三大証券の一角が監理ポストに。日興コーディアルが利益水増し

日興コーディアルが不正経理、課徴金は過去最高の5億円

前号で、日本の「不信」は払拭されつつある、とお伝えした矢先に、大きな不祥事が発覚してしまいました。

証券取引等監視委員会は2006年12月18日、05年3月期の決算で利益を不正に水増ししていたとして、国内の三大証券会社の一角を占める日興コーディアルグループ(以下日興、8603)に、5億円の課徴金支払いを金融庁に勧告しました。

加えて、東証も同日、日興の今回の不正会計が上場廃止基準に該当するかを調べるため、同社を監理ポストに割り当てました。東証は今後、日興が提出する改善報告書の審査などを経て、通常の取引に戻すか、上場廃止が決まった銘柄を集めた整理ポストに移すかを決定します。

不正の内容は、グループ会社が子会社(日興にとっての孫会社)を使って、東証1部上場のコールセンター運営会社を買収した際、グループ会社が得た利益約170億円のみを連結決算の利益として取り込んだが、孫会社を連結からはずすことで、孫会社に発生したほぼ同額の損失を、決算に反映させなかったというものです。【ポイント1】

日興はこれまで、「一社員の過失」や、「『(問題となった)孫会社を非連結とする』という会計処理そのものが間違っていたとは今でも思っていない」などと主張、監査委との意見が大きく食い違っていました。

しかし、25日になって、有村純一社長と金子昌資会長が引責辞任し、新社長に桑島正治取締役を充てる人事を発表しました。

記者会見した有村社長は「組織として不正な利益を計上したと見られても仕方がない」として組織的関与を認め、陳謝。また、監視委の指摘をすべて認める答弁書を提出したことも明らかにしたのです。

また、今回の不正会計では、中央青山監査法人(現みすず監査法人)が「適正意見」を出しており、同法人の責任問題にもなりかねません。

事件が起こした株価への影響は?

「日興コーディアルグループに不適切な会計処理の疑い」と最初に報道された12月16日土曜、私は無料メールマガジン『投資脳の作り方』の編集後記で、「株価を冷やす要因にならなければ」と懸念していました。

実際、週明け18日の日興株は、前週末比マイナス72円の1,419円で売買が成立、4.8%程度の下落にとどまりましたが、翌19日には前日比マイナス200円とストップ安となってしまいました。

さらに20日には、年初来安値である1,099円にまで下落、一時は1,000円割れの水準まで売られてしまったのです。ニュース発覚前から換算すると、3日間で26%も下落しています。

ところが日経平均株価は、日興がストップ安となった19日こそ前日比で185円下落しましたが、20日には、火曜日比で234円値上がりし、4月以来の1万7,000円台を回復しました。

日経平均が堅調な動きを見せた原因としては、円安の影響で輸出関連など、幅広い銘柄が買われたことや、前日に米ダウ平均が最高値を更新したことなどが挙げられます。日本株売買の6割を占める外国人投資家が、「日興1社の問題」として、日本株売りを大きく行わなかったことも要因でしょう。【ポイント2】

これまで、特定の企業の不祥事や株価下落が、日経平均を押し下げることもありました。全体が弱気になっていたためでしょう。今回、日経平均が日興の不祥事にもかかわらず、堅調な動きを見せたことは、日本の「復活」を証明しているのかもしれません。

不祥事の背景に日興の焦り?

不祥事が発覚した際には、その結果を把握するとともに、「なぜ起こったのか」を考えてみる必要があります。今回の日興の問題でいえば、日興のおかれている状況、そして国内証券会社を取り巻く環境です。

投資銀行などに情報を提供しているトムソンフィナンシャルが発表している06年1月から9月のM&A助言ランキングをご覧ください。

◇1-9月のM&Aランキング(単位:100万ドル)

(2)シティーグループ/26,021
(2)UBS/24,241
(3)ゴールドマン・サックス/24,078
(4)みずほフィナンシャルグループ/23,691
(5)大和証券SMBC/19,195
(6)ドイツ銀行グループ/19,099
(7)野村証券/17,780
(8)KPMGコーポレイトファイナンス/8,893
(9)三菱UFJフィナンシャルグループ/7,652
(10)モルガン・スタンレー/5,945

