日本への「不信」が招いた日本株の「不振」〜06年上半期の株式市場

2006年は本当にいろいろなことが起こった年でした。特に上半期は、相次ぐ企業不祥事から日本に対する不信感が高まり、株価が軟調に推移する場面も見られました。皆さんの中にも、その影響を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

07年、新たな気持ちで投資に臨むためにも、06年に何が起こったのかを整理しておくことが重要です。日経平均はどう推移したかを、株価を動かしたニュースとともに振り返ってみましょう。

【1月】ライブドア家宅捜索、堀江元社長逮捕
≪日経平均株価/始値1万6,361円→1万6,649円≫

テレビ、新聞が大きく報道したこの事件を覚えていない投資家は皆無でしょう。今年最大のニュースだと言っても過言ではないと思います。

東京地検特捜部は16日、企業買収などに絡んだ証券取引法違反の容疑でライブドア本社や堀江貴文元社長の自宅などを家宅捜索。23日には同容疑で、堀江元社長を含む幹部4人を逮捕しました。

日経平均だけをみると、月末の株価は月初と同水準を保っており、この事件のインパクトは大きくなかったといえるかもしれません。

しかし、新興市場は壊滅状態となりました。家宅捜索の当日から、新興市場ではストップ安が続出。ガンホー・オンライン・エンターテイメント(3765)など、コア銘柄がストップ高になるなど、一部に株高への強い期待が見られましたが、東証マザーズ指数は16日の2,799ポイントが、月末には2,087ポイントにまで急落しました。

06年は、「ライブドアショック」という日本に対する不信の原因となる事件で幕開けしたのです。

【2月】量的緩和の解除タイミング
≪日経平均株価/始値1万6,480円→1万6,205円≫

この時期、にわかに騒がれ始めたのが「量的緩和の解除」です。バブル崩壊後、不良債権に苦しむ金融機関を抜本的に復活させるために導入されたこの政策は、いわば緊急避難的な措置。景気回復を受け、通常モードに切り替えようという動きが強まってきたわけです。

量的緩和によってジャブジャブとしていた資金は30兆円を超えていました。その資金が株式市場に流れ込んだことがそれまでの株高の要因の1つでした。そのため、量的緩和が解除されることで資金フローが変わるのでは、との不安が台頭し始めたのです。

一方で、伊勢丹(8238)が「グループ新10年ビジョン」を発表し、拡大路線を鮮明にしたり、求人倍率が1倍を回復するなど、景気回復の期待値を維持するニュースも多く報道されました。そのため、日経平均株価は1月同様、終わってみれば1万6,000円台を維持しました。

【3月】日銀、量的緩和解除
≪日経平均株価/始値1万5,964円→1万7,059円≫

懸念されていた量的緩和は10日に解除されました。それにより、短期的な不安がなくなり、株価は大きく上昇しました。さらに国土交通省が23日、東京、大阪、名古屋の三大都市圏商業地の公示地価(06年1月1日時点)が、15年ぶりに上昇に転じたと発表。「大卒採用来春21%増」など、景気拡大が実感できるニュースが豊富だったのもこの月の特徴です。その結果、日経平均は1万7,000円の大台を突破しました。

新興市場も、東証マザーズ指数が、3日の1,664ポイントから3月末には1,913ポイントまで上昇するなど、マーケット参加者の間に楽観ムードが漂っていたといえます。

しかし、そうしたニュースの裏で、懸念すべき点もありました。海外では、前年2倍以上上昇したサウジアラビア株が、この時点で20%以上下落。石油ブームで資金があふれ、企業利益が過去最高を記録する中、投資が「娯楽」となり、世界的な資金の流れに変化が見え始めていたのです。

【4月】日米欧金利が一斉に上昇、ソニー業績見通し発表
≪日経平均株価/始値1万7,333円→1万6,906円≫

3月に量的緩和が解除され、「次はゼロ金利の解除」と騒がれたのがこの時期。長期金利の指標である新発10年物国債の利回りが一時1.9%と1年10ヶ月ぶりの高水準となった7日、日経平均は年初来高値の1万7,563円をつけました。

しかし、金利上昇は一般的には株価下落をイメージさせます。株価は徐々に下落し、24日には日経平均株価が急反落、終値は前週末比489円安の1万6,914円となりました。

