テレビ事業から全面撤退、“過去最大”構造改革に踏み切ったパイオニア

最大手すら赤字のテレビ事業

未曾有の経済危機の中、パイオニア(6773)が“英断”を下しました。2月12日発表した経営再建策の中で、薄型テレビ事業からの全面撤退を打ち出したのです。パイオニアといえば、薄型テレビの草分け的な存在。その同社が、“柱”とも言うべき事業からの撤退を表明しました。

今回の経済危機の影響で、日本のお家芸であった製造業は、次々と赤字に転落しています。トヨタ自動車(7203)が創業来初の営業赤字に陥り、日立製作所(6501)は過去最大となる7,000億円もの最終赤字に転落。その他、日本を代表するパナソニック(6752)、ソニー(6758)なども赤字を発表しており、日本経済は先行きの見えない異常事態に陥っているといえます。

自動車、家電などの北米の消費をてこに業績を伸ばしてきた産業は、特に苦しい状況で、中でも花形であった薄型テレビ事業では、パイオニア以外にも、液晶テレビ国内最大手のシャープ(6753)が09年3月期の最終損益が1,000億円の赤字(前期は1,019億円の黒字)になる見通しを発表しています。

シャープは、需要減による価格下落と円高の影響で、液晶テレビやパネルの採算が悪化。生産ラインなどの構造改革費用や有価証券評価損などの特別損失が1,187億円に達しました。また、営業損益は300億円の赤字(前期は1,836億円の黒字)で、営業・最終共に赤字となるのは東証に上場した1956年以来初めてのことです。

液晶テレビ最大手のシャープですら苦戦を強いられている状況が、冒頭で述べた薄型テレビ事業からの撤退という、パイオニアの決断につながったわけです。

全面撤退は“英断”か?

パイオニアは08年、中核部品であるプラズマパネルの生産中止や工場閉鎖を決めましたが、景気後退などによる環境の一段の悪化を受け、国内AV(音響・映像)メーカーでは初めてとなる、全面撤退を決めました。

事業見直しに伴い、2010年3月期を目処に連結従業員の約2割にあたる1万人を削減する予定で、昨今問題になっている「派遣切り」という雇用の問題が、正社員にまで波及し始めていることがはっきりとしました。さらに、2010年春の新卒採用の見送りも決めています。

では、パイオニアの全面撤退をどのように評価すればよいのでしょうか。それを考えるためには、まず「テレビ事業」そのものについて振り返る必要があります。

実は、パイオニアの中興の祖と呼ばれる石塚庸三・元社長(故人)は「テレビには手を出してはいけない」と何度も語っていたといいます。固定費負担が重く、収益寄与させることが難しいことを知っていたからでしょう。実際、ソニーは一時はトップシェアにまで上り詰めたにも関わらず、テレビ事業で数百億円の赤字を計上せざるを得なかったなど、「テレビ事業が赤字を垂れ流す」という状況は珍しいものではありませんでした。

同時期には、液晶のシャープ、プラズマのパナソニックはそれぞれ黒字を計上していたので、いわばテレビ事業の勝ち組といえます。しかし、現状ではこの2社ですら赤字に転落しているのです。

そう考えれば、パイオニアの全面撤退の決断は当然のものといえます。

待ち構える“嵐”、前途多難な構造改革

しかし、パイオニアの場合に問題となるのは、テレビ事業からの全面撤退の後、何が収益の柱となるのかという点です。

同社は車載器事業を柱にすえる方針ですが、これまでテレビの赤字を埋め合わせてきた車載器という“孝行息子”も、自動車各社の生産減の影響もあり、09年3月期には125億円の営業赤字(前期は262億円の黒字)に転落する見込みです。

黒字転換が見込めないテレビ事業からの撤退自体は評価できるかもしれません。しかし、その代わりとなるなる柱も前途多難で、非常に心もとない状況なのです。

では、自動車業界が回復し、パイオニアへの追い風が強まる兆しはあるのか。残念ながら、その問には「NO」と答えざるを得ないでしょう。

報道によると、トヨタなど国内乗用車8社の08年度の世界販売は前年度比13%減の1,940万台に落ち込む見通しだといいます。過去最高を見込んだ期初計画に比べ380万台少なく、なんと8社の全工場の2割にあたる約20ヶ所の生産能力が余る計算です。

また2月18日午前は、米ゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーの経営再建計画の政府への提出期限です。破たんが懸念されている両社ですが、GMの再建計画を巡っては、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の申請を選択肢に入れる案も浮上しています。

米ウォールストリート・ジャーナル紙によると、GMは政府支援による再建という「従来案」に加え、一部ブランドなど優良事業を新会社に集約、不振事業は裁判所の管轄下で売却や生産を検討する「破産案」を示す見通しだといいます。

赤字を垂れ流す事業からの全面撤退は英断といえるかもしれません。しかし、こうした自動車産業を取り巻く厳しい状況を踏まえれば、たとえリストラ、構造改革を実施したとしても、パイオニアの前には“嵐”が待ち構えていると考えざるを得ないでしょう。

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

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マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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