。


ここで読者の方々には冷静に考えてみて頂きたい。中国、ヴェトナム、そしてリビアという三カ国。これらはいずれも、ここに来て「発展可能性の多いにある新興国」と言われた国々である。ところが中国は、後二カ国と米国を挟んで、徐々に対峙しつつあるというのだ。中越国境における再度の「紛争」、あるいはアフリカ・中東地域での中国勢に対するリビア勢による攻撃といった事態に陥った場合、あるいはそれが現実にならずとも、その危険性が“喧伝”された場合、これら新興国におけるマーケットは例外なく“瓦落(がら)”になることであろう。


まさに恐ろしきは米国勢の策動かな、である。米国勢はなし崩しに「崩壊」などしていない。彼らは確実に次の“潮目”に向かった仕込みを行いつつあるのだ。そのことを私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンは決して忘れてはならないのである。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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