「いざなぎ景気」超え、戦後最長の景気拡大で株式市場は?

「実感なき」景気拡大

2006年11月22日、政府が発表した月例経済報告では、総論を「景気は、消費に弱さがみられるものの、回復している」とし、景気拡大が続いているとの認識が示されました。

日本の景気拡大は02年以来、実に4年10ヶ月続いており、期間だけ見ると、「いざなぎ景気」を超え、戦後最長となります。【ポイント1】

しかし、「景気拡大の実感がない」という声も聞かれます。総論の前半部分「消費に弱さがみられる」こそが、国民の実感に近いのではないでしょうか。

実際、月例経済報告を見てみると、前月に比べてトーンダウンした表現が多々見られます。内閣府が10月と11月の主な変更点を挙げた資料を公開していますので、見てみましょう。

『月例経済報告 平成18年11月 先月からの主要変更点』
※PDFファイルが開きます

10月には「企業部門の好調さが家計部門へ波及しており、国内民間需要に支えられた景気回復が続く見込み」とされていましたが、11月には「企業部門の好調さが持続しており、これが家計部門へ波及し国内民間需要に支えられた景気回復が続くと見込まれる」と変更されています。

この表現から、景気拡大が続いているとはいえ、個人消費は明らかに後退していることが分かります。そのため、月例経済報告公表後の日経平均は一進一退の動きとなりました。

今後は、「これが家計部門へ波及し国内民間需要に支えられた景気回復が続く」という政府の見込み通りにいくのかどうかが焦点になってくると思います。

なぜ景気は拡大したのか

将来の見通しを考える前に、まず、なぜ日本の景気は拡大したのかについてみていきましょう。

02年2月に始まったとされる景気拡大は、11月で4年10ヶ月。この間、景気が拡大し続けた理由として、「グローバル化」が挙げられます。景気回復の始まりは、01年12月の中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した時期と重なり、輸出は年率10%強で伸びています。

グローバル化に対応するために、日本企業は低迷の原因となっていた「3つの過剰問題(設備過剰、雇用過剰、債務過剰)」に真正面から取り組み、経営体質の改善に努めました。

その後、多くの企業が「守りから攻め」へと転じ、設備投資が活発化。日銀が発表した短観では、06年度の設備投資計画は前年度比11.5%増と90年度(14.8%)以来の高い伸びが見込まれてます。

この間の日経平均株価は、02年2月末が10,587円だったのに対し、06年11月27日の終値は15,885円と、50%の上昇を果たした計算になります。

個別の企業を見ていくと、驚異的な伸びを示しているものもあります。

まず、銀行、不動産など。これらの業種は、不良債権を理由に徹底的に売り込まれていました。合併などがあったため、メガバンクの株価は算定できませんが、一時は不良債権の増大によって破綻がささやかれていたものの、現在は株価も順調に推移しています。また、不動産でいえば、大京(8840)の6.2倍、長谷工(1808)の2.8倍など、瀕死の状態であった企業も復活とともに株価は劇的な上昇を見せています。【ポイント2】

また、小売業も見逃せません。確かに、「実感なき景気拡大」といわれますが、株価を見ると、個人消費の増大を織り込んだ状況であることが明らかです。なかでも百貨店株は、大丸(8234、3.4倍)、高島屋(8233、2.3倍)、伊勢丹(8238、1.8倍)など相当な上昇を見せました。

こうした企業、特に銀行の業績・株価の回復の背景には、日銀の量的緩和、ゼロ金利政策がありました。巨額の不良債権をなくすため、日銀は民間銀行に大量に、しかも金利ゼロで資金を拠出したのです。言ってみれば、景気を回復させるための「贈与」です。

99年3月に導入されたゼロ金利政策は、いわば「非常手段」です。タダでお金を借りられるわけですから、モラルハザード(倫理観の欠如)を引き起こすなど、問題点も指摘されています。

日銀の速水優前総裁は、景気回復の兆しが見え始めた00年8月にゼロ金利政策の解除を決めました。「ゼロ金利は異常な状態」と認識していたからこそ、解除を急いだのでしょう。しかし、解除の直後に米ITバブル崩壊に見舞われ、わずか7ヵ月後にはゼロ金利政策を再開しました。

