株価上昇の「兆し」が07年には「確信」に?〜06年下半期の株式市場
前号に続き、06年を振り返っていきたいと思います。日本企業の不祥事が相次いだ上半期と同様、下半期の株価も、とても「順調に上昇」といえる推移ではありませんでした。しかし、上半期と決定的に違うのは、「日本復活」を予感させるニュースが多く見られたことです。
こうしたニュースは、07年の相場動向を占う上では不可欠な材料です。果たして「兆し」は「確信」、そして「現実」になるのでしょうか。日経平均の推移と、ニュースを振り返りながら、そのヒントを探っていきましょう。
【7月】日銀決定会合、ゼロ金利解除へ
日経平均株価/始値1万5,571円→1万5,456円
日銀は13日、金融政策決定会合で「景気が持続的な拡大基調に入り、デフレに逆戻りする危険性は小さい」として、「ゼロ金利政策」の解除を決議しました。
発表後、日経平均株価は1万4,914円で始まり、1万5,000円台を割り込んでしまいました。しかし、月末には解除前と同じ水準で着地しています。
ゼロ金利解除とは、いってみれば日本が集中治療室から一般病棟へ移ったということ。3月の量的緩和の解除と同様、日本経済が危機的な状況を脱したことの表れといえます。ですので、短期的には株価にマイナスの影響を与えることはあっても、必ずしも否定的に捉える必要はありません。
23日には製紙業界最大手の王子製紙(3861)が、同6位の北越製紙(3865)に対してTOB(株式公開買い付け)を実施するとの発表もありました。結局、北越製紙は日本製紙(3893)と提携することとなり、王子のTOBは失敗に終わりました。
このTOBに絡み、日本証券界のガリバー・野村証券が王子側のアドバイザリーとして参加していました。国内証券大手が敵対的TOBに助言する初の事例であり、日本にも本格的なM&A時代が到来したことを象徴するニュースだといえます。
【8月】ソニー製電池の回収騒ぎ
日経平均株価/始値1万5,440円→1万6,140円
16日、パソコン世界最大手のデルが、自社のノートパソコンに搭載しているソニー(6758)製リチウムイオン電池が過熱し発火する可能性があるとして410万個を自主回収する発表しました。
ソニーは翌9月にも、部品量産に遅れが生じたため、「プレイステーション3(PS3)」の欧州での発売を延期することになりました。
ソニーといえば、「物作り」の力を武器に、世界的な企業に成長した日本を代表する大企業です。この不祥事で、日本に対する不信は、お家芸ともいえる物作りの分野にまで波及したといえます。
一方、海外に目を向けてみると、米連邦準備理事会(FRB)が8日、約2年間に及んだ金融引き締め、つまり利上げの休止を決めました。5、6月にはバーナンキFRB議長の利上げ容認発言が世界的な株価下落の要因になっており、世界中の投資家が胸をなでおろしたことでしょう。
しかし、利上げ休止の理由は「米景気が減速感増す」。それを裏付けるように、米商務省が16日発表した7月の住宅着工件数(季節調整済み)は、179万5,000戸(年率換算)で、前月を2.5%下回っています。
アメリカの利上げ休止がプラス要因となり、日経平均は月末に1万6,000円の大台を回復しましたが、上昇幅はソニーの不祥事、そして米景気減速への懸念から、小幅なものにとどまりました。
【9月】安倍首相誕生
日経平均株価/始値1万6,134円→1万6,127円
26日、小泉純一郎氏の後を継ぎ、安倍晋三内閣が発足しました。52歳と最年少、そして初の戦後生まれの首相の誕生です。
小泉氏が勇退を表明したころから、「次は安倍で確実」といわれてきました。それでも、結果を見極めたいという雰囲気から、総裁選終了までは株価に大きな動きはありませんでした。
そうした様子見の雰囲気の中、国土交通省は19日、06年の基準地価(7月1日時点)が、商業地に加えて住宅地も上昇し、平均地価が90年以来16年ぶりに上昇したと発表しました。
ソニーのリコール問題など、下半期になっても、引き続き株価を下落させる要因になりうるニュースが流れる中、日経平均が底堅く推移していたのは、平均地価の上昇に代表されるような、景気回復を実感できるニュースがあったからこそ、といえるのではないでしょうか。
【10月】新興3市場年初来安値更新
日経平均株価/始値1万6,254円→1万6,399円
10月は3月期決算企業の中間決算開示が始まる月です。26日発表の任天堂(7974)の中間決算は、売上高が2,988億円(前年同期比69.4%増)、経常利益が946億円(同66.6%増)と過去最高を記録。また27日発表の松下電器(6752)も売上高が4兆3,894億円(同3%増)で過去最高を更新しました。
またこの時期、円安が進んでいたこともあり、トヨタ(7203)など海外で収益を上げている企業の業績上方修正への期待も高まっていました。
