高値更新はいつ?カギを握るのは外国人投資家

外国人投資家の動向に一喜一憂する日本市場

今週の株式相場は日経平均が1万6,000円前後でもみ合う展開になりそうだ。外国人投資家の動きは鈍く、売買が盛り上がりに欠けることから上値追いの機運には乏しい──。

これは2006年8月3日付日本経済新聞の日曜版に取り上げられた記事です。

マスコミや市場関係者は、外国人投資家の売買動向をことさら気にし、一喜一憂しています。それもそのはず。東京証券取引所の調査によると、東証1部の投資主体別売買代金の約5割を外国人投資家が占めているのです。

2006年度株式分布状況調査でも、日本の上場企業の株式のうち26.7%を外国人が保有していることが報告されています。3年前までは20%を切っていたのですから、急激な伸びと言えるでしょう。

ただ、ここにきて外国人投資家の日本株に対する投資が鈍ってきているという印象が強まっています。

株価指数先物・オプション9月物の特別清算指数(SQ)の算出を控え様子見をしているといった短期的なものや、米国のインフレ懸念や景気減速懸念を嫌気しているといった中長期的なものなど、さまざまな要因が挙げられています。もちろん、小泉首相勇退後の総裁選の行方も影響していることでしょう。【ポイント1】

日本の株価がこれからさらに値段を切り上げていくためには、外国人投資家が積極的に日本株に投資することが不可欠です。では、様子見の彼らはいつ戻ってくるのか。それを探るために、まず「外国人投資家」とはどのような存在なのかを見ていきましょう。

外国人投資家の基本は「Back is Beautiful」

外国人投資家には法人と個人がいますが、主役はあくまでも法人です。例えば、海外の保険会社、投資信託、年金資金といった機関投資家と考えれば分かりやすいでしょう。機関投資家のほか、オイルマネー、ヘッジファンドなども、株式市場では大きな影響力を持っています。彼ら世界各国の機関投資家がグローバル分散投資の一環として日本の株式市場に投資しているのです。

彼らは基本的には「Back is Beautiful」の精神で投資をします。つまり、Back(過去)のBeautifulな(成功した)事例を、他国で再現しようと考えているのです。

外国人投資家は、日本の株式市場が上昇局面となるきっかけの03年「りそな銀行の国有化」に際して、二の足を踏む日本の投資家を尻目に、積極的に投資を開始しましました。その後も、外国人投資家の日本株買いは進み、02年までは日本株を売り越していたものが、03年には10兆円、04年10兆円、そして05年には13兆円と、大幅な買い越しに転じたのです。

なぜ、そんなことができたのかというと、彼らは80年代に不良債権に苦しんだ米国が、90年代に入って不良債権を処理し金融機関が復活すると、景気が回復したことを成功体験として持っていたからです。

外国人投資家は米国での経験を背景に、りそな銀行国有化のスキームから、不良債権が処理され、これから金融機関が復活し景気が回復する、という流れを早い段階で読み取っていたのです。【ポイント2】

様子見から積極的な投資に、その条件とは?

小泉政権下の金融機関が不良債権処理に目処をつけたのを確認した外国人投資家は、日本の景気が今後も拡大を続けると見ています。条件さえそろえば、様子見の彼らも戻ってくることでしょう

その条件とは、まず、9月に選出される次期総裁が、小泉路線を引き継ぐ経済政策を打ち出すことです。安倍晋三官房長官でほぼ決まり、といわれていますが、彼がどのような経済政策を持っているのかは明確になっていません。

ライブドアショックや村上ファンド事件のような企業不祥事が起きないことも重要です。もちろん、彼らの本国の相場状況も安定してなければなりません。米国では住宅バブル崩壊による景気へのマイナス影響が取りざたされていますが、もしも米国の景気が大幅に減退するようなことがあれば、日本への投資は鈍ることが予想されます。

こうした条件がクリアされれば、外国人投資家は日本に戻ってくるはずです。財務省が発表した2005年4−6月期の全産業の設備投資額は、前年同期比16.6%増の12兆2,268億円となっています。13期連続で前年実績を上回るものであり、日本は今後、景気が拡大する「魅力的な」市場なのです。

外国人投資家にとって日本は「新興国市場」?

