やはり日本市場は閉鎖的?英ファンドのJパワー株買い増しに中止勧告
外為法に基づく初の買い増し中止勧告
日本政府は4月16日、Jパワー(電源開発、9513)の株買い増しを申請していた英投資ファンド、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)に対して、買い増しの中止を勧告しました。理由は「公の秩序の維持が妨げられるおそれがある」ためです。
Jパワーは、電力各社への電気の卸売りを事業の柱とし、元々政府と電力各社が全株保有していましたが、04年に東証一部に上場。以降、外国人持ち株比率が4割程度まで高まっていました。その中でもTCIは9.9%を保有する筆頭株主でした。
日本では、外国人投資家が電力やガス、鉄道などの「国の安全」などに関わる企業の株を10%以上取得する場合、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき、申請することが義務付けられています。
Jパワー株を20%程度まで買い増すことを目指していたTCIも、今年1月に申請を行いました。それに対し、関税・外国為替等審議会(外為審)の外資特別部会が上記の通り、中止を勧告したのです。【ポイント1】
もちろん、これで問題が終わったわけではありません。TCIは、現時点では中止勧告を受け入れるか否かの判断を示しておらず、法的措置、つまり中止勧告の撤回を求める訴訟も検討しているとの報道もあります。
また、TCIは中止勧告を受けた翌日、増配や持ち合い株売却などを求める株主提案を行いました。この提案が受け入れられなかった場合、Jパワーの中垣喜彦社長の再任を拒否する考えを示しており、6月の同社株主総会まで予断を許さない状況が続きそうです。
とん挫する外国ファンドの日本企業買収
今回のJパワーとTCIの問題は、Jパワーが電力という「国の安全」に関わる企業だったため、外為法に基づき中止勧告が出された初めての事例となりました。そういう意味では例外です。
しかし、マーケットがグローバル化する中、外国ファンドが日本企業を買収しようとする事例はいくつもあります。その中でもすぐに思い出されるのが、米投資ファンド、スティール・パートナーズ(スティール)とブルドックソース(2804)の騒動ではないでしょうか。
スティールは約17億円を投じ、ブルドックの発行済み株式の約10%を取得し、07年5月には同社に対して敵対的TOBを仕掛けました。これに対し、ブルドックは買収防衛策を導入、その妥当性については最高裁にまでもつれ込みました。
最終的には最高裁も認めたことで、ブルドックは防衛策を発動し、スティールの保有比率は3%程度まで低下。TOBに応じた株主も2%弱にとどまり、買収は実現しませんでした。買収に失敗したスティールは、今年3月までに保有するブルドック株を全て売却しています。
東京高裁はスティールの抗告棄却に際し、スティールを「濫用的買収者」と認定。司法までもが海外勢による日本企業の買収に非常にネガティブな判断を下したことで、海外メディアに「日本の市場はやはり閉鎖的である」とのトーンが目立ちました。【ポイント2】
やはり日本の市場は閉鎖的なのか?
Jパワーを巡っても同様です。欧米メディアは中止勧告の決定を速報で報じました。ロイターは「日本政府は安全保障上の問題として議論していたが、(海外では)日本市場の開放性が試されるケースとして受け止められていた」と報道。AP通信も「海外投資家の失望感が増しそうだ」と分析しました。
もちろん、電力というのは国の根幹となる部分です。それを担う企業の株取得に何らかの規制を設けることは必要かもしれません。
しかし、だからといって現状のままでいいのかというと、そういうわけにはいかないでしょう。上場したからには、今後も買収される可能性はあります。それを規制するのであれば、納得のいく説明が求められます。
またTCIは、持ち合い株の下落により、Jパワーに150億円の評価損が生じていると指摘、「株式持ち合いの慣習が日本市場に大きな弊害をもたらしている」と批判しています。こうした主張に対しても、きちんと答える必要があります。
また、今回の外為審の決定については、渡辺喜美金融担当相も「閉ざされた国であるとの印象を持たれるのは非常に良くない」と述べるとともに、「国内ファンドだったらどういう理屈が付くのか」と疑問を呈する場面もありました。
政府が一投資ファンドの株買い増しに中止を勧告するというのは、一般的には市場の閉鎖性を指摘されても仕方がないこと。日本に対する海外マネーの流入が再び減少しないか、懸念せずにはいられません。【ポイント3】
- 【ポイント1】
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最近では、カナダ産業省が、米アライアント・テクシステムズ(ATK)による国内宇宙機器メーカー最大手マクドナルド・アンド・デトワイラー(MDA)の衛星事業部門買収提案を「純国益」に反するとして、承認を拒否した事例がありました。
カナダには投資法という法律があり、1985年の施行以来、外資系企業によるカナダ企業の買収を1,500件以上審査していますが、承認しなかったのは初めてです。自国の利益を守ろうとする動きは、日本だけに見られるわけではない、ということも知っておきたい事実です。 - 【ポイント2】
- Jパワーの案件は、規模の点でブルドックソースと異なります。日本通の外国人投資家は、スティールとブルドックの案件を「小さなもの」としている節があります。しかし、Jパワーぐらいの規模になると、これまで以上に日本は閉鎖的だとの印象が強まってしまうのではないかと思います。
- 【ポイント3】
- かつて、小泉純一郎氏は首相在任時、世界に向けて「investment Japan」と題し、日本が外国人投資家に向けて開かれていることを首相自らが発信していました。米国ではCMにも出演し、日本に投資することのメリットを訴えました。経済と政治は密接なもの。日銀総裁人事のドタバタ劇を見ても、日本が海外から投資魅力があると思われるのは、まだ先のように思います。
説明不足ということもあり、閉鎖的と見られてしまう日本にも問題はあるでしょう。しかし、右肩下がりのJパワーの過去1年の株価を見てみると、TCIも、株を取得したはいいが、引くに引けなくなって何とかしようとしたところ、政府から横槍を入れられた、とうがった見方をされても仕方がない面もあります。(木下)
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昨年4月のJパワー買収問題のころから日本の株式市場について海外の投資家から閉鎖的だと指摘されています。長期低迷が予測される日本の株式市場について、この「鎖...
2009年01月07日 22:59 | 眞鍋かとりのココだけの話
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。