『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

“場外乱闘”に持ち込まれる米ヘルスケア改革!?

ヘルスケア改革の「天王山」に潜む罠

米金融界では、このところ異様なほどの楽観的なムードが漂っている。それとは対照的に、ヒート・アップの様相を呈しているのがワシントン政界だ。その主な原因は、オバマ政権の「1丁目1番地」とも言うべきヘルスケア(医療保険制度)改革である。


8日の米国連邦議会再開前後から、ヘルスケア改革法案を巡る動きが活発化してきている。2日、ペロシ下院議長はサンフランシスコ商工会議所で、同法案を本会議採決へ直ちに持ち込み、下院通過させる自信を示した(2日付 米ザ・ヒル・ドット・コム参照)。このことから、ヘルスケア改革が1つのハードルをようやく越える段階に差し掛かっているといえよう。


他方、去る7月20日に発表された米ワシントン・ポスト紙とABCニュースの合同世論調査では、ヘルスケア改革に対する大統領の取り組みについて、支持率が4月の57%から49%に低下し、初めて50%を下回ったという結果が出ている。これに加え9月12日には、この改革に反対する保守派が全米から首都ワシントンに集結して行った抗議デモが一部マス・メディアで取り上げられた。この改革に対する反発がいかに根深いか、ということがうかがえる。


ただし現状では、財政赤字を懸念する一部の民主党議員の抵抗が散見されるものの、オバマ政権を戴く与党・民主党が上下両院で過半数を占めている。そのことを踏まえると、同法案が民主党の「数の力」で押し切られた末、上下両院を通過し、成立する公算は高い。だが、依然として抵抗が多いといわれているヘルスケア改革のことだ。これまで二転三転してきた経緯もある。果たして本当にすんなりと成功するのだろうか。

ヘルスケア改革がもたらす米国の“国家溶解”

このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が地球の裏側から飛び込んできた。


21日、米検察当局が、大手金融機関のバンク・オブ・アメリカ、HSBC、シティグループから総額2億9,000万ドル以上の融資を不正に受け取ったとして、オバマ大統領やヒラリー・クリントン国務長官など民主党の資金調達を行っていたハッサン・ネマジー容疑者を詐欺罪で起訴したのだ(9月22日付 英トムソン・ロイター参照)。


ヘルスケア改革法案だけでなく金融規制改革法案をも審議する中で、こうしたスキャンダルはオバマ大統領自身だけでなく、現政権、そして与党民主党全体に少なからぬダメージを与えることとなることは間違いない。ダメージを負った民主党がこれらの法案を「数の力」で強行採決すれば、ただでさえヘルスケア改革に必ずしも肯定的でない米国世論を逆なですることになる。このようにして「議会が民意を反映しない」という事態に陥った場合、1960年代後半に西ドイツで展開された「議会外反対勢力」(APO:Ausserparlamentarische Opposition)と同じような急進的な社会運動が、米国にも出現・拡大する可能性がある。先述したヘルスケア改革に反対する保守派が首都ワシントンでデモを行ったことが、“APO”のような運動が米国に再現しようとしている1つの重大な証左であろう。


また、こうした動きが高まるにつれて、米国における民主党勢と共和党勢の乖離が進行し、「国家分断」、ひいては“国家溶解”に繋がることもあり得る。

「もう騙されない日本人」が立ちあがる時

このようにヘルスケア改革をきっかけに米国という国家が不安定化する状況を含め、マーケットとそうした状況を取り巻く激動の世界を巡る情勢について私は、来る10月7日に東京・国立市にある弊研究所内、そして17日に大阪で開催する「IISIAスタート・セミナー」でお話する予定だ。関心を持たれた方々にはぜひ会場に足をお運び願いたい。


23日、連邦準備理事会(FRB)が9月22日から23日にかけて開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の声明全文で、米国経済は深刻な落ち込みを経て回復しているとの認識を示す旨を公表した。これはリーマン・ショックから1年経過し、当局に楽観的なムードが充満していることを裏付けるものだ。


しかしこうした楽観的なムードの背後には、米国の財政赤字が累増し、ヘルスケア改革成立により米国連邦政府の財政に大きな負担をもたらす蓋然性が高いということが隠されているのである。にもかかわらず米国は、躊躇なく米国債を増加させるだけでなく、中国など世界各国にこれをあてがうことにより、自国の糊口をしのいでいるほどの窮状だ。


こうした状況を踏まえると、米国が“デフォルト”(国家債務不履行)を宣言する可能性が日に日に高まっているといえよう。


だが、日本の多くのマス・メディアはこうした隠された事実を明るみに出すどころか、米国の政策当局者の楽観的な発言や表面的な経済統計指標の改善のみを取り上げて、世界金融不況は終焉したなどと伝えているのである。こうした報道に追随する形で、日本の金融機関にも、リーマン・ショック以前によく用いられた「お金は銀行に預けるな」や「貯蓄から投資へ」という掛け声を再び喧伝することにより、私たち日本人の金融資産を吸い上げようとする動きが再びうごめき始めている。だが、その先にあるのは米国の“デフォルト”による再びの混乱であり、バブル経済や投信ブームと同じ轍を踏むことになろう。私
たち=日本の個人投資家・ビジネスマンは、これらの教訓を生かすことにより、「騙されない日本人」として再び立ち上がる「底力」を発揮する時が来ているのである。


そのために、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンは、米国の“デフォルト”という“潮目”の予兆や、国際政治・経済の真実の姿を確実に捉える能力、つまり「情報リテラシー」を高める必要がある。


当研究所は皆様の「情報リテラシー」を高めることをお手伝いするために、来る10月3日、IISIA調査部の全研究員が、各自が得意とする専門分野の視点で世界を読み解く「IISIAステップアップ・セミナー」の第一回目を東京・浜松町で開催する運びとなった。IISIAの“頭脳”である調査部全研究員が皆様の前に勢ぞろいする初の機会に、ぜひご参加いただければと思う。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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