加えて、復活期待のあったソニー(6758)が、07年3月期の連結業績見通し営業利益を、市場予想を大きく下回る1,000億円(前期比48%減)と発表するなど、これまで好調だった企業業績に不透明感が漂い始めたことも株安に拍車をかけました。

【5月】中央青山監査法人に業務停止処分
≪日経平均株価/始値1万6,925円→1万5,467円≫

10日、金融庁は4大監査法人の一角である中央青山監査法人(現みすず監査法人)の監査業務停止処分を発表しました。05年に発覚したカネボウの粉飾決算に、同事務所の公認会計士4人が加担したとして逮捕されたことを受けての措置です。

中央青山は日本最大の監査法人です。日本を代表する大企業をクライアントに抱えており、業務の停止でクライアント企業にも大きな影響が出るとの見通しから、日経平均株価は6日続落、累計で1,133円の下げとなりました。

東京証券取引所が25日に発表した5月第3週(15-19日)の投資主体別売買動向によると、外国人の売越額が3,597億円と前の週の4.3倍に急増しています。不祥事が外国人投資家の売りを誘ったといえるでしょう。

さらにこの時期、全世界的にも株価が下落しました。15日には、シンガポールST指数が前週末85.75ポイント安の2534.83と、01年9月の米同時テロ発生翌日(116.31ポイント)以来の下げ幅を記録。また、ムンバイ証券取引所の平均株価指数(SENSEX)は、一時約3ヵ月半ぶりに1万の大台を割り込んでしまいました。

アメリカでは、4月の中古住宅販売価格の上昇率が前年同月比4.2%と、3月の同7.4%から急低下。加えて、新たに米連邦準備制度理事会(FRB)議長に就任したバーナンキ氏のインフレ抑制発言から、米国景気の失速で世界的に景気が失速するのでは、との懸念が起こり、日経平均も大きく下げ、1万6,000円の大台を割りこみました。

【6月】村上ファンドの代表村上世彰氏、逮捕
≪日経平均株価/始値1万5,503円→1万5,505円≫

5日、村上ファンドの代表村上世彰氏が、「ニッポン放送」株の取得を巡りインサイダー取引をしていたとして逮捕されました。

13日の東京株式市場では日経平均が600円を超す大幅安の1万4,218円となり、年初来安値を更新してしまいました。米同時テロ直後の01年9月12日以来の下げ幅で、東京証券取引所1部上場銘柄のほぼ9割が値下がりするという全面安の展開でした。

新興市場でも、最初に村上氏逮捕が報道された2日には、東証マザーズ指数が一時1割を超える下落をみせました。かと思えば、終値では上昇に転じるなど乱高下しました。また、中央青山の業務停止処分のときと同様、不祥事を嫌気した外国人投資家の売りも膨らみました。

6月末時点での日経平均は、1万5,505円。1月の始値の1万6,361円に比べて、856円安となっています。年初のライブドア事件から始まった「日本に対する不信」、そして「日本株の不振」が、ここに来て決定的となったのです。

このように、06年上半期は、ライブドア事件を発端とする日本に対する「不信」が日本株の「不振」を引き起こした6ヶ月間だといえます。特に新興市場は、相次ぐ不祥事に振り回され、多くの個人投資家が痛い目にあったのではないでしょうか。

しかし、そうしたニュースの影に、景気回復、そして株価上昇のきっかけとなりうる材料も隠されていました。

たとえば、厚生労働省が6月28日に発表した05年国民生活基礎調査によると、1世帯あたりの平均所得(04年の1年間)は、8年ぶりに上昇しています。村上氏の逮捕が「悪材料の出尽くし」とすれば、06年下半期は反転のための準備期間と捉えることも可能です。

事実、下半期には、株価上昇を期待させるニュースが出てきました。次週は、その中でも特に注目すべきニュースを解説していきます。(木下)
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  •  簡単に言うと不信は日本の証券アナリストへの不信感だ。だって推奨していない銘柄のほうが上がるんだから。しかもそれを良く思わず、空売りしかける。この国の発展に証券アナリストは必要なのか?

    2007年12月26日 03:17 | コロラド
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プロフィール

木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

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マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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