ブランコから線香皿まで。相次ぐ金属盗難から読み解く投資ヒント

ブランコにガードレール、線香皿も。相次ぐ盗難に経産相も懸念

徳島県で07年に入って、公園のブランコ2機が盗まれる事件がありました。普通の感覚では「ブランコを盗んで、一体どうするのだろう?」と疑問に思います。ましてや、投資と結びつけて考えることはできないでしょう。

しかしこの「ブランコ盗難」という事件は、投資について深く考えるよいきっかけとなります。【ポイント1】

みなさんもテレビや新聞の報道で、金属盗難が相次いでいることはご存知でしょう。被害はブランコのほかガードレールやマンホール、車止め、消防施設に設置されていた半鐘など多岐にわたります。川崎市では、霊園に置かれたステンレス製の線香皿まで盗まれました。

相次ぐ金属盗難に甘利明経済産業大臣は、「金属製品の盗難は社会問題になりつつある。ガードレールやマンホールがなくなれば事故につながりかねず、許してはいけない」と強い懸念を示しました。

では一体なぜ金属盗難が続いているのでしょうか。金属盗難で逮捕された容疑者らは「転売目的だった」と動機を供述しているといいます。転売が目的ということは、それが高値で売れるということです。

事実、現在金属の価格は高騰しています。金属の価格は以下で確認できます。

日刊鉄鋼新聞 ※左側メニューの「市中相場」からご覧ください。

例えばアルミ地金99.7%(東京地区)の07年2月の高値は368円。06年の同月は305円、05年は234円と、約2年で約1.6倍になっています。銅や亜鉛などその他の金属も同様に高騰していました。

高騰する金属、その背景には中国の成長

ものの値段が上がるのにはそれなりの理由があります。今回の金属価格の高騰の場合は中国がカギとなります。【ポイント2】

中国・北京では08年にオリンピックが開催されます。そして2010年には上海万博も予定されています。こうした世界的イベントに向け、中国では社会インフラの整備が急ピッチで進められ、ビル建造、電線延伸などで金属需要が劇的に伸びているのです。日本各地で盗まれた金属製品も、中国向けに転売されたとみられています。

加えて、アメリカ経済も好調だったため、世界的には米中を軸とする原料の需要増となっていました。

しかし、金属の量には限界があります。独立行政法人「物質・材料研究機構」は、金、銀、鉛、スズは2020年までに現在埋蔵されている量が使い切られてしまうだろうとの調査結果を発表しました。

需要が急激に伸びても、それに対する供給が増えなければ、価格が上昇するのも自然なことです。そしてものの価格が高騰すれば、それを取り扱う企業の業績も伸び、株価に反映されます。

例えば、多くの非鉄金属の鉱山を持つ住友金属鉱山(5713)。07年3月12日には一時、2,445円をつけ、上場来最高値の2,460円に迫りました。その後も、2,300円台で推移しています。06年の取引を1,527円で終えているのですから、約3ヶ月で1,000円近く上昇したことになります。

中国以外にもインドなどの発展途上国は「先進国化」に向け、自国の工業化、インフラ整備にひた走っています。であれば、当分の間、需要が鈍ることはないでしょう。そう考えると、それらを扱う企業に投資しておけば、大きなリターンが期待できる、と想像できます。

高値傾向は今後も続くのか?

しかし、物事はそれほど単純ではありません。なぜなら、ものの価格は実需以外の要因、例えば投機的な要因でも動くからです。そして、投機的な要因で高騰した価格は、大きく下げやすいのです。

金属をはじめとする資源の価格は、確かに中国での需要増という実需により値上がりしました。しかしその後、価格の上昇を見た投機筋の資金が流れ込み、実需に見合わないレベルにまで価格が上昇したのです。

その分りやすい例が原油価格です。元々中国をはじめとする発展途上国の需要増や中東情勢が不安定さに加え、OPEC(石油輸出国機構)の減産もあり、原油価格は04年夏ごろから上昇を続けていました。

そこに世界的な金余りの中、ヘッジファンドなどの投機マネーが原油先物に流れ込み価格が上昇。その上昇がさらに価格を押し上げるというスパイラルが出来上がりました。結果、06年の夏には1バレル80ドルの大台を突破しました。

