大停電だけじゃない。避けられない“危機”と株価
過去2番目の大規模停電が発生、そのときの株価は?
8月14日、お盆休み最中の首都圏で大規模な停電が起きました。原因はクレーン船が送電線に接触し送電線を傷つけたという単純なもの。しかし、原因は単純であっても、その影響は甚大でした。
警視庁交通管制課によると、午前8時の段階で、東京都内のコンピューター制御で管理する信号機約7,500ヶ所のうち、新宿、世田谷、目黒、渋谷、品川各区内にある計約440ヶ所が一時消えてしまいました。また、エレベーターの閉じ込めや鉄道の遅延、さらにディズニーリゾートでは開園が50分遅れるなどしました。
こうした事態に、経済産業省の北畑隆生事務次官は14日の記者会見で、同省の原子力安全・保安院が東京電力に対し、早急な完全復旧、徹底的な原因究明、再発防止策策定の3点を指示したと発表しました。
金融業界では、日経平均株価など株価指数算出システムが、自家発電装置の不具合で正常に稼動しないなどの影響が出ましたが、当日の株価は堅調な推移でした。
この日の株式相場は、前週末の米国株安や停電の影響で売りが先行しましたが、その後、売りが一巡し買い戻しが先行。夏季休暇の本格化で市場参加者が少なく、日経平均の指数算出停止で様子見気分が強まる中、指数先物主導で上昇する展開となりました。
日経平均株価は午後1時26分以降、算出を停止しており、算出停止時点の日経平均は前週末比225円80銭高でした。
今回の停電は、たまたまマーケットが開く前に発生したこと、停電の理由もシンプルなもので一過性と捉えられたことなどから、株価にはほとんど影響を与えませんでした。しかし、もしこの停電がマーケットが開いた後に起こっていたら、さらに大規模なものであったら、株価に大きな影響を与えていたのではないでしょうか。【ポイント1】
もしも東京でテロが起こったら〜過去の事例からシミュレート
今回の大停電は、単純な人的ミスによるものでした。しかし発生直後は、「テロではないか?」と緊張が走りました。イギリスで7月10日に航空機爆破テロ計画が表面化して間もなかった時期でしたのでそれも無理ありません。
イギリスでのテロ計画は、アメリカに向かう複数の旅客機を爆破させるという大規模なもの。当然、株価にも大きく影響し、欧州の株式相場は全般的に急落、中でも英ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)株は断続的に売りが止まらず、株価は一時6%を超える下げ幅となりました。
テロといえば「9・11事件」が思い出されます。2001年9月11日午前(米東部時間)、ハイジャックされた旅客機がニューヨークのワールド・トレードセンタービルなどに激突した大規模な同時多発テロです。
同時多発テロ直後の世界の株価は、悲惨なものでした。まず、ニューヨーク証券取引所、米店頭株式市場(ナスダック)が取引停止に追い込まれ、金融機能は完全に麻痺してしまいました。
取引停止は4営業日もの期間に及び、取引再開が決定したのは、週明けの9月17日でした。同日、米連邦準備理事会(FRB)は、「株式市場へのカンフル剤」として、0.5%の緊急利下げを決ましたが、テロ前には9605ドルであったNYダウは、その日600ドル以上下落し8920ドルに。ナスダック総合指数も9月末には実に3年ぶりに、1400台にまで落ち込んでしまいました。
もちろんアメリカだけでなく、その影響は日欧にも波及しました。11日の欧州株式市場では年初来安値更新が相次ぎ、日本でも翌12日の日経平均株価が一時6%超下げ、17年ぶりに1万円の大台を割りました。
首都圏の大規模停電は、テロではなかったため、日本株な堅調な推移となりましたが、アメリカやイギリスで起こったことが今後、日本で起きないとは限りません。やはり、突発的事態と株価は関係する。それも、大きく下落することがありうる、ということは頭の片隅に置いておかなければならないでしょう。【ポイント2】
大地震、テロの脅威――突発的事態に個人はどう対応すべき?
