『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

ドイツ勢が見せる「国有化」という新たな“潮目”

4月2日から始まった金融メルトダウン2.0

2007年8月に露呈したサブプライム問題以降、金融メルトダウンが続いている。しかし、ここにきてとりわけ米国勢からいくつかの“ポジティブ”な指標が発表されたことで、「ひょっとして景気は底を打ったのではないか?」という声がちらほらと世界中のメディアにおいて聞こえ始めている。


そうした1つの指標が、米国の主要都市における住宅価格の変動を示すS&Pケース・シラー・インデックスだ。その直近におけるデータを見る限り、確かに現在の水準は、2003年頃(2007年前半までの株高が世界的に始まった年)と等しい。「山が一つ終わった」と考えるには、確かに1つのきっかけとなりそうな状況ではある。


しかし、そう考えると米欧系“越境する投資主体”を中心とした勢力の術中に正に陥ることになるだろう。――これまでこのコラムで繰り返し申し上げてきたとおり、米国由来のリスク資産に基づく損失額はそもそも1000兆円を優に超える金額なのである。そうであるにもかかわらず、これを抑え込むための措置として何らかの抜本的な手段が講じられたのかというと、全くそうではない。むしろ、去る4月2日に英国ロンドンで開催された第2回金融サミットでは、各国が一致した形で行う景気刺激策の採択が大陸欧州勢の激しい抵抗によって合意に至らず、むしろ1985年のプラザ合意以来の「国際協調」が単なる美辞麗句、いや幻想であったことが露呈したのである。


すなわち、危機は全く終わってはいない。むしろ「国際協調」が崩れ去った4月2日をもって、いよいよ金融メルトダウン2.0が始まったばかりだというべきなのだ。

ドイツ勢が見せる「国有化」という“潮目”

そのような中、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、ここにきて1つの気になる報道が飛び込んできた。ドイツのケーラー連邦大統領が、同国代表する不動産信用銀行であるヒュポ・レアル・エステートの国有化法案に署名したというのである(4月7日付 独フランクフルター・アルゲマイネ・ツァィトゥング参照)。


日本の大手メディアは全く報じていないものの、米欧系“越境する投資主体”の中では今、大変な騒ぎになっている事柄の1つであるので、そもそも事の発端をここで簡単に解説しておきたい。


米国由来のリスク資産という“罠”による損害を最も受けているのは、当の米国勢ではなく、欧州勢であるというのがマーケットの猛者たちの間における常識だ。中でも、これまでEUの東方拡大によるバブル経済の恩恵を最も受けてきたドイツ勢が抱えるに至った損失額は、莫大なものであると考えている。そして、その全貌が一体いつ明らかにされるのかが、焦眉の課題の1つとなっているほどである。


そのようなドイツ勢の抱える“越境する投資主体”の中で、最初に餌食になったのがこのヒュポ・レアル・エステートだったというわけなのである。これに対してドイツ政府はすぐさま対応を発表し、「同銀行を“国有化(Enteignung)”する」と高らかに宣言したのである。「損害額が巨大だから、究極の公的救済として“国有化”をするのは当然だろう」――そう主張するドイツ政府の姿勢は一見するともっともらしいものに見えた。しかし、それに対して叛旗を翻した勢力がいる。同銀行の株式を多数保有し、大きな影響力を行使してきた米系“越境する投資主体”の雄であるJ.C.フラワーズ(ファンド)である。


「“国有化”とは何事だ!?仮にそうしたいのであればマーケットにおいてつけられている株価を遥かに上回る金額で買い取ってほしい」


そう主張してやまない米系“越境する投資主体”に対し、ドイツ勢は頑として首を縦に振らなかった。そればかりではない。シュタインブリュック連邦財務大臣を中心に、こうした米国勢の攻勢に対する反論を派手に繰り返してきたのである。


そしてついに今般、ドイツの法律成立に際して実質的な拒否権限を持つ連邦大統領までもが署名することで、この“国有化”のための法律が成立したのだ。金融メルトダウンの本質の1つが、かねてより激化の気配があった米欧金融戦争にあるという点も、このコラムで繰り返し述べてきたとおりだ。今回の“国有化”法案によって、米系“越境する投資主体”の雄であるゴールドマンサックスの系統に位置するJ.C.フラワーズがドイツより撤退命令を下されたことで、いよいよこの争いも頂点を迎えた感がある。

その次にある「潮目」を読み解くための予測分析シナリオ

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”について私は4月18、19日に大阪・名古屋でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナーで詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きはぜひともお集まりいただければ幸いである。


日本のマスメディアにはびこっている旧態依然とした“言論人”の中には、今次金融メルトダウンが「資本主義の終わりを告げるものだ」などと軽々しく述べては稼ぎまわっている向きが後を絶たない。しかし、そう言ったところで何も始まらないのであって、問題は資本主義が変容を余儀なくされるとしても一体どのように“変わる”のか、またそれを控えて私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンは何をもって情報とし、それをどのように読み解き、戦略としていけば良いのかにある。今こそ、それを真摯に考えるべき時がやってきているのではないだろうか。


この観点から必要なのは、情報をどこで獲得すべきかを知り、それをどのように読み解き、また戦略にし、さらには具体的な行動に移していくための総体的な能力としての「情報リテラシー」である。また、この「情報リテラシー」をもって予測分析シナリオをたて、日々これを修正するという生活のクセ(the habit of the heart)をつけることこそ、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンに求められているというのが我が研究所の考え方である。


この観点から、私の率いる研究所では去る4月4日、新予測分析シナリオ「ネオ・ヘイヴン」を発表した。いま現在から2020年までの世界におけるマーケットとそれを取り巻く国内外における情勢展開の可能性を描くのがこの新予測分析シナリオだ。その骨格の1つを成しているのが、地球の裏側における“国有化”騒動であることはいうまでもない。


冷めやまぬ金融メルトダウンの中でもクールな頭を持ち、情熱をもって行動していくこと。――これを明日を担うべき日本の個人投資家・ビジネスマンは忘れてはならない。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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