※公表案件、金額ベース。トムソンフィナンシャル調べ
※(出所)日経金融新聞1面/06年10月11日付

シティーやUBS、ゴールドマン・サックスといった世界的な金融機関とともに、野村、大和といった日本の証券会社がランクインしています。しかし、2社とまとめて国内三大証券と呼ばれる日興の名前はありません。

日本でもM&Aがの件数が大幅に増え、各社がその対応に躍起となっている今、本来助言者として大きな地位を占めていなければならない日興は、ライバルの後塵を拝してしまっているのです。

さらに、三大証券の牙城ともいうべき国内営業部門では、ネット証券が台頭してきています。特に個人投資家の注文の8割がネットを介して行われているとも言われています。

不正会計処理があった05年3月期、ライバルの大和は経常利益で25%の増益でした。一方、日興は利益水増し分がなければ減益となっていたとみられます。ライバルには差をつけられ、後ろからは新興のネット証券が迫る。そんな厳しい状況の中、不正経理が行われたのです。

しかし、背伸びをしたところで、最後には取り返しのつかない結果になることは、これまでの企業不祥事の事例を見れば明らかです。日興のような大きな会社であっても同じことです。

現在のところ、日興の不正会計の影響は限定的です。しかし、日本の株価に大きな影響を持つ外国人投資家は、不祥事、特に不正会計にはきわめて敏感です。今後の展開しだいでは、彼らが投資に慎重にり、日本株が値下がりする可能性も否定できません。今回の日興の不祥事はそれほど重大な問題だと私は考えています。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
今回、不正会計に利用された孫会社は、特定目的会社(SPC)です。実は過去、米国ではエネルギー大手のエンロンが不正に連結から外したSPCとのデリバティブ取引で利益操作した事件がありました。そのため、国際会計基準では、基本的に企業の傘下にあるすべてのSPCを連結の対象として扱っているのです。日興がSPCを非連結としていたような「投資育成目的」であっても、原則としては連結から外すことができないのです。
現在、会計基準の世界的な共通化の動きが進む中、日本基準のSPCの連結範囲は国際会計基準と大きく食い違うと指摘されています。今回の事態で、不透明な取引を行っている可能性があるファンド会社なども指摘の対象になるかもしれません。投資」では手遅れ?や、拙著『投資の木の育て方』に詳細にまとめてありますのでご参照ください。
【ポイント2】
外国人投資家の投資が日本に押し寄せていることは、世界各国の株価推移を見ても分かります。図表「世界の主要株価指数」をご覧いただくと、出遅れていた日本株も、この数ヶ月で急速に好調な世界の主要株価指数にキャッチアップしていることに気づくことができるでしょう。
外国人投資家の売買がこれだけ日本株に大きな影響を与えている以上、私たちも外国人投資家の考え方を理解する必要があると思います。外国人の投資行動については、バックナンバー『高値更新はいつ?カギを握るのは外国人投資家』をご覧ください。
【ポイント3】
日興を取り上げ、“ダメだ”ということは誰にでもできます。ダメだと言うだけ言って、得意げになることは、評論家に任せましょう。私たち投資家は、日興の不祥事から“次”を考えなければいけません。
まずは、日興自体に投資をしてもいいかどうか。私は、今回の問題が完全に解決するまでは、同社への投資は“ギャンブル”に等しいと考えます。こうした大規模な不祥事が発覚した中での投資には、それだけの覚悟が必要です。
「証券業界全体がだめになる」のでなければ、日興を避け同業他社に投資をするということも1つの投資法かもしれません。有料メールマガジン『なぜ、この会社の株を買いたいのか?』 では、野村ホールディングス(8604)に魅力があるのではないか、とお伝えしました。ご興味のある方はお申し込みいただければと思います。

金融業界で起こった不祥事、私もファンド会社に勤務している以上、真摯に受け止める必要があると考えています。こうした不祥事が発覚すれば、今後、規制、そして監視の目が厳しくなることでしょう。 強化されて困るのは、規制・監視が甘いのを利用して、やりたい放題だった企業です。そうした企業は市場からの退場を余儀なくされることでしょう。しかし、しっかりとした会社は、規制・監視が強化されたとしても、影響を受けない仕組みの中で業務を行っています。投資をするのであれば、企業を研究し、そうした「ちゃんとした企業」を選ぶことがリスクの軽減になるはずです。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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