『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

自ら首を差し出す日本企業の愚行

荒れる2010年株主総会

今年もようやく株主総会の時期が終わろうとしている。上場企業の総務部にお勤めの読者の方々は、やっとのことで一息といったところだろう。「今年の株主総会は2時間半以上もかかった」「増資計画を巡って紛糾した」等など、その場で噴出したテーマには事欠かない状況になっている。


2007年夏から誰の目にも明らかになったのが、現在進行中の金融メルトダウンだ。当初から、その規模は余りにも巨大なものとなる旨の警告は随所から発されていたものの、昨年(2009年)も春になると、企業社会の中でも一気に問題が噴出し始めた。終わるあてもないメルトダウンの中で、少しでもキャッシュを確保しようと日本企業たちは社債を発行し、マネーをかき集めた。


当然、状況が日本勢よりひどかったのは米欧勢だ。2007年に入る頃までは、やれ「三角合併」だ、「買収」だと米欧系“越境する投資主体”たちの動きへの警鐘は間断なく打ち鳴らされていた感がある。しかし、サブプライム・ショックとなった2007年8月以降はそれもピタリと止んでしまう。「もはや金融資本主義の時代は終わった」――そんなメッセージが“お茶の間言論人”たちの間でまことしやかに語られ始める中、かつて「黒船来襲」と叫ばれた米欧系“越境する投資主体”たちによる無防備な日本企業をターゲットとした「買収ゲーム」は、もはや忘却の彼方に行ってしまった感がある。その一方、ますます関心が高まってきたのが、日本勢の中における設備投資額の「増加」という事実である。「景気は底を打った」といった楽観論があからさまに“喧伝(けんでん)”され始める中、日本勢においても企業が徐々に財布のヒモを緩め始めた感がある。

「買収防衛策」を撤廃し始めた日本勢

こうした観点でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。


今年、行われた日本企業の株主総会においては「買収防衛策」についての議論が後退し、あるいはそもそも「買収防衛策」の“撤廃”すら議論された企業が出てきたというのである。米欧系“越境する投資主体”たちによる投資(=買収)意欲が明らかに低下しているのが原因と“喧伝”されてもいる(23日付「フジサンケイビジネスアイ」参照)。


「景気は二番底などつけない。とりわけ金融メルトダウンの被害が少なかった日本勢は世界で真っ先に景気回復を遂げる」――こうした楽観論が“流布”される中、維持するのでさえ手間暇がかかる「買収防衛策」は日本勢にとって徐々に過去のものとなり、邪魔なものになりつつあるというわけなのだ。他のテーマでは大荒れに荒れる株主たちも、買収防衛策の話になると不思議と今年は無関心であったように見受けられる。経営陣と株主の側において「無関心」であれば、もはやそのテーマはテーマではない。その結果、“首尾よく”「買収防衛策」は撤廃され、日本企業は続々と「丸腰」な状況へと戻りつつある。「米欧系“越境する投資主体”たちが、日本マーケットで暴れまわることはもはや絶対にない」…そんな根拠の乏しい楽観論が口にされながら。

誰が日本勢を狙っているのか?

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で米欧勢、そして中韓勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は7月3日(土)に東京、23日(金)、24日(土)、25日(日)にそれぞれ神戸、大阪、名古屋にて開催する「IISIAスクール」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。


というのも、実は昨年(2009年)秋頃より、日本勢の優良企業を巡っては“越境する投資主体”の中で品定めが行われてきた経緯があるからだ。もちろんその目的は「買収」、すなわち「M&A」である。本来であれば今年(2010年)3月頃がその実行段階となる見こみであったが、直前になって米欧系“越境する投資主体”たちが一斉に手を休め始めた感がある。その際、彼らは口ぐちに「秋まで待とう、秋まで」と語っていたのである。


一方、ここで忘れてはならない重大な問題が一つある。それは、資金繰りに困った日本勢は昨年(2009年)、またしても社債による資金調達に手を出したという上述の「事実」である。しかし、今や米国勢ですら金利引き上げを云々する状況である。欧州勢を中心に“デフォルト(国家債務不履行)”危機にさらされつつある中、ハイパーインフレを防ぐべく、各国勢は盛んに金利引き上げ競争に入りつつあるのが実態なのだ。もちろん日本勢もそれに官民問わず巻き込まれるのは必至であり、やがて、それはこうした社債へも悪影響をもたらすことは間違いないのである。実は、米欧系“越境する投資主体”の仮面をかぶりながら、日本勢のいわゆるモノづくり系老舗企業を中心に、株式を買い占める形で“デフォルト(償還不能)”にすらなりかねない社債を狙っている国がある。それは中国勢、そして韓国勢ではないかという分析だ。事実、東海三県ではまたぞろ非上場企業にまで中国勢と韓国勢が「買収の打診」を次第にやり始めているという非公開情報すらあるのだ。


ところが迎え撃つ日本勢はといえば、何と驚くべきことに「丸腰」なのである。「絶対にそんなことはもう無い」――そう確信した日本勢に、もはや打つべき手は無いという時期が、もうまもなく到来する可能性が高まっているのである。そして米欧系“越境する投資主体”たちはと言えば、これまでのような「死んだフリ」を俄(にわ)かに止め、富を退蔵してきた中国勢とタッグを組む形で日本勢に襲いかからんとしているのだ。


「油断大敵」とは正にこのことなのだろう。戦後、日本が手塩にかけて育てた企業が海の向こう側に取られぬよう、今から警鐘を鳴らすことで、一人でも多くの賢明な日本人が「そうはならないための方策」を取るよう、心から祈ってやまない。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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