『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

政策転換か!?中国政府の経済引き締めに見るマネーの“潮目”

世界経済の牽引車としての中国

昨年9月のリーマン・ショックを契機とする世界金融危機から1年が経過し、世界中で景気下げ止まりないしは金融危機の終焉(しゅうえん)を匂わせる金融当局の発言を伝える報道が散見される。そうした中で、表面的には株価の持ち直し、経済統計指標等の改善、米国勢の大手銀行の収益改善がみられはする。しかし、である。こうした楽観的な指標が米国ないしは世界の実体経済を必ずしも反映しているかと言えば、そうとは言い難いのだ。


他方で中国は、米欧勢や日本がリーマン・ショックに伴う世界金融危機がもたらした景気低迷に苛(さいな)まれている現状と対照的に、その影響をごくわずかに受けたに過ぎず、依然として高い経済成長を謳歌(おうか)している。中国国家統計局による去る22日の発表によれば、今年第3四半期の国内総生産(GDP)伸び率は前年同期比8.9%となり、第2四半期の同7.9%から加速的に上昇した。このGDP伸び率増加の背景には、世界的な需要の落ち込みを反映して輸出が減少したものの、設備投資が輸出減少分を大きく上回る形で増加したことがあると推測されている。


各国経済の停滞を尻目に独り気を吐く姿から世界経済の「救世主」として嘱望(しょくぼう)されている中国であるが、その勢いはとどまるところを知らない。「世界の工場」と称される生産力を武器に輸出を増加させ、世界一の外貨準備高(9月末時点:約2.3兆ドル)を保持するだけでなく、米国債の最大の保有国に一躍名乗りを上げた。


国内経済も好調さを維持している。具体的には、2009年1月から9月までの都市部固定資産投資は、前年比33.3%増と、1月から8月までの33.0%増から伸び率が加速。また9月の小売売上高は、前年比15.5%増(8月:同15.4%増)、9月の鉱工業生産は前年比13.9%増(8月:同13.3%増)と、伸び率が加速していることから、民間経済活動が過熱ともいうべき状況となっている。これは、日本の「バブル経済」(1980年代後半から1990年初頭) さながらの状況だといっても過言ではなかろう。


このように、現在の中国経済は極めて勢いに満ちていると言ってよい。だが、誰もが気になる問題はその先にある。今後もこのまま中国経済は成長し続けるのであろうか。

中国の引き締め政策の現実化

このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が地球の裏側から飛び込んできた。


中国招商銀行の秦暁会長が「金融政策は資産価格の動向を無視すべきではない」と指摘し、「中国は早急に緩和的な金融政策スタンスから中立的なスタンスにシフトする必要がある」との見方を示した(10月22日付 英国フィナンシャル・タイムズ参照)というのである。


この背景には、中国におけるマネー膨張が、政策当局により懸念されていることがあるとみられる。現にこの事実を裏付ける根拠として、中国のマネーサプライの急速な伸びが観測されているのだ。


中国人民銀行(中央銀行)が公表した9月のマネーサプライ(M2)伸び率が、前年同月比29.3%増と、8月の28.5%増に比べて加速的な伸びを示していることから、いかに中国の民間経済活動が過熱しているのかということがうかがえよう。ちなみに、1980年代後半から1990年代初頭にかけての日本のバブル経済期におけるマネーサプライは押し並べて年率10%前後だったことを踏まえると、中国におけるマネー膨張の凄まじさは明らかである。


こうした中で、19日、中国のマクロ経済政策を所管する国家発展改革委員会や人民銀行(中央銀行)など10部門が共同で記者会見を開き、生産能力が過剰な鉄鋼など6業種への銀行融資を抑制する方針を表明した。地方政府の反発に備え、中央政府の方針を守らない地方政府に対する罰則を加える措置も明示している。さらに21日、中国国務院は、インフレ期待の管理が今後数か月にわたり優先政策になると強調しており、政府がこれまでの拡張的な財政金融政策を「正常化」し始める蓋然性が高まりつつある。ただし、経済成長の恩恵を享受し切れていない内陸部等の地方政府が、どこまで中国政府の規制に従うのかが依然として不透明であり、設備投資や工業生産の増加は引き続くと見込む向きもある。

「もう騙されない日本人」が「知恵」を発揮するとき

こうした中国の経済情勢を含め、激動の世界を巡る情勢について私は、来る11月8日に京都で、11月28日に福岡それぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」でお話する予定だ。関心を持たれた方々にはぜひ会場に足をお運び願いたい。


成長著しい中国と対峙しつつも、その経済成長の「余得」を被ろうとしているのが米国だ。去る15日、米国財務省は、主要貿易相手国の為替政策に関する報告書(為替政策報告書)内で、中国を為替操作国として認定しなかった。ただし、人民元は過小評価されているとの認識をあらためて示し、中国に対し引き続き人民元の上昇を促す方針を明らかにしている。その後19日、中国の人民日報で、世界の主要準備通貨としてのドルの地位が米経済の苦境によってむしばまれる可能性はあるものの、他の通貨がドルの支配的地位を揺るがすような状況には依然として程遠いとの論評を掲載したと報じられている。


米国は景気低迷下で財政支出がかさみ、10月7日に米議会予算局(CBO)が発表した2009年会計年度(9月30日終了)の最終財政見通しによると、米国の財政赤字は過去最大の1.4兆ドルに達すると見込まれている。今後も米国債の増発がかさむ蓋然性(がいぜんせい)が高い。そのため、中国に米国債を購入してもらう必要がある。また、中国は自ら稼いだ外貨を元手に米国債を購入し続けた結果、米国債の最大の保有国となった。大量に抱えた米国債の価値の低下や米ドル相場の下落は、中国が獲得した富の減少を意味するのである。そうした実情を踏まえると、米国が中国を「為替操作国」としなかった見返りに、中国は米ドルの準備通貨としての重要性を対外的にアピールしたと推測できよう。こうした米中の駆け引きが、良きにつけ悪しきにつけ、当面の間、世界経済を揺り動かすのではないだろうか。


だが、こうした米中間の抜き差しならぬ実態を日本の多くのマス・メディアはほとんど報じていない。加えて、日本の金融機関がそうした実態を知らずに、リーマン・ショック以前によく用いられた「お金は銀行に預けるな」や「貯蓄から投資へ」という掛け声を再び喧伝(けんでん)することにより、私たち日本人の金融資産を吸い上げようとする動きが再びうごめき始めている。


だが、その先にあるのは、今般の金融メルトダウンの震源地・米国に見られたような混乱の繰り返しであり、バブル経済や投信ブームと同じ轍を踏むことになろう。私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンは、こうした過去の教訓を活かすことにより、「もう騙されない日本人」として再び立ち上がる「知恵」を発揮する時が来ているのである。


そのために、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンは、米国の“デフォルト”という“潮目”の予兆や、国際政治・経済の真実の姿を確実に捉える能力、つまり“日本人の、日本人による、日本人のための”「情報リテラシー」を高める必要がある。


当研究所はこの志に基づき、日本全国でセミナーを開催し、皆様の「情報リテラシー」を高めるお手伝いをさせていただいている。来る11月15日、IISIA調査部の研究員全員が、それぞれの切り口から国内外情勢を読み解く「IISIAステップアップ・セミナー」の第2弾を大阪・心斎橋で開催する運びとなった。今回の話題との関わりでいえば、当日はIISIAのマクロ経済分析のエキスパートである島津洋隆研究員も登壇する。ぜひご参加いただければと思う。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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