過去最高益更新でも株価下落、任天堂の今後の課題とは?
軒並み赤字の大手企業
日本を代表する優良企業が次々と赤字決算を発表しています。中でも、1年前には2兆円を超える営業利益を稼ぎ出していたトヨタ自動車(7203)が今年度、4,000億円もの赤字決算を余儀なくされたことは、状況の深刻さを物語っているといえるでしょう。
しかも、その発表に至るまでに3度もの下方修正を繰り返しています。かつての優良企業は、底の見えない泥沼に迷い込んでしまっています。
※トヨタの赤字決算については、バックナンバー『創業家の“復権”はどう影響する?赤字転落トヨタの今後』をご覧ください。
他にも、最終損益ベースでは日立製作所(6501)が製造業としては過去最大の赤字を計上する予想を発表をしたのをはじめ、ソニー(6758)、パナソニック(6752)といった大手企業も同様の苦境に立たされています。
こうした苦境の背景としては様々な要因が挙げられます。世界的な景気の急減速に伴う販売減少、そして需要減少にる価格下落などです。
また、外需企業にとっては円高の影響も大きいでしょう。例えば09年3月期の連結業績予想を修正し、14年ぶりに営業赤字(2,600億円)に転落するソニーの場合、下方修正の主因は販売不振や価格下落による影響2,800億円ですが、円高の影響も600億円にのぼり、決して無視できないものです。
ソニーは為替を1ドル100円、1ユーロ140円と想定していましたが、昨年10−12月がそれぞれ95円、125円で推移しました。その結果、今年1−3月の想定レートを1ドル90円、1ユーロ120円に見直すことを余儀なくされています。
過去最高益でも株価下落の任天堂
このように日本を代表する製造業が軒並み赤字決算となる中、過去最高益を更新したのが任天堂(7974)です。同社は1月29日、09年3月期の連結営業利益が前期比9%増の5,300億円になる見通しだと発表しました。
欧米を中心に、据え置き型ゲーム機「Wii(ウィー)」や携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」の販売が好調で、世界景気の急減速という逆風の中、過去最高益を更新するのです。
苦戦を強いられる日本企業の中、まさに“ひとり勝ち”といえる状況です。しかし、株式市場は任天堂に対してシビアな評価を下しています。
5,300億円の営業利益は過去最高ではありますが、円高が響き従来予想(6,300億円)は下回っています。結果、同社株価は発表後、大きく値下がりしてしまったのです。
(出所)ヤフーファイナンスより
“ひとり勝ち”でも安泰ではない
製造業は軒並み赤字、過去最高益を更新した企業ですら株価は下落してしまう。
この状況から私たちは何を読み取ればよいのでしょうか。
ほんの少し前まで、日本は世界に冠たる「モノづくり国家」だったはずです。しかし今、多くの日本の製造業が「イノベーションのジレンマ」に陥っていると、私は考えています。
イノベーションのジレンマについては、トヨタの赤字決算について解説した際にも触れましたので、そちらもご覧ください。
http://money.mag2.com/invest/soubanote/2009/01/post_110.html
また、本日(2月3日)の日本経済新聞13面の「一目均衡『新安値をつけた大企業株』」では、以下のような私のコメントが紹介されています。
「ハイブリッド車をモデルチェンジして値上げするトヨタ自動車の発想は供給者の論理ではないか」
「ソニー製だからといって10万円近い小型ノートパソコンを買う時代ではない」
イノベーションとはつまり“破壊的”な事象のこと。既存の価値観を壊す、まさに破壊的な事象が起こる中、日本企業が今のまま、高コスト体質かつ消費者から見て決して魅力的とはいい難い商品やサービスを提供し続けて、収益を上げること自体が難しくなっているのです。
より具体的に説明しましょう。
インドなど新興国が格段に力を蓄えてきているということは、イノベーションの具体例といえます。
そのインドの自動車市場では、スズキ(7269)が約5割のシェアを握り、営業利益で500億円規模を稼いでいます。営業利益1,500億円規模のスズキにとっては、極めて大きな柱です。
しかし、2兆円を稼ぎ出していたトヨタにとってはどうか?たった0.25%の収益寄与にしかならないのです。これではトヨタが、インド市場に経営資源を大きく割くことは難しいでしょう。そのインセンティブも働きにくい。
これこそが、イノベーションが起きていることが分かっていながらも、その分野に経営資源を集中できないジレンマということなのです。
任天堂にしても同様です。今ヒットしている商品もいずれは飽きられてしまいます。だからこそ、「誰もが欲しがる商品」を作り続け、イノベーションを模索していかなければいけないのです。
任天堂はそれができる企業なのか。冷静な目で見極めることが必要なのではないでしょうか。
- 日本企業が強かったのは、過剰消費に裏打ちされた米国の存在があったからといえます。その米国が景気後退に見舞われる中、日本企業、特に製造業が別の活路を見出し、かつてのような輝きを取り戻すことができるのか。今はまさにその瀬戸際に立っていると、私は考えています。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。