投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
混迷が予想されるG20〜その次に来る『潮目』とは?
船頭多くして…。G20ピッツバーグ会議はどこへ?
米国ペンシルバニア州西方、ピッツバーグ。この閑静な地方都市が今、“実質的戒厳令状態”と評される程の、時ならぬ緊張状態に置かれている。24日から翌25日にかけて、この地においてG20首脳会議が開かれるのだ。
今回の会議に参加するアクターは数多い。G20諸国に加え、スペイン、オランダ、国際連合、ASEAN、世界銀行、IMF、WTO、APEC、アフリカ開発のための新パートナーシップ、金融安定化フォーラムと、実に30に達する数の国家及び国際経済団体が一堂に会することになる。
これだけの数の国が集まって合意を果たし、成果を出すことは難しい。それでも、これまでのG20首脳会議には一定の成果があったと評価できるであろう。2008年11月のワシントン会議には、G8であった国際経済会議を拡大する枠組みの形成という意味があった。2009年4月に開かれたロンドン会議では、タックス・ヘイヴン規制など金融規制の方向性で合意を形成できた。
しかし今回、より具体的な内容に踏み込むべき段階で有意義な合意に達することができるかどうかは、はなはだ心許ないと言わざるを得ない。“船頭多くして…”の喩えが現実化するおそれがあるのだ。既にその兆候は、各国による報道を通じた“鞘当て”が始まっていることからも見てとれる。
中国はG20ピッツバーグ会議に関して、「発展途上国の役割向上が主な議題となる」との認識を示している(7月23日付 英トムソン・ロイター他参照)。ドイツとフランスは、「G20では金融機関のボーナス制限について話し合われるべきだ」との見解を明らかにした(9月1日付 米ブルームバーグ他参照)。また、EU議長国であるスウェーデンは、G20に向けて気候変動に関するEU特別会議を招集(9月4日付 米ワシントン・イグザミナー他参照)。そしてロシアは、「G20は、景気刺激策の終了は時期尚早との見解で一致するもよう」と発言している(9月17日付 英トムソン・ロイター他参照)。さらにそれぞれの意見に対し、反対意見を明らかにしている国まであるのだ。
こうした状況を受け、G20ピッツバーグ会議がある種の“期待外れ”に終わることを懸念する声が多くなってきている。
うかがわれる米中間“パッケージ・ディール”
このような観点から東京・国立市にある弊研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が地球の裏側から飛び込んできた。中国が、米FirstSolar社から、発電容量2ギガワットに達する大規模な太陽光発電装置を購入する契約にサインしたというのだ(9月8日付 米UPI通信他参照)。
中国は2008年後半以降、自然エネルギーへの注力を重ねて発表している。したがって、大規模な太陽光発電装置の導入自体は不自然なことではない。しかし、同国には世界3位(2008年時点)の尚徳太陽能電力有限公司(Suntec Power)をはじめとして、複数の大手太陽光発電装置メーカーが存在する。ただでさえ欧州商工会議所から“貿易面の不公正さ”を指摘されたり、米国との間ではタイヤ輸入制限問題が紛糾中でもあるこのタイミングで、そうした国内企業を差し置いて米国メーカーの製品を購入するのは、不自然と言わざるを得ない。
こうした中国の不自然な動きは大国同士で特有の、なにがしかの譲歩を相手から引き出すため、「これを差し出すので、あれは頂く」といった包括的な交渉(パッケージ・ディール)であることが多い。今回の“パッケージ・ディール”で中国は、米国からどのような条件を引き出したのであろうか。いずれにせよ、G20ピッツバーグ会議に早くも“期待外れ”の暗雲が立ち込める一方、その裏側では米中という二大国(G2)の間で熾烈な駆け引きが展開されていると考えられるのだ。
求められる“G20後”
このように混迷の様相が明らかになりつつあるG20ピッツバーグ会議を含め、激動の世界を巡る情勢について私は、来る10月7日に東京・国立市にある弊研究所内、そして17日に大阪で開催する「IISIAスタート・セミナー」でお話する予定だ。関心を持たれた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。
ちなみにリーマン・ショック1周年イヴェントでは、オバマ大統領が「教訓を活かしていない」との金融機関に対する非難を含む演説を行った。米国はG20ピッツバーグ会議に際して、金融機関に対するボーナス規制強化に反対する立場にあると一般には見做されている。そうした見方に反するスタンスを米国の大統領が明らかにしたことから、米国が主導してG20の“機能不全”を演出するシナリオが浮上する可能性が感じられるのである。
G20の“機能不全”が明らかになった後、世界経済の枠組みを先導する新たなシステムの待望論が盛り上がることとなろう。では、その時に求められる“次”のシステムとは何か。BRICs四カ国が表明しているような、IMF等の既存国際機関において開発途上国の発言権が増す形になるのか、あるいは米中パッケージ・ディールの結果としてもたらされる、いわゆる“G2”主導体制になるのか、それとも他の形が浮かび上がってくるのか…。
世界経済において明らかになりつつある“潮目”の予兆から、ますます目が離せない展開となってきている。こうした“潮目”の予兆が示す、世界と日本の“次”のフェーズについては、来る10月3日に東京で開催する「IISIAステップアップ・セミナー」で、弊研究所調査部の6人の研究員たちが一堂に会する形で、様々な角度からお話することになっている。ぜひご来場されたい。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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