ついに10兆円超え。時価総額日本第3位に躍り出た任天堂の今後
予想を大きく上回る好決算
任天堂(7974)は10月25日、08年3月期の連結経常利益が4,600億円で、前期比59%増となる見通しだと発表しました。これは、これまでの業績予想を500億円上回る好内容です。
好調の要因は、据え置き型ゲーム機「Wii(ウィー)」や携帯型「ニンテンドーDS」と、ゲームソフトがともに好調な売れ行きを見せたためです。
Wiiの世界販売台数は1,750万台、DSは2,800万台に達する勢いです。中高年などこれまでゲーム機に縁遠かった層を取り込み販売を伸ばし、7月の見通しに比べ、Wiiは100万台、DSは200万台の上積みとなりました。
この好決算を先取りしてか、任天堂株の8月から10月までの上昇率は約50%となっています。同期間の日経平均株価の上昇率は約8%ですから、驚くべきパフォーマンスといえるでしょう。また、業績の上方修正発表後も、1週間で約10%も上昇しました。
サブプライムローン問題など、市場に不透明感が漂う中、投資家が好調な企業に一極集中した結果なのでしょう。
このように株価が順調に上昇する任天堂の時価総額は、ついに10兆円を突破し、日本企業としてはトヨタ自動車(7203)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)につぎ、国内第3位につけています。
同社の最低投資単位は100株です。ということは、同社に投資するには、11月5日の終値が7万1,500円ですから、最低でも700万円以上の資金が必要です。これだけの資金を投入できるのは、相当腰が据わった個人投資家か、資金量が豊富な機関投資家なのでしょう。【ポイント1】
飛躍の原動力は原点回帰
WiiやDSについては、何か目新しいもののように受け止める向きもありますが、実際は任天堂にとっての「原点回帰」の商品群といえます。
なぜ原点回帰なのか?その点を考える上で思い出さずにいられない人物がいます。それは、任天堂で製造本部開発第一部部長だった横井軍平氏です。
彼は、「ウルトラハンド」という玩具で一世を風靡し、その後、「ゲームウォッチ」、「ゲームボーイ」などの大ヒットゲームの開発を手がけ、96年に退職しました。【ポイント2】
私は横井氏の退職後、任天堂の低迷、迷走が始まったと考えています。
横井氏の退職の2年前の94年、ソニーの初代プレイステーションが発売され、爆発的な人気となりました。任天堂は、携帯型ゲーム機ではゲームボーイにより存在感を保ち続けましたが、据え置き型では主役の座を完全にソニーに明け渡した形となりました。
※任天堂とソニーのライバル関係についてはバックナンバー『任天堂の株価、新ゲーム機「Wii(ウィー)」発売で好調続く?』をご覧ください。
任天堂は、DSそしてWiiにより、据え置き型ゲーム機でも、再び主役の座に返り咲いたわけですが、実は横井氏が手がけたゲームの中に、Wii、DSの原型とも言えるものがあるのです。
それは、「ダックハント」という、壁に映った鳥の映像を光線銃で撃つというゲームです。まさに、Wiiと同じコンセプトによるゲームといえます。また、2画面の「ゲームウォッチ」はDSを思い起こさせます。私もゲームウォッチでドンキーコングやオイルパニックといったゲームを何度もプレイした記憶があります。
ですので、私は任天堂の「原点回帰」が、今の成功の原動力になっているのだと考えています。
好調任天堂の死角は?
とはいえ、今後の任天堂に全く死角がないのかというと、そうではありません。
例えばDSは、欧米で普及期を向かえ販売も好調ですが、日本国内では、本体、ソフトの販売数量は右肩上がりとは言いにくい状況です。また、Wiiは、現状、採算のよい自社製ソフトが多い点が収益を押し上げていますが、どんどん高機能ゲーム機が登場する中、目移りの激しい消費者の心をいつまでも捉え続けることができるのか疑問が残ります。
また、株価をみてみても、株価収益率(PER、株価が収益の何倍と評価され
ているかを表す指標)は40倍付近にまでなり、割高感が漂っています。【ポイント3】
株価は「資産価値+収益価値+夢・希望」の3点がセットになって動くため、夢や希望が大きければそれだけ株価も押し上げられます。しかし、収益の伸びが鈍化してしまうと、夢や希望もセットでマイナスに振れてしまいます。
任天堂の株価は、より高値を追い求めていくのか、それともいったん踊り場を迎えるのか。もしくは逆に下落に転じてしまうのか。非常に難しい局面を迎えているといえます。
それをどう判断するのか、投資家それぞれの判断力が求められる場面ともいえます。
- 【ポイント1】
- 投資単位といえば、資生堂(4911)なども引き下げを行っていません。逆に最近では、三菱UFJフィナンシャルグループが投資単位引き下げを行いました。私は、投資単位引き下げは、投資家にとってプラスであることだとは思っていません。投資単位が大きいということは、それだけ投資家も投資に覚悟がいるということ。それだけの覚悟を投資家に求める以上、会社も報いていくんだという姿勢を感じることができる、と考えています。
- 【ポイント2】
- 横井氏に関しては、『横井軍平ゲーム館』という書籍が出版されています。しかし、絶版のため、アマゾンでは1万円近くの高値がついています。私は、知人から同書の存在を知らされ、すぐに1万円を出して買いました。任天堂を調べる上で、大変貴重な本だと思います。
- 【ポイント3】
- 投資を行う上では、企業価値を常に数字に落とし込む作業が必要になってきます。数字に落とし込む上で、一番便利なのが株価収益率(PER)です。日経平均株価が概ね15倍から20倍だと考えると、40倍の任天堂はやや高いかな、と思います。
どちらに動くかよく分からないときは直接取材をしてディスカッションすることを心がけています。そのため、私は近く、任天堂へ訪問取材をする予定です。前回同社を取材したのは03年。誰も同社に対して魅力を感じていないときでした。それから4年が経過し、評価は一変しています。今一度同社を徹底的に調べたいと思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。