テロ以外にも、日本には地震や台風など自然災害の危険性もあります。最近では、首都圏直下型地震が懸念されています。直下型地震による帰宅困難者は東京駅は14万2,400人、渋谷駅は10万3,600人と予想されています。
地震にしろ、テロにしろ、その被害を予想することはできても、いつ起きるのかを事前に予測することは困難です。
地震やテロのような突発的事態が起こると、株式市場をはじめ金融業界は右往左往します。状況次第では大きく下落することもあるでしょう。しかし、過去の例を見て見てみると、直後こそは株価は大きく下落しましたが、時を経て回復に向かっています。
95年1月には、兵庫県南部地震、いわゆる阪神大震災が起こりました。その影響で損失が拡大すると懸念された損保株などが下げ、相場は急落。また、鉄鋼、造船、電機など主力大型株にも外国人などから売りが出て、日経平均は一段安となりました。結果、前年から維持してきた19,000円の下値抵抗線を維持できず、その後もズルズルと下げ、95年7月3日に1万4,485円と、92年8月の安値に迫る水準まで下落しました。
しかし終わってみれば95年の株価はV字回復。7月初旬に日米当局が円高・ドル安是正の姿勢を明確にし円安に転じると、株価も急反発、年末にかけて日経平均は2万円台を回復したのです。
また、米国同時多発テロ後の米国株大きく下げたことは上で述べたとおりです。しかし、その後の株価はどうだったのでしょうか。02年10月には7,000ドル台を割り込むか、といわれる水準にまで落ち込んでしまいましたが、その後切り返し、2003年には前年比+8%の上昇、現在では11,000ドル台を回復しているのです。
震災やテロは短期的には人間の心を冷やし、ネガティブな思考が頭をもたげるかもしれません。しかし、突発的事態が起こったときこそ、意識的に楽観的に物事を考える姿勢が投資には必要ではないか、と思います。【ポイント3】
- 【ポイント1】
- もしも停電がマーケットが開いている間に停電が起こったとしても、対処法は限られています。それは、「様子見」です。様子見と聞くと、無策なイメージもありますが、言い換えれば「慎重になる」ということです。 突発的事態が起こったときにに求められるのは、何よりも右往左往しないということです。何があっても常に運用しなければならない機関投資家であれば、機械的に株を売るなど、売買オペレーションに忙殺される可能性があります。しかし、個人投資家は別にあわてて売買する必要はありません。
- 【ポイント2】
- ブリティッシュ・エアウェイズの株価、いまはどうなっていると思いますか?こちらをご覧いただければ分るように、テロ計画の表明後一時的に株価は下落したものの、すぐに株価は回復しているのです。航空機同時爆破計画の発覚後、英国政府はテロ警戒レベルを最高度に引き上げ、空港の安全対策も強化されたことが投資家の安心を呼んだのでしょう。また、原油価格の続落も同社業績にプラスの影響を与えると予想されたのかもしれません。いずれにしても、突発的事態に右往左往することがいかに得策ではないか、ということがこの事例からも読み取れます。
- 【ポイント3】
- 阪神大震災後には、復興特需を見込み建設株などが急騰しました。米国同時多発テロ関連では、米英軍がアフガニスタンへの攻撃を開始したタイミングで、防毒マスクの需要が増加するとの思惑から、重松製作所など防毒マスクを手掛ける企業の株価が急騰したことがあります。 確かにこうした突発的な出来事に関連する投資テーマから対象銘柄を探し投資するというのもひとつの考え方でしょう。しかし、これだけでは不確定要素が高い投機的な売買になってしまいます。株価の乱高下を楽しむということで資金の一部を回すのならともかく、不確定要素の高い材料に積極的に投資するのはほどほどにしたほうがいいと私は考えています。
ここにきて、テロ計画や停電など突発的事態がニュースを騒がせています。こうしたことを事前に予測できればいいのですが…。できないことを最初から願っても仕方がありません。ちなみに、私が所属するファンドクリエーションでは、全社員が非常用食品、飲料水を保持しています。同じものが自宅にもあります。もちろん、利用しないことを願っています。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。