日経225mini上場から1カ月〜現物の価格を大きく動かす先物

日経225miniの登場で先物は本当に身近になった?

2006年7月18日、「ミニ日経平均先物(日経225mini)」が大阪証券取引所に上場しました。通常の株式投資は「買い」から入りますが、ミニ日経平均先物のような先物取引では、現在より価格が上昇すると思えば「買い」、下落すると思えば「売り」という投資ができます。つまり、売りから入って利益を狙うことができるのです。

実際の取引例はこうなります。簡単にするために手数料は考慮していません。

・ミニ日経平均先物16,000円で1枚(枚数)買い
→16,200円で1枚の売り =(16,200-16,000)×100(取引単位)×1(枚数)
=2万円の利益
→15,800円で1枚の売り =(16,000-15,800)×100(取引単位)×1(枚数)
=2万円の損失

・ミニ日経平均先物16,000円で1枚(枚数)売り
→16,200円で1枚の買い =(16,000-16,200)×100(取引単位)×1(枚数)
=2万円の損失
→15,800円で1枚の買い =(16,000-15,800)×100(取引単位)×1(枚数)
=2万円の利益

買いは分かりやすいと思いますが、売りは少し複雑かもしれません。まずは、16,000円で売ってしまい、15,800円で買い戻すと差額200円が利益になります。16,200円で買い戻すと、売った値段よりも高い値段で買い戻すことになるので差額200円が損失になります。

これまでの日経平均先物の取引単位は、日経平均株価の1,000倍。つまり約1,600万円です。一方、ミニ日経平均先物の取引単位は、日経平均先物の10分の1。つまり日経平均株価の100倍、およそ160万円です。また、1単位あたりの証拠金も、日経平均先物の50万円から、ミニ日経平均は5万円に引き下げられており、個人投資家がより参加しやすくなりました。

株式先物市場では、ミニ日経平均先物が上場された7月に個人投資家の売買シェアが18.4%と過去最高を更新、2005年度実績(9.4%)の2倍に達するなど、個人投資家も積極的に参加しています。【ポイント1】

レバレッジ(てこの原理)の功罪

個人が参加し始めたとはいえ、ミニ日経平均先物はやはり投機が中心となっているようです。約8割が同日中に反対売買しているというオリックス証券の調査からもそのことが伺えます。

なぜ、投機家が集まるのか。それは「レバレッジ(てこの原理)」が利用できるからです。「てこ」は小さな力で重いものを動かす道具です。それを金融で使用すると、借入金によって投資を行い、利子率よりも高い利益を見込むという意味になります。

たとえば、ミニ日経平均先物であれば、6万2,000円から7万5,000円程度の証拠金を証券会社に預けるだけで約150万円の資金を動かすことができます。これは、約20倍のレバレッジをかけて取引をしているということです。

150万円の資金を使って15万円の利益を稼いでも収益率は10%です。しかし、仮に証拠金と同額の7万5,000円で150万円の資金を使えるとなると、たとえ同じ15万円を稼いだだとしても、収益率は200%(15万円÷7万5,000円)に跳ね上がります。投機家にとってはこれほど面白い市場はないでしょう。

また、「ヘッジ」という目的で先物を利用する投資家もいます。ヘッジとは、分かりやすくいえば保険のこと。たとえば、保有している現物株をそのまま持ち続けたい、でも、短期的には株価の下落が予想されるといった場合、現物株をそのまま持ち続ける一方で、株式先物を売っておけば利益と損失が相殺され保険がかけられる、というわけです。

しかし、先物取引は、リスクを承知で投資資金の一部でを行う、ということを忘れてはいけません。短期的なリターンが狙える醍醐味がある一方、見通しが外れた場合、証拠金の追加差し入れ追証(おいしょう)というものが発生するためです。

また、レバレッジをかけるということは、短期的に大きなリターンを狙えるだけではなく、常に大きな損失とも隣り合うことを意味します。それを肝に銘じておかなければなりません。たとえば、日経平均先物を1万6,000円で1枚買ったときに100円の値動きがあると、10万円の利益、または損失となります。利益に目を向けるだけでなく、10万円の損失をかぶることができるのか?その点もきちんと考えた上で投資するかどうか決めましょう。【ポイント2】

SQ前は現物のみの投資家も要注意

確かに先物取引は、現物に比べてリスクが高いものです。個人投資家として、リスクを承知の上で取引するのも1つの選択肢です。一方で、先物には手を出さない、というのもまた1つの選択肢です。【ポイント3】

しかし、現物のみの投資家であっても先物の存在を無視することはできません。その端的な例がライブドアショック後のいわゆる「魔の30分」です。

2006年1月、ライブドアショックごの混乱を避けるため、東証は1月19日から後場の取引開始時間を、それまでの12時半から1時に変更し、取引時間を30分短縮する措置を取りました。しかし、日経平均先物が上場する大証の取引は通常通り12時半から開始されていたので、その30分間に先物の売りが殺到すると東証後場の現物は、先物の価格にさや寄せするように下がる、といったように、先物の大規模な売り(または買い)に日経平均株価が影響を受けることが多くありました。