異常であると認識しながらも、景気回復を優先しゼロ金利政策を続けた官の政策がなければ、短期間に銀行、不動産が復活しなかった可能性もあります。

「実感のない」今こそが絶好の投資チャンス

こうした好調な株価とは裏腹に、現時点では、今後は株価上昇がそれほど期待ができない、とする意見が一般的になりつつあります。

その理由の1つが、日銀による追加利上げの可能性です。福井俊彦総裁は11月27日、大阪市内で講演・記者会見し、「いかなる時期も、タイミングとして排除しては考えていない」と、年内の追加利上げを否定しませんでした。

福井総裁は「毎回の金融政策決定会合で十分議論して決める」とも述べており、追加利上げは、景気動向に配慮しながら行うとしています。しかし、00年と同様に、追加利上げが景気に冷や水を差すとの懸念は払拭し切れません。

米景気の減速も不安材料です。輸出の重石となることを懸念する声が高まりつつあります。シャープ(6753)の町田勝彦社長は、「下期に不透明感がある」として、今期の液晶テレビの販売計画を据え置くなど、すでに影響が出始めています。

また、個人消費もネックとなっています。先ほどの月例報告でも、個人消費の判断を「このところ伸びが鈍化」から「おおむね横ばい」へと2ヶ月ぶりに下方修正しています。実際、06年7-9月期の個人消費は、冷夏が響き前期比でマイナスとなっています。暖冬の影響で衣料販売が低調という報道もなされています。

しかし、私は不調と言われている個人消費が今後伸びていくことで、景気の拡大が続くとみています。実際に個人消費が拡大する予兆が見え始めています。その予兆とは、給与上昇です。

たとえば、人材派遣料金をみてみましょう。一般事務職の平均時給は春の料金改定時に比べ10%高く、半年間としては過去最大の上昇幅となっています。ほぼ半年でこれほど大幅に上昇したのは86年に労働者派遣法が施行されて以来、初めてということは注目すべきことでしょう。

また、日本経団連は、冬のボーナスが2年連続で過去最高額になる見通しであると発表しています。正社員にも給与上昇の波がやってきているのです。【ポイント3】

追加利上げについても、短期的には株式市場にマイナスの影響がありますが、中長期的にみれば、預金金利の増加につながり、個人消費を活性化させる要因にもなります。

小売の現場からは、イトーヨーカ堂・亀井淳社長の「消費の現場には、戦後最長の景気拡大という実感は正直ない」といった言葉が聞かれます。個人消費が拡大するのはまだ先のことかもしれません。

しかし、投資の基本は「早めに仕込んでおくこと」。給与の上昇は将来の消費拡大のサインです。このサインを読み取った人にとっては、今は絶好の投資チャンスかもしれません。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
いざなぎ景気では、輸出と所得の増加を背景に国内市場が拡大しました。これは発展途上国から先進国へ仲間入りするときに見られる典型的な事例だったといえます。そう考えると、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)など、いずれ先進国へ仲間入りすることが明らかになりつつある国に投資をしておくことで、株価上昇の恩恵を享受できるということになります。
注意すべき点は、株価が急騰し始めたのは経済成長率が10%を超えるいざなぎ景気が終了した後の70年代前半だったということ。成長率が5%前後に落ちたときに株価が急上昇し始めているのです。この点は、バックナンバーインド株最高値更新!「今から投資」では手遅れ?や、拙著『投資の木の育て方』に詳細にまとめてありますのでご参照ください。
【ポイント2】
当時、私はUFJグループに所属していました。みずほグループに所属していた友人らと「いよいよ破綻か」と語っていたのが02年末。しかし、不良債権を減らすことを国策とする各種政策によって景気拡大は確かなものとなりました。その政策の1つが「りそな銀行の国有化」です。りそな銀行が国有化されたとき、預金者保護を始め、誰も損をしないという状況を作り上げたのです。こうした状況を見て外国人投資家をはじめとしたリスクマネーが日本に投資、株高を演出したのです。
【ポイント3】
ボーナスはバブル崩壊後も、97年までは一貫して増え続けていました。97年といえば、山一證券、北海道拓殖銀行の破綻などが起こった年です。その後、景気は「本当に」悪化し、ボーナスも下落してしまいました。しかし、最近のボーナス額は97年を超える水準にあります。これから本格的に景気が拡大していくのであれば、ボーナスは過去最高を更新していくことになり、消費に回る可能性はますます高くなっていくと言えるのです。

株価に影響を与える「景気」は「気持ちの景色」と書くように雰囲気です。しかし、投資をする上では、雰囲気に惑わされていてはいけません。実感がない、といいつつも、各種データをしっかり調べれば、いずれ実感ある景気拡大が到来するだろうということに気づくはずです。雰囲気に惑わされないためにも、しっかりと調査・分析することが必要です。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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