では、個人投資家は外国人投資家の動向をどのようにつかめばよいのでしょうか。外資系証券の売買手口を見ることが重要といわれることもありますが、私はあまりおすすめしません。

なぜなら、売買手口がそのまま外国人投資家の考えを表していないのが実情だからです。外資系証券には人気アナリストやエコノミストが在籍していることが多く、国内機関投資家は情報を提供してもらう見返りに、かなり多額の発注をしているのです。

さらに注意しなければらないのは、単に外国人投資家の売買手口を見て、振る舞いを真似ようとしても、彼らの思い入れや気まぐれに振り回されてしまうだけだという点です。

2006年5〜6月の株価急落時、ある外国人投資家は「日本を訪れ状況に満足する投資家の数は増えたが、心の奥底では日本投資は安全ではないと考えているのではないか」、「外国人投資家が組み入れ比率を考える際に、日本をどう見るかということが重要だが、この見方は、日本に対する極端な思い入れや気まぐれに左右される」と話していました。

こうした発言に、一部の外国人投資家が日本市場を「新興国市場」と同様に見ていることが表れています。

“手口”ではなく“考え方”を理解する

外国人投資家の手口ではなく、考え方を理解すれば、彼らが日本に投資するのは、景気拡大を期待しているからだと分かります。であれば、景気拡大の恩恵を受ける内需株に積極的に投資するだろうと予測できます。内需株とは、たとえば金融です。景気拡大による貸し出し増で、金融機関の収益拡大が見込めるからです。

そのとき、前号でもお伝えした騰落レシオなどの指標を利用し、割安なタイミングで投資し、割高なタイミングで現金化する。自分なりの判断基準と外国人投資家の手法を融合させることでリターンを得ることが可能になります。

個別の銘柄ではなく、国全体を俯瞰し、これから業績が伸びるであろう産業を攻める。それが外国人投資家の投資手法です。こうした外国人投資家の考え方を理解していれば、今は様子見の彼らが日本に戻ってきたとき、株高の恩恵を享受できることでしょう。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
外国人投資家が積極的に日本に投資をしてきたのにはきちんとした理由があります。それは、「国策」です。政府は2003年、対日直接投資残高を06年末までに 01年末比で倍増させる方針を閣議決定しました。小泉純一郎首相は、2011年末には23兆円と01年末比4倍に拡大させるとも明言しています。つまり、外国人投資家が日本に投資をすることは、国が望んでいることなのです。果たして、「ポスト小泉」でこの国策が引き継がれるのでしょうか。個人投資家も注意深く見守る必要があります。
【ポイント2】
外国人投資家がいま、日本以上に積極的に投資をしているのが中国です。国際会計事務所グループ、グラント・ソントンのシンガポール法人の調べによると、6月末までの1年間で中国企業を買収したのは金額、件数ともに米国企業がトップでした。そのなかでも、金額では金融が全体の71%を占めています。彼らは非常に慎重な投資をする一方で、「Back is Beautiful」の考え方をもとに一歩踏み出す勇気を持っています。
【ポイント3】
外国人投資家は株式だけではなく、不動産も魅力と考えています。その理由も「景気拡大」。モルガン・スタンレーの不動産部門責任者であるソニー・カルシ・マネージングディレクターのコメントにそのことが表れています。

「景気の回復も続く見通しだ。不動産は景気に遅行するので、この先も値上がりが見込める。数年前は不良債権が中心だったが今は成長のインカムを狙える」

外国人投資家は株でも不動産でも儲けようと考えているのです。それは外国人投資家が投入しているお金の量を見れば一目瞭然です。今年の3月にはモルガン・スタンレーが新たに不動産投資ファンドを組成し、最終的な投資総額が3兆円弱に上ることを明らかにしています。同ファンドはほぼ1年前から内外の機関投資家を中心に出資を募っていたというぐらいですから、彼らが不動産を狙いはじめたのは今に始まったことではないのです。

外国人投資家は決して日本についてよく知っているわけではありません。にもかかわらず儲けをしっかりと得ることができるのは、投資で儲けるための共通原理を知っているから。売買代金の半分を彼らが占めている以上、外国人投資家の考えを私たちも知っていたほうがトク、ではないでしょうか。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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