また、日経平均先物には「裁定取引」というものがあります。日経平均の価格に金利や配当収入を加味した理論上の日経平均先物の価格が、現物より高いとき、先物を売り現物を買うことで利ざやを得ることができます。その後、価格差が縮まると、現物を売って先物を買い戻す「裁定解消」が行われます。裁定解消に伴い、大量の現物株式が売却されれば、株式市場全体の下げを加速させることが予想されます。

また、裁定取引の場合、期日までに反対売買によって決済する必要があります。もしその期日まで「先物売り・現物買い」というポジションが持ち越されると、最終決済日の始値を元に算出される最終取引値(SQ)で、強制的に清算され、その結果、現物が売り出されます。

日経平均先物がSQ値で清算される期日は3、6、9、12月の第2金曜日です。もし、裁定取引のポジションが膨らんだ状態で期日を迎えると、現物の売りが出るのではないか、との不安が市場に広がります。一方で、現物売りを予想し、大量の現物買いを仕込むための買い注文が出されることもあります。結果、相場全体が乱高下してしまうのです。

4月には東証が取引時間の短縮を終了したため、「魔の30分」は解消されましたが、先物の動きが現物をリードする事態は今後も続く、と考えるべきです。

こうした先物主導の相場に振り回されないようにするにはどうしたらよいのでしょうか?1つの方法は、好業績の銘柄を持ち続ける、ということです。短期的には乱高下する可能性はありますが、長い目で見れば、業績に見合った株価に落ち着くことが予想されます。

一歩進んで、先物の値動きから現物の値動きを予想しようと思うなら、日経新聞の「マーケット総合2」面に掲載されている日経平均先物ほか株価指数先物の値動きや「裁定取引に伴う現物株売買および残高」を見てみましょう。たとえ自分が現物にしか手を出さないにしても、まずはこれらの数字を見ながら、現物と先物の関係を自分なりに理解することは投資に役立つはずです。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
先物はなじみの薄い方は、図表をみながら学ぶのが分かりやすいと思います。ご興味がある方は、私の知人でもあるお2人が書かれた『日経225mini完全ガイドブック』(藤井英敏、志水洋美共著、角川SSコミュニケーションズ)を参考にしてください。

『日経225mini完全ガイドブック』
・著者 藤井英敏さん(カブ知恵代表)  志水洋美さん(経済キャスター)
【ポイント2】
レバレッジがかかる、ということは短期的に収益がぶれるということ。だから投機家を呼び込んでしまう点はあります。中には投機家がやってくるということに嫌悪感をもたれる方もいるかもしれません。しかし、それは間違いです。たとえば、名古屋大学の加藤英明教授は「豊富な短期株主の存在が株式市場の流動性を高め、市場に深みを与えていることも忘れてはならない。買い持ちの長期株主だけの市場では、取引は閑散としたものとなり、長期株主はその日の株価が適正か判断できず、売りたいときに自分の株式を売れないかもしれない」と話しています。色々な人が色々な考えで投資をするということは当たり前です。色々な価値観を許容することも投資には必要なことです。
【ポイント3】
リスクを承知の上で、日経平均先物またはミニ日経平均先物に挑戦してみようという方に参考になるのが、「騰落レシオ」です。 【騰落レシオ=値上がりした銘柄の数/値下がりした銘柄の数×100】

騰落レシオとは、分かりやすくいえば、株式市場が強気か弱気かを示す指標です。結論から言えば、騰落レシオが75を割ると株式市場が総弱気、130を超えると株式市場が総強気であることが分かるのです。
最近では、8月22日に騰落レシオは140.57%(前日比+16.40%)となり、株式市場が総強気であることを示唆しました。騰落レシオに従えば、株式市場は下落局面を迎えると判断できます。つまり売りです。実際、8月22日の始値が16,165円だった日経平均は、28日の終値は15,755円に下落しています。この期間、日経平均先物の取引をしたとします。

8/23(水) 始値:16,165円で売り
8/28(月) 終値:15,755円で買い戻し

(16,165円―15,755円)×100×1枚=41,000円の利益となります。証拠金6万2,000円から7万5,000円程度を差し入れ、16,000円程度の資金を使って4万1,000円の利益を得られたことになります。

株式投資にはどうしてもギャンブル性があります。このことを真正面から捉えなければ、いくら自分が「ギャンブルではない」と思っていても巻き込まれてしまうことがあります。ギャンブルとして楽しむのか、中長期投資を志すのか。どちらが正解ということはありません。自分に合っている投資を志せばいいだけです。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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