08年の世界経済を占う〜サブプライム問題がさらに拡大?
日銀、米経済の減退を懸念し利上げ見送り
明けましておめでとうございます。07年は下半期になって、サブプライム問題をはじめとする株価を押し下げる要因が表面化しました。12月下旬にも、不安を感じさせるニュースがありました。日本銀行(日銀)の金利据え置きの決定です。
日銀は12月20日の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持、つまり金利据え置きを全員一致で決定しました。全員一致の据え置き決定は約半年ぶりのことです。それまでは利上げを見送りつつも、利上げを主張する声はありました。しかし今回は、サブプライム問題に端を発した信用リスク懸念から、利上げ機運は大きく後退したといえます。
日本の現状は、ゼロ金利政策といういわば「緊急入院」の状態から脱し、一般病棟に移った段階です。であれば徐々に金利を上げ、“普通”の状態に戻るようリハビリが必要なはずです。日銀も常々、利上げの必要性を訴えていました。
しかし、現実には据え置きです。本来は利上げすべきだが、足元の環境がそれを許さない、ということです。日銀の福井俊彦総裁は、「米経済は本格的にスローダウンの色彩を増す。金融市場の調整もさらに深くなる」と語っています。【ポイント1】
果たして福井総裁が述べるように、米経済は今後、減速していくのか。日本経済の今後を占う上でも、重要なポイントです。
「ホームエクイティローン問題」とは
私は、米経済の本格的な減速は十分にありうる、そのため日本企業の中でも北米依存度の高いところは要注意だと考えています。なぜ、そう考えるのか。キーワードは「ホームエクイティローン」です。
サブプライムローンとは、低所得層や過去に破産したり担保を差し押さえられたことのある人が対象のローンのことです。優遇金利(プライム)より信用力が低いという意味で、サブ(「下位の」の意味)プライムと呼ばれています。
一方のホームエクイティローンは、いわば普通のローンです。しかし、米国の場合、普通のローンとはいえ日本とは違う点があります。
例えば、5,000万円で家を買うためホームエクイティローンを利用したとします。すると、なんと6,000万円の融資が決裁されるのです。しかも使用用途の制限がなく、余分な1,000万円で高級車を買おうが問題ないのです。
また、その1,000万円で買った家にリフォームを施すと、7,000万円で売れる、なんてこともありました。ですから、年収600〜800万円クラスの一般家庭が積極的にローンを組み住宅を購入していたのです。
こうした仕組みが成り立つのも不動産価格が上昇すると信じられていたからです。しかし、不動産価格が下落し、まずサブプライムローンの利用層の返済が滞り、金融機関が負債を抱える。その結果、不動産市況が冷え込み、さらに不動産価格が下落し、ホームエクイティローンの利用層の返済まで滞る。そうなれば、金融機関はさらに不良債権を抱え込み、米経済はいっそう、減速してしまうことも考えられるのです。【ポイント2】
欧州は引き続き堅調?
もちろん、このシナリオの通り米経済が減速すると決まったわけではありません。以前にもお伝えしたように、米金融機関は経営の健全化のための対策を実施しており、その結果として経済、そして株価が盛り返す可能性もあります。
※米金融機関の経営健全化の取り組みについてはバックナンバー『米シティに
8,000億円出資。存在感を増すオイルマネー』をご覧ください。
しかし、サブプライム問題が取りざたされ始めたとき、「一過性のものだ」とたかをくくり、痛い目にあった方も多いでしょう。油断せず、最も厳しいシナリオを想定することも大切だと思います。
一方、欧州はどうでしょう。もちろん欧州の金融機関の多くもサブプライム問題でダメージを受けましたが、東欧やロシアといった消費需要が旺盛で、今後の発展の可能性を秘めた地域を抱えており、私は北米に比べ今後も堅調な展開が続くと考えています。
日本企業でも、積極的にその地域に進出しているところがあります。例えば電動工具大手のマキタ(6586)は、ロシア向け売上げ比率が急上昇しています。トヨタ自動車(7203)もロシア・サンクトペテルブルクで工場の稼動を開始、第2工場の建設も検討しているといいます。【ポイント3】
サブプライム問題、そしてそこから派生したホームエクイティ問題は、まだ尾を引きそうです。米国に景気減速の懸念がある以上、北米依存度の低い日本企業を探してみるのも大切でしょう。
- 【ポイント1】
- 福井総裁は08年3月に任期切れとなります。金融市場の混乱が続く中、在任中に追加利上げに踏み切るかどうかは不透明です。そうなると次の注目点は、誰が次期総裁になるのか、ということです。金融政策の舵取りを決める日銀総裁の人事は、年初の重要なテーマといえます。
- 【ポイント2】
- シカゴに住む私の友人からもらったメールにもホームエクイティローンのことが書かれていました。そして、米国が偉大な消費大国である点も。上記のようなシナリオ通りに米経済が逆転をはじめるかどうかはわかりません。しかし、いったん逆転が始まれば大変なことになると、バブルを経験した我々日本人なら理解できるでしょう。用心するに越したことはありません。
- 【ポイント3】
- 欧州は人口動態の点から考えても、まだ景気拡大が続くのではないか、と考えています。しかし、もし北米に続き欧州も景気が悪化するようなことがあれば…。もちろん、その可能性がないとは言い切れません。08年は欧州の景気動向にも注意を払うことが大切でしょう。
今年もよろしくお願いいたします。07年は株価が変調をきたした年後半だけで実に200社近くの会社を訪問取材してきました。企業の生の声を聞く中で、北米、欧州景気の状況を知ることができました。今年も、こうした経験を踏まえた、みなさまにお役に立てる内容をお届けしたいと思っています。(木下)
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新年明けましておめでとうございます。マネーのまぐまぐ!を拝読している佐藤と申します。以前株のロボットのセミナーを開くと書いてあり、場所をすぐ検索したら交通の便がチョッとと言う感じで申込しなかったのですが、腰痛もいくらか良くなり多少動けるようになりました。もしセミナーがありましたら一報下さい個人的な事ですいません。今年一年木下様の良い年であるようにお祈りします。
2008年01月03日 10:49 | 佐藤映司
木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。