任天堂の株価、新ゲーム機「Wii(ウィー)」発売で好調続く?

任天堂Wii、PS3をを大幅に上回る好調な売れ行き

2006年12月2日、任天堂(7974)の新型ゲーム機「Wii(ウィー)」の日本発売が開始されました。家電量販店などには前日の夜からから長蛇の列ができ、主な量販店ではほぼ品切れ、初回生産分の約40万台は完売したようです。

この初回販売分40万台は、ライバルであるソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション(PS)3」の4倍にあたります。

年末までにさらに60万台が追加出荷される見通しですが、「年末までに累計200万台は出荷しないと(需要に)追い付かない」(大手量販店)との見方もあり、まだまだ過熱人気は続きそうです。

11月に先行発売された北米および南米でも、発売8日で60万台の売上を記録、年内には200万台を突破するといわれています。【ポイント1】

最近のゲーム機は、PS3やマイクロソフトが発売した「Xbox360」など、実写にも劣らない高画質や処理能力の高速化など高機能化が進んでいました。しかし、Wiiはそうした高機能化とは一線を画し「親しみやすさ、使いやすさ」を前面に打ち出し、価格もPS3の4万9,980円に対して、2万 5,000円とかなり安く設定。これまでゲームに興味のなかった層の取り込みを図っています。

Wiiの好調な売上は、高機能を追求した「ニンテンドウ64」や「ゲームキューブ」から方針を大きく転換し、「Wiiの開発は今までの延長という考えを捨て、非連続で行くことにした」という岩田聡社長の狙いが当たった結果といえるでしょう。

任天堂の株価はどう推移していたのでしょうか。今年に入り、日経平均が軟調に推移するのに反して、同社株はほぼ一本調子上昇していました。Wii発売直前の11月30日には、16年ぶりの高値となる2万7,900円をつけ、年初来最高値を更新しました。

9月15日の終値が2万2,500円ですから、約2ヵ月半で約24%上昇したことになります。その間の日経平均の上昇が4%にとどまっていることを考えると、任天堂株の好調ぶりがうかがえます。

Wiiの発売後、最初の取引となった12月4日は、前週末比140円安の2万6,960円となりましたが、これは販売好調をひとまず「織り込んだ」展開といえるでしょう。

ソニーとの熾烈なシェア争い

任天堂は、83年に家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」を発売し、85年の「スーパーマリオブラザーズ」を始めとするソフトのヒットに恵まれ業績を伸ばしました。ファミコンは、日本の出荷台数は約1,935万台、海外で約6,291万台を出荷する大ヒット商品となりました。【ポイント2】

日本国外では、ファミコンは Nintendo Entertainment System(略称NES)という名称で販売されていました。そのため、北米では「Nintendo」がビデオゲーム一般の俗称として用いられているほどなのです。

任天堂の株価も、ゲーム機のヒットに連動する形で推移しました。「スーパーマリオブラザーズ」を発売した85年以降、株価は急伸し、84年末3,993円だったものが、86年7月末には2.5倍の1万0,030円にまで上昇したのです。

90年には、ファミコンの後継機種である「スーパーファミコン」を発売、株価は89年12月末の1万1,111円から、90年7月末には2万1,333円へと、たった7ヶ月で約2倍の上昇をみせました。

しかし、90年代半ばに入り、ソニー製の「プレイステーション(PS)」がゲーム業界を席捲した影響で、一進一退の株価推移が続きました。

ソニーは94年にPS1でゲーム業界に新規参入を果たし、「ファイナル・ファンタジー」シリーズや、「ドラゴンクエスト」など人気ソフトが続々とPSに参入したこともあり、97年に国内販売1,000万台を達成しました。

苦戦を強いられた任天堂は、96年に3Dに対応するなど高機能化したゲーム機「NINTENDO64」を発売し、巻き返しを図りましたが、最終的な販売台数は500万台強にとどまりました。

一方で、ソニーは00年にDVD再生機能などを追加したプレステの後継機となる「PS2」を発表、1年で国内販売1,000万台を超える大ヒットとなりました。任天堂も、「ニンテンドーゲームキューブ」でそれに対抗しようとしましたが、結局、PS2のシェアを奪うことはできず、04年の日本の据置ゲーム機のシェアの8割をPS2が握るという、ソニーの圧勝に終わりました。

このように90年代、強力なライバルの出現で苦戦を強いられた任天堂ですが、携帯ゲーム機の分野では、89年のゲームボーイの発売以来、その地位を守り続けていました。01年には、ゲームボーイアドバンスを発売。ポケットモンスターを始めとするソフトの人気に支えられ、好調な売れ行きで、PSPで携帯ゲーム機の分野に参入したソニーに大差をつける結果となりました。

そうした背景の中、04年に発売されたのが「ニンテンドーDS」です。国内であわせて400万本以上を出荷した「脳を鍛える大人のDSトレーニング」シリーズなどソフトに恵まれ、ハードも06年7月までに1,000万台を突破する好調な売れ行きをみせました。

その結果、10月26日発表した06年9月中間期連結決算は、営業利益が前年同期比3.4倍の671億円と連結中間期の集計を始めた95年以来最高となり、Wii発売で、プレイステーションの登場以来、久しぶりに据置型ゲーム機での好調が伝えられるというニュースにも後押しされ、16年ぶりの高値更新となったのです。