こうした好調な東証1部上場企業に対し、新興市場では厳しい決算内容が続きました。大証ヘラクレス上場のUSEN(4842)が19日に発表した8月期決算は、売上高は前期比18%増となったものの、経常損益は前期62億円の黒字から36億円の赤字に転落。最終損益も88億円の赤字となりました。
また、携帯電話向けコンテンツ提供などを手がけるジャスダック上場のインデックス・ホールディングス(4835)が20日に発表した8月期決算も、連結最終利益が、従来予想の61億円(前期比7%増)に対し、30億7,000万円(同46%減)と、大幅な減益で終わってしまいました。
その結果、新興3市場では軒並み年初来安値を記録。日経平均が小康状態を保つ中、新興市場では1月のライブドアショック以来の投資家心理の悪化が続く、という「格差」が顕著に表れた月といえるでしょう。
【11月】冬ボーナス過去最高の86万円
日経平均株価/始値1万6,375円→1万6,274円
前月同様、日経平均に大きな動きは見られませんでした。しかし、日本の景気拡大が本格的になってきていることを示すニュースが次々と飛び出しました。
22日、政府の月例経済報告で、景気拡大が02年以来4年10ヶ月続いており、期間だけ見ると「いざなぎ景気」を超え、戦後最長になったと発表されました。
この期間の景気拡大は、好調な企業業績に支えられながらも、国民には「実感のない景気拡大だ」といわれてきました。しかし、実際にデータを見てみると、「実感ある景気回復」になりつつある、ということがわかります。
まずは、企業業績。引き続き好調であろうことを示す数値が発表されています。たとえば経済産業省が13日に発表した10月の鉱工業生産指数は、民間調査機関の事前予想の平均が「前月比0.4%低下」だったのに対し、同1.6%上昇の107.8となりました。同指数は、製造業の生産設備の状況を指数化したもので、景況感を図る重要な指標とされています。
一方で、「国民の実感」につながるデータでも、たとえば、冬のボーナスは主要企業でこれまでの最高だった97年を上回り、過去最高の支給額になるだろうと発表されました。また、人材派遣料金では、一般事務職の平均時給が春の料金改定時に比べ10%高く、半年間としては過去最大の上昇幅となるなど、好材料のニュースが多く報道されました。
また、焼き肉店「牛角」、コンビニエンスストア「am/pm」、食品スーパー「成城石井」を展開するレックス・ホールディングスが10日に、経営陣による企業買収(MBO)を実施し、株式を非公開化すると発表しました。こうしたニュースは、日本市場の成熟化をうかがわせるものだといえます。
【12月】年内金利利上げ見送り?
日経平均株価/始値1万6,321円→???円
今年は金利の議論に始まり、金利の議論で終わる、という1年だったのかもしれません。日銀は06年内の利上げを示唆していましたが、19日の日銀金融政策決定会合で、現状維持を決めました。
利上げは一般的に株価を押し下げると思われています。そのため、利上げが実施されるのでは、という懸念が払拭されたことは株価にとってプラス材料です。そのため、日経平均は続伸し、19日の終値は1万6,776円と、1万7,000円を伺う展開となっています。
また、久々に日本企業による海外での大きな買収劇も見られました。JT(2914)は15日、世界5位の英たばこメーカー・ガラハーを完全子会社化すると発表しました。買収総額は2兆2,000億円。日本企業の買収額としては過去最高です。任天堂が発売したゲーム機Wii(ウィー)も、日本だけでなく世界各国で好調な売れ行きをみせています。こうした日本企業の世界での活躍は、日本に対する信頼を取り戻すきっかけとなるでしょう。
こうした好材料に支えられ、1万7,000円を伺う展開となった06年末ですが、07年の日経平均はどう推移していくのでしょうか。
まだ日本の景気回復に懐疑的な方もいらっしゃるでしょう。しかし、上記の給与の上昇などのデータは、景気回復が確実なものであることを示しています。日本に対する不信感も徐々に払拭されつつあります。
「着実な景気拡大」と「日本に対する信頼感」。私は、この2つが07年の株価推移のキーワードとなり、日経平均はいつ2万円の大台を超えてもおかしくないと考えています。
- 前回、そして今回と06年を振り返ってみました。「今から考えればもっと冷静な判断ができたはず」と思われる方もいらっしゃるでしょう。 しかし、失敗にくよくよしていても始まりません。一番いけないのは、失敗を振り返りもせず、ほったらかしにしてしまうこと。そして、投資の世界から逃げてしまうことです。きちんと振り返り、検証すれば、失敗はあなたの財産になるのです。 そのことをしっかりと肝に銘じ、あなた自身の06年を振り返り、07年に向かっていきましょう。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。