しかし、その後の値動きをみてみると、高値をつけて以降大きく下げ、07年1月には55ドルを割り込むこともありました。

中国をはじめとする途上国の原油に対する需要が減退しているわけではありません。また、中東情勢は引き続き不安が残る状況です。それなのになぜ下がったのか。それは、原油価格の急上昇の主要因が投機マネーだったからです。

投機マネーは実需と関係なく、儲けのために売買を行います。高値を突破したら利益確定のため売りに転じるでしょうし、他に儲けのチャンスがあれば資金を移します。

銅についても同様です。銅の価格は、昨年の過去最高値から4割も下落したことがありました。

ですので、今値上がりしている金属価格も、実需がありますから、ある程度の価格帯は維持するでしょうが、投機マネーが他に移り、いつ下落するか分らないのです。そしてそれにあわせて関連銘柄の株価が下落することも考えられます。投資をするのであれば、そこまで見越した冷静な姿勢が求められるのではないでしょうか。

今回は、相次ぐ金属盗難という新聞の社会面やワイドショーで取り上げられるニュースをきっかけに投資について考えてみました。「相次ぐ金属盗難→金属価格が上昇している→関連銘柄の値上がりが期待できる」までは、少し発想を広げれば思いつくでしょう。しかしそこで止まることなく、さらにデータを調べ、深く考えることが投資で成功するためには必要なのです。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
刑事事件の中に、投資のヒントが隠されていることは珍しくありません。振り返ってみると、かつて日本の自動車が盗難にあい中国に転売されているというニュースが話題になったことがあります。中国といえば自転車と考えていた私は、このニュースを耳にして、「中国にもモータリゼーションの波が押し寄せているのでは?」と感じました。その通り、現在、中国は大きな自動車市場となりました。
【ポイント2】
以前、化学業界を担当していたことがあります。そのときも中国の状況が重要なファクターで、特にエネルギー分野に注目していました。それは、世界的に有名なエネルギー関連企業がどんどん中国に進出していたからです。しかし日本のメーカーはまだ中国という国に対して、慎重な姿勢を崩していませんでした。今から振り返って、「あの時、中国にもっと積極的に進出すべきだった」と言うのは簡単です。しかし、渦中にいながら先見の明を持って決断するというのは本当に難しいことだと思います。
【ポイント3】
世界的に著名な投資家、ジム・ロジャーズ氏は07年1月17日に東京都内で開いた講演会で、「今後は穀物が主役」と強調していました。穀物の中でも、特にトウモロコシだそうです。トウモロコシの価格は、輸出国だった中国の禁輸政策や、ガソリン代替燃料エタノール用需要の拡大で、国際価格が10年半ぶりに1ブッシェル4ドル台をつける高値で推移しています。
ロジャーズ氏には『商品の時代』という良書がありますので、興味がある方はお読みいただければと思います。

『大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代』

世界のお金の流れを完璧に読み解くことは誰にも出来ません。でも、最初から無理だと思っていては突然の変動に負けてしまうでしょう。日本は世界で第2位の経済規模を誇る国ですから、我々日本の個人投資家は必然的にグローバルな世界に放り込まれています。日本と世界、もしくは株と他金融商品を関連付けて眺める癖をつけると、完璧ではないにしても、お金の流れを読み解けるかもしれません。(木下)

  • はてなブックマークに登録はてなブックマークに登録
  • BuzzurlにブックマークBuzzurlブックマーク数
  • [clip!]この記事をクリップ!

トラックバック

トラックバックはまだありません。

この記事に対するTrackBackのURL

最新コメント

コメントはまだありません。

name
E-mail
URL
画像のアルファベット
comment
Cookieに登録

プロフィール

木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

メールアドレス: 規約に同意して

個別銘柄情報はこちら   まぐまぐプレミアム・有料メルマガ

なぜ、この会社の株を買いたいのか?
〜年率20%を確実にめざす投資手法を公開〜

ビジネス誌・マネー誌・テレビに登場するアナリスト、木下晃伸(きのした・てるのぶ)が責任編集のメールマガジン。年率20%を確実にめざすためには、銘柄選択を見誤るわけにはいきません。日々上場企業を訪問取材している木下晃伸が、投資に値する会社を詳細に分析、週1回お届けします。

【2100円/月(当月無料)/ 毎週土曜日】 購読申し込み