過熱する「ゲーム機戦争」、活気づくソフト業界

「Wiiの任天堂」対「PS3のソニー」の勝負は、現時点では任天堂の圧勝のように思えます。しかし、今後はソニーの巻き返しが予想されます。【ポイント3】

05年末時点での世界累計販売台数をみると、ソニーの「プレイステーション2(PS2)」が8,000万台超で独り勝ちの状態です。ソニーは今でこそPS3の量産につまずき初回出荷が10万台と鈍いスタートとなっていますが、「ゲーム機としての性能」では、PS3がWiiを大きく上回っていると広く認識されています。PS3がこのまま不調に終わるとは考えられません。

また、日本ではほとんど存在感がないマイクロソフト「Xbox」は、実は北米と欧州では任天堂「ゲームキューブ」を上回っています。Xboxは欧米で人気のスポーツやレース、戦争ゲームなど、高画質を生かしたリアルな描写が強みなだけでなく、次世代機「Xbox360」を他社に1年先駆けて発売したスピード感から、欧米中心に売り上げを伸ばしています。

そして何より、ゲーム機の売上を左右するのはソフトです。人気ソフトがあるかどうかがゲーム機の売れ行きのカギとなります。機能では勝っていたPSPがゲームボーイアドバンスに勝てなかったのも、ポケットモンスターのような、絶対的な人気を持つソフトがなかったから、ともいえます。

ソフト業界ではここ数年、ゲーム機の性能が高まり、それに対応したソフトを制作するために、多額のコスト、そして長期にわたる制作期間が必要となりました。それによってソフト業界の収益が圧迫される状況が続いていました。

しかし、ここに来てハードの競争激化でゲーム業界が盛り上がり、ソフト業界も活気づいています。たとえば「ニンテンドーDS」向けソフト「ファイナルファンタジー III」の売上が好調なスクウェア・エニックス(9684)は、経常利益を前年同期比で 269.1%増となる91億6900万円と予想しています。

Xbox360向けソフトが欧米で好調なカプコンも株価は堅調推移しています。一方で、PS3発売延期の影響を受け、PS向けソフト力を入れるコーエー(9654)やバンダイナムコホールディングス(7832)の株価が低迷するなど、業界内でも格差が見え始めています。

新ゲーム機の発売で活気づくゲーム業界ですが、投資という観点からは、「材料出尽くし」という問題に注意しなければなりません。これは、ゲーム業界に限らず、投資全般に言えることです。

今年、悪いニュースが多く飛び出す中で、数少ない良いニュースだったのが「新型ゲーム機発売」です。しかし、実際に良いニュースが明らかになり、状況がはっきりしてくると、今度は逆に「材料出尽くし」ということで株価が軟調になるケースがまま見受けられます。

また、Wiiに関しては、アメリカでリモコンのストラップが切れて壁にぶつかるなどの“事故”が起きており、任天堂が損害賠償を求められる可能性もある、との報道もありました。

投資に過信は禁物です。好材料にみんなが飛びついている時こそ、何をきっかけに株価が下落するか分かりません。現在の任天堂のように、好材料が出続けている時は、様子見期間に入ったと考え、余裕を持ち今後の投資行動を検討したほうが良いのではないでしょうか。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
Wiiを米国で先行発売したことからも分かるように、任天堂はグローバル企業。そのため、外貨建て資産を多く保有することで為替差益が業績を左右することがあります。実際、06年9月期中間連結決算では、当初、為替「差損」を70億円と予想していましたが、実際には円安にふれたことで、逆に100億円の為替「差益」が発生したのです。
今後、仮に本業の収益が悪化しても、円安が進むことで見た目の業績は良くなるケースすら考えられます。本業の動向だけでなく、任天堂がどういった為替水準を予想しているか、そして、現在の為替水準とどれだけの差異があるかは、投資を考えるのであれば注目しておかなければなりません。
【ポイント2】
任天堂は元々トランプを作っていた会社。今の任天堂の姿からは想像が出来ないかもしれません。ただし重要なのは日本で「初めて」トランプを作った会社だということ。トランプからファミコンに非連動で移行したように、高性能機からWiiのような子供から大人まで楽しめる機種へと非連続で移行できるのも、任天堂がエンターテインメントの本質を理解しているため。大人から子供まで、みんなで楽しめるトランプを作り出したというところに任天堂の本質的な強さが隠れているのです。
【ポイント3】
ソニーが巻き返しを予想する根拠の1つが、「経営陣の刷新」が発表されたことです。特に注目すべきは、実質的なプレステの産みの親、久多良木氏の処遇です。ソニーの中鉢良治社長は「久多良木健氏ら2人による体制を、新社長の平井一夫氏らを含む4枚看板に増やして経営を強化する」として、久多良木体制の変更を発表したのです。
振り返ってみると、カリスマ経営者と呼ばれた出井元社長が更迭され、同社初の外国人社長ハワード・ストリンガー氏が就任してからは、復活期待から株価は堅調に推移しました。今後のソニーがどう動くのか、注目しておく必要があります。

任天堂という会社は、調べれば調べるほどすごい会社だと思います。だからと言って、投資をするかどうかは別物、だと思うのです。ついつい、良い会社だと、株価も良くなると考えてしまいがち。でも、良い会社ということが誰にも分かってしまう場合は、株価が逆に下落する可能性だってあります。すごい会社、良い会社だから、という分析と売買はハッキリと分けて考えたほうがいい結果につながると思います。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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