波乱の幕開け。大幅下落で始まった08年の株式市場
日経平均株価、年初から暴落
2008年を迎えて2週目となり、そろそろお正月気分も抜けてきたころではないでしょうか。株式市場も1月4日の大発会から本格的に始動し始めました。
初日から幸先のよい動きが見られればよかったのですが、実際は日経平均株価が大暴落ともいえる下げ幅を記録する波乱の幕開けとなりました。
4日の東京市場では、日経平均が一時、765円の下げ幅を記録。終値でも07年11月につけた安値を割り込む1万4,691円となりました。週明けの7日も続落の展開となっています。
大発会で前年終値を割り込んだのは実に7年ぶりです。また、大発会1日の値下げ幅としては過去最大です。「株式市場に衝撃が走った」という形容がぴったりです。【ポイント1】
確かに、あまりいい材料はりませんでした。尾を引くサブプライム問題と北米の景気減退懸念。そして、NYダウの値下がりなどです。年明けのNYダウも、続落、節目であった1万3,000ドルを割り込みました。その影響が日本にも波及したわけです。
さらに追い打ちをかけたのが歴史的な原油高でした。
原油は1バレル100ドルの大台を突破
2日、国際指標となるWTI原油の先物価格が一時、1バレル100ドルを超えました。100ドルの大台突破は史上初のことです。
ここで改めて、原油価格の上昇がなぜ株価の下落につながるのか復習しておきましょう。
もちろん、個別の銘柄によっては原油価格上昇の恩恵を受けるものもあります。しかし、原油価格が上昇するとガソリン代が高騰し、自動車維持費が家計を圧迫します。特に自動車依存度の高い米国の場合、その影響は日本以上です。【ポイント2】
すると、各家庭は出費を抑えざるを得なくなります。07年11月9日の日経新聞によると、米会計事務所大手デトロイト・トゥシュの調査に対し、米消費者の4割が年末商戦向けの買い物予算を前年より減らす予定だと答えたといいます。そして、予算を減らす理由として、低所得者の多くは「燃料費高騰」を挙げているのです。
家計の出費が減れば、当然ものが売れなくなります。米国の場合、GDP(国内総生産)に占める個人消費の割合は約7割であり、家計の出費減=個人消費の減は景気悪化につながります。
つまり、原油高騰→個人消費減退→景気悪化とつながり、株価が下がってしまうのです。
「大底」は近い?
同様の動きは日本でも予想されますし、日本経済は米景気に左右されることが多いため、日本株への投資意欲が失われてしまうのもわかります。
私は、こうした状況を当初より予想していました。以下、雑誌『宝島』の内容をご覧ください。この取材を受けたのは、日経平均が1万7,000円前後で推移していた07年11月初旬です。
※PDFファイルが開きます。
多くの識者が、1万7,000円前後の株価を前提としていた時期から、私は年末年始の株価下落の可能性に言及していました。その理由は、米国の個人消費減退と株価下落、そしてその影響の日本株への波及です。
とはいえ、このままずっと弱気なのかというとそうではありません。平日毎日更新しているメールマガジン『投資脳のつくり方』で、以下のように指摘しています。
私は悲観から徐々に戦闘モードに投資姿勢を転換させるタイミングに来ていると考えている。今後の成長が期待できる個別銘柄への投資に加え、平均株価への投資も再び魅力が増している。
たしかに、リスク要因はある。米NYダウが続落する中で、平均株価も影響を受けるかもしれない。為替が円高に振れたら、輸出関連企業は株価も業績もダメージを受けるだろう。また、本格的に米個人消費がこれから悪化してきたらどうしたらいいのか。さらに、好景気を謳歌している欧州や新興国にまで景気後退の波が押し寄せたら大変なことになる。
だからこそ、「徐々に」戦闘モードに切り替えていく。
なぜ「戦闘モード」なのか。それは、上記メールマガジンを執筆したころ、配当利回りが急上昇し、長期金利との逆転現象が起こったためです。過去を振り返ると、この逆転現象が起こったタイミングで、株価は底をつくことが多いのです。【ポイント3】
11月22日の日経平均終値は1万4,888円。下げが続いていますが、現状はほぼこの水準といってよいでしょう。私は、1万4,000円が大底に近いと認識するタイミングだと考えています。
不安要素が解決したわけではありませんが、「大底」という意識を持ちつつ、ニュース、そして株価の推移を注意深く見ることが、投資で成功するために必要なのではないでしょうか。
- 【ポイント1】
- 株価が下がる、しかも年初から、というのは嫌な気分にさせます。でも、株式市場において、誰もが買いたいと思っているタイミングではなく、厭世気分が蔓延してくるときこそが絶好の投資チャンスにもなりえます。
- 【ポイント2】
-
07年7月から9月にかけて、原油価格が上昇することで恩恵を受ける会社を徹底的に訪問しました。具体的には、商社や非鉄、海運などです。
現状、本来原油価格が上昇すればつられて上昇するはずの各社の株価は、軒並み軟調です。どうしてこういったことが起こるのでしょうか。私は、計り知れない規模の投機資金が原油価格を実態以上に押し上げているのではないか、と考えています。 - 【ポイント3】
- これ以前に配当利回りが長期金利を逆転したのは05年7月。その後、郵政解散を経て株価が急騰したことを思い出してください。配当利回りが長期金利より下回るということは、株価が軒並み売られているという証です。実態以上に売られているケースも多数あるのです。
個人投資家向けの世界的な名著『敗者のゲーム』にこんな一節があります。
「投資家は『稲妻が輝くときに』市場に居合わせなければならない――」。上昇期間のわずかな期間を逃すと、それだけでリターンが大きく下がってしまうことが統計から分かっています。一方で、稲妻はいつ輝くか分からない。結果、我慢し耐える期間は長くなってしまうものなのです。株価が上昇した03年も05年もそうでした。波乱の幕開けだからこそ、稲妻の輝くときをじっくり待つ覚悟が必要です。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。