「外国人が買い個人は売る」の傾向が変わる?〜07年度相場のポイント

記録ずくめの06年度株式売買動向

06年度の株式売買状況がまとまりました。その数字をみると、06年度は記録ずくめだったといえそうです。各投資主体ごとにみてみましょう。

個人投資家は東京、大阪、名古屋の3市場(新興市場を含む)で、4兆4,967億円の売り越しとなりました。これは過去最大規模で、個人の売り越しは91年度から16年連続です。

一方、事業法人と都銀・地銀は買い越しとなりました。事業法人は、過去最高となる1兆9,223億円の買い越しを記録。都銀・地銀も10年ぶりに買い越しに転じました。【ポイント1】

もちろん、外国人投資家も買い越しの大きな主体です。額は6兆円を超え、6年連続での買い越しです。

外国人投資家の地域別売買動向をみると、欧州の売買代金シェアが51.6%と前年度比3.4%上昇しました。ユーロ経済の成長を背景に投資マネーが拡大したことや、欧州を介したヘッジファンドの資金やオイルマネーが日本へ向かったことが要因として挙げられるでしょう。

一方で、米国の売買シェアは25.1%と、前年度比2.0%低下。01年度こそ欧州を上回っていたものの、その後はジリジリとシェアを下げ続けています。こうしたシェアの変化は、日本の株価にも影響しています。

米国に比べ、欧州系の投資家は比較的中長期投資に長けているといわれます。例えば、ファンドマネジャーの経歴をみても、欧州の場合、運用経験20年、30年という方がザラにいます。

06年度は、ライブドア事件をはじめとした様々な株価に対するマイナス要因があったものの、終わってみれば、日経平均株価は1年前とそれほど変わらない水準でした。それも、日本に対して中長期的な魅力を感じる欧州系の投資家が買い支えたこと、少なくとも簡単に売りに転じなかったことが背景にあったのではないでしょうか。

なぜ外国人投資家は買い、個人投資家は売ったのか

ではなぜ、外国人投資家は買い、個人投資家は売ったのでしょう。「不動産」というキーワードがヒントになるように思います。

不動産投資信託(REIT)の価格は、地価の上昇や賃料引き上げを見込んだ外国人投資家の活発な買いで上昇を続けています。しかし、外国人投資家がREITを買うのにはほかにも理由があります。それは「スプレッド」です。

スプレッドとは、REITから得られる配当利回りと10年物国債との利回り格差のことです。10年物国債の利回りは、一般的に借り入れ金利とされるため、配当利回りが10年物国債の利回りを上回っていれば、それだけ魅力がある、ということになります。

現在、ロンドンやニューヨークでは、配当利回りが国債の利回りを下回る「逆スプレッド」がみられ、逆に国債の利回りが低く、相対的に利回りが高くなっている日本のREITは、外国人投資家にとって魅力ある金融商品となっているわけです。【ポイント2】

また、不動産価値は景気拡大と連動するものです。ですので、不動産に魅力を感じているということは、日本の景気拡大について自信を持っていることの表れでもあります。ですので、外国人投資家は、不動産だけでなく日本株にも積極的に投資し、景気拡大の恩恵を受けるであろう金融商品から収益をあげようと考えているわけです。

一方で個人投資家は、世界中から儲かる投資対象を探す外国人投資家とは違い、どうしても日本国内に目が行ってしまいます。ですので、ついつい今よりも割安であった「過去」と比較する傾向があり、なかなか買いに転じられません。また、悪いニュースにことさら過敏に反応し、売りに転じるケースが多くみられます。

07年度のキーワードは「参院選」

しかし、「外国人が買い、個人が売る」傾向にも変化の兆しがみられます。

東京証券取引所が3月15日に発表した3月第1週の投資主体別動向によると、日経平均株価が07年の最安値をつけた3月5日を含むこの週、個人投資家は5,902億円の買い越しとなっていました。

これは、87年10月の「ブラックマンデー」の週以来、約20年ぶりの高水準とのことです。安いタイミングでしっかりと日本株に投資をする個人投資家の姿勢が読み取れます。

対照的に外国人投資家は、3,900億円の売り越しとなっています。上海発世界同時株安の影響で、資金の引き上げを余儀なくされたことが要因でしょう。

06年度の終わりに差し掛かり、これまでの傾向に変化がみられたわけですが、それをどう捉え、また07年度の株価推移をどう考えればよいでしょうか。

まず、上記の「中長期の視点を持つ欧州投資家」「日本の景気拡大」という2つの要因から、外国人投資家がすぐに日本株を売却することはないだろうと考えられます。

しかし、最近のニュースの中で、外国人投資家が売りに転じる可能性を示唆するものがありました。それは4月22日に行われた参議院の福島、沖縄両選挙区の補欠選挙の結果です。

結果は与野党1勝1敗となりました。元々、両選挙区とも野党の議席だったため、与党は議席を増やしたことになります。しかし、安倍政権が国政の補選で敗れたのは初めてであり、7月の参院選での与党勝利に一抹の不安を感じさせます。

外国人投資家にとって、政治動向は大きな投資要件であり、政治の不安定は最も好ましくないことの1つです。

ですので、もし参院選で与党が破れ、政局が不安定になるようなことがあったら、外国人投資家が一気に売りに転じる可能性も否定できないのです。

政治は株価に大きな影響を与えるものです。そのことを改めて肝に銘じる必要があります。

そして、株価というのは自分が買いたいと思ったとき、何らかの理由でその銘柄を売りたいと思う投資主体がいるからこそ値がつきます。その相手が外国人投資家であることは、今では日常茶飯事といえます。

ですから、政治という大きな投資テーマを、外国人投資家がどのような視点でみているのかを意識することが、07年度の株価推移を読み解くためには欠かせないといえるでしょう。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
事業法人の買いが増加した背景には、自社株買いとともに、買収防衛などを見据えた「形を変えた持合」があります。戦略的に株式を持ち合うのならともかく、ただの「甘え」による持合では、投資家にメリットはありません。投資をしようと考える会社が、どこに出資しどこから出資されているか、そして、その意図は何なのかは、事前にしっかりとチェックしておきたい重要項目です。

※企業の自社株買いの増加についてはバックナンバー『急増する自社株買いは本当に株価上昇の要因か』をご覧ください。
【ポイント2】
現在のスプレッドをみると、なんと1%近くまで低下しています。これは01年9月にREIT市場が発足して以来、初めてのことです。
モルガンスタンレーがANAホテルズを破格の約2,800億円で買収したように、不動産価格が一部で大きく値上がりしています。スプレッドの低下は、不動産価格の上昇にオフィス賃料の上昇がついていっていないことの表れでしょう。逆ザヤの発生はバブルの兆候。注意を払っておくべき重要な指標です。
【ポイント3】
政治動向は経済に大きなインパクトをあたえるテーマです。5月の三角合併解禁後、相場を左右しそうな投資テーマ、特に株価を大きく押し上げそうな材料が見当たりません。ですので、不透明感が漂う夏の参院選が終わるまでは、日経平均株価などの指標株価は一進一退の状況が続くのではないでしょうか。

海外の保険会社、投資信託、年金資金といった機関投資家に代表される外国人投資家は、日本の投資家とは違う行動原理を持つ場合があります。ですので、「外国人投資家の視点というのは分りづらい」と思うのも仕方がない面があります。しかし、外国人投資家は、日本の株式市場における重要なプレイヤーですから、国内のみを投資の対象としていても、外国人投資家の行動原理、考え方を知ることは不可欠なのです。「敵を知り己を知る」ことの重要性を、私自身、改めて感じています。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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