投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
ほつれゆくG20、IMF!?そして動き出す新たな“潮目”とは?
欧州勢“大勝利”に終わったG20ピッツバーグ会議の意味
この6日から7日にかけてIMF・世界銀行年次総会がトルコのイスタンブールで行われる。186ヶ国の財務相、中央銀行総裁、民間企業トップ、学界や市民団体のメンバーが集まる多士済々の大会議も、このコラムが掲載される頃にはちょうど終会を迎えている頃であろうか。
他方、これに先立って米国・ピッツバーグで行われたG20首脳会議(9月24〜25日)では、とりあえずの成果が上げられたと言える。今回のG20首脳会議は、特に欧州勢にとっての“大勝利”と言える結果に終わった。投機的資本移動に対する課税強化こそ盛り込まれなかったものの、金融機関に対するボーナス規制をはじめ、財政赤字の国際協調管理などといった規制強化を“公約”として掲げることに成功したのだ。
G20に続く“全体会議”とも言うべきIMF・世界銀行年次総会においても、同様の議題が打ち出される可能性は高いと思われる。G20の結果はかつての先進国首脳会議(G7/G8)と異なり、新興国や主要経済団体も賛同したものであるため、反対意見が出ることは想定し難い。おそらくはそのまま、全体の方向性として承認されることになるのであろう。
しかし、である。ここで根本的な疑問が浮かんでくるのだ。上で述べたようなG20やIMFといった既存の“国際協調”の枠組みは、本当に今後も有効なものとして機能し続けることができるのであろうか。というのも、事態は既に“国際協調”の前提を大きく揺るがしうる局面に至っているからだ。欧州の金融機関に対するストレス・テストの結果、今年から来年にかけての24金融機関の損失合計が、4千億ユーロに上るとの見通しが発表された(9月25日付 米国 ザ・ニューヨーク・タイムズ他参照)。しかし、これはあくまでも「合計」の数字に過ぎず、個別金融機関の業績については非開示のまま。当然、危機的な状況にある金融機関の存在が懸念される。こうした事情を踏まえると、今回のG20における、欧州に花を持たせる形での手打ちが、欧州発の“デフォルト連鎖”を防ごうとの水際作戦であった感は否めない。
金融メルトダウンが更に“最終局面”に近づいた段階において、既存の国際協調が体をなさない状況に陥る可能性は、未だ高い確率で考え得るのだ。
“金融メルトダウン”によって溶解する既存の国際的枠組み
このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が地球の裏側から飛び込んできた。
ロシアがこの12月にも軍の再編を始め、20,000両ある戦車を2,000両まで削減し、予備役を10万人まで減らすであろうとの分析を、同国の軍事専門家が述べたというのだ(9月14日付 露 RIA ノーボスチ他参照)。
この背景にはロシアも避け得なかった“金融メルトダウン”の影響がある。原油需要の世界的急減がロシアの輸出収入の減少をもたらし、財政の悪化に繋がった。それが軍備を削減せざるを得ない状況にまで、同国を追い詰めたと考えられるのだ。その影響が、CIS(独立国家共同体〜旧ソヴィエト連邦12カ国の連合体)諸国の“ロシア離れ”という形で現れはじめている。2008年8月に、南オセチア及びアブハジアの独立を巡ってロシアとの間で戦争状態となったグルジアは、この8月、正式にCISを脱退した(8月18日付 露 RT他参照)。また同月には、トルコがアルメニアとの間で国交回復に向けた動きを見せる(8月31日付 トルコ ヒュリエット・デイリー・ニュース・アンド・エコノミック・レビュー他参照)と共に、その隣国であり、アルメニアと敵対関係にあるアゼルバイジャンを含めた3ヶ国が、カザフスタンで実施されるNATO軍の演習に共同で参加する計画を発表する(8月25日付 カザフスタン カズィンフォーム他参照)など、南コーカサス地方においてCIS諸国による脱ロシア・欧州勢への接近という動きが進んでいる。CISの崩壊は、未だ冷め止まぬ“金融メルトダウン”が、既存の国際協調の枠組みを溶解させつつあることの1つの事例と言うことができよう。
新たな“国際協調”の一方で“国民国家”が崩壊を始める可能性
このように溶解(メルトダウン)の度合いを高めつつある既存の“国際協調”の枠組みを含め、激動の世界を巡る情勢について私は、来る10月17日に大阪で開催する「IISIAスタート・セミナー」でお話する予定だ。関心を持たれた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。
ちなみに10月10日には、北京で日中韓首脳会議が開催される予定である。鳩山首相が提言している“東アジア共同体”に向けて、事はいよいよ動き出すのであろうか。
成長を模索する新たな国際協調の枠組みが動き出す気配を見せる一方で、前述のように、溶解しつつある国際協調の枠組みもある。後者における混乱は、“騒擾(そうじょう)”“内乱”の中で、構成要素たる国民国家をも崩壊させていく可能性も考えられよう。来るべき“大転換の時代”に到る“潮目”の予兆を見逃さず、慎重に次のフェーズを考え抜いていく必要性がますます高まっている。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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