更なる成長なるか?社名変更を決断した松下の今後
松下、社名をパナソニックに変更
松下電器産業(6752、以下松下)は1月10日、10月に社名をデジタル家電などに使用していたブランド名「パナソニック」に変更する方針を固めました。また、国内の白物家電のブランド「ナショナル」もパナソニックに統一するといいます。
1918年の創業以来使い続けてきた、創業者・松下幸之助氏の名字を社名からはずし、海外でも浸透しているパナソニックに変更する今回の決定に、松下のグローバル企業化への強い意思を感じます。
日本では松下幸之助の名前を知らない人はいないでしょう。また、「松下」「ナショナル」という社名、ブランド名も広く浸透しています。その名前を変えるのは簡単なことではありません。
しかし大坪文雄社長は、創業家出身の松下正治取締役相談役名誉会長、松下正幸副会長の両氏に社名変更について説明した際、「その場で松下の大きな発展になると賛同を得た」と話しています。今後の発展に向け、社内が一枚岩になっていることが伺えます。【ポイント1】
松下の欧州での成功体験
今回の社名変更の一番の理由はグローバル化です。また、欧州におけるパナソニックブランドの浸透が成功体験となっているのではないか、というのが私の意見です。欧州におけるパナソニックブランドの浸透は、プラズマテレビ「VIERA」の成功と言い換えることができるかもしれません。
現在、薄型テレビの分野では、戦争と呼べるほどの激烈な競争を各社強いられています。値下げや広告費などで、爆発的なヒットとなった「BRAVIA」を擁するソニー(6758)ですら赤字、日立(6501)などは数百億円もの赤字を計上しています。しかし、松下は、テレビ事業でシャープ(6753)と並んで大幅な黒字を計上しています。これは、欧州での拡販に成功したためなのです。【ポイント2】
松下は、09年度に連結売上高10兆円達成の目標を掲げています。しかし、海外販売比率が5割程度で、7割を上回るソニーなどに比べ低く、ここを伸ばすことが課題でした。そのためにも、欧州での成功を活かし、パナソニックを前面に押し出す社名への変更に踏み切ったといえます。
日本国内では、白物家電はナショナル、デジタル家電はパナソニックのブランド名を使い、社名を含めると3つの名前が混在していました。たとえ海外向けの全製品のブランド名がパナソニックであっても、国際的なブランド力や知名度を高める点では、障害だったといえるでしょう。
グローバル企業化で株価は?
では、株式市場は今回の同社の決断をどう評価していくのでしょうか。
社名変更は、「幸之助神話を壊した男」と言われる中村邦夫会長の推し進めた「創造と破壊」の最終局面と捉えることができます。
同社は02年3月期に1,000億円を超える営業赤字に転落しました。その際、社内にかなりの危機感が生まれたことを私自身、取材で感じました。その後、中村氏は社長としてさまざまな改革を実施し、業績は大幅に改善、株価も堅調な推移となりました。
ただ、改革を推し進めた結果、改善の余地が少なくなり、成長性に乏しいと見られているのが現状といえます。そのことは、下記のグラフで日経平均株価の推移と、同社の株価を比較することでも分かります。
日経平均株価と松下の株価の比較(2年)
※赤のグラフが日経平均株価、青のグラフが松下の株価
こうした閉塞感を破りグローバル企業への大きな一歩を踏み出すため、松下は社名変更に踏み切ったのです。今のところ社名変更のニュースによる株価の大きな変化はありませんが、同社が今後どのような経営戦略をとっていくのかは注目しなければいけません。その中に成長を期待させる施策があれば、同社の株が一段と上昇する可能性は十分にあるのです。
- 【ポイント1】
- オーナーが社名変更に反対するケースはよくあります。しかし、松下ではそうした醜い事態は起こりませんでした。この状況を見ていると、松下には今も幸之助翁の「融通無碍」、つまり、一定の考え方にとらわれずどのような事態にも対応するという精神が残っているのだと思えます。
- 【ポイント2】
- プラズマテレビの成功は、当時あまり予想していなかった結果でしょう。それだけに、同社にとって大きな成功体験になっていることと思います。松下にはこれと決めたら社員一丸となって動く、という社風があるように感じます。ブランドを統一した同社の商品の中に、さらに収益性が高まる成功例も出てるくと期待できそうです。
- 【ポイント3】
- 松下ほどの規模になってくると、全体を浮揚させるだけの商品を開発すること自体難しくなってきます。単純にグローバルで商品を販売すれば成長できる、というほど甘いものではないです。これから社名変更をきっかけに、様々な経営施策が出てくることになるでしょう。それは、きっと松下らしい、一歩一歩着実に実行していく施策になるのではないでしょうか。
私が一番最初に読んだ経営者の本は、松下幸之助氏の『若さに贈る』でした。 そして、『経営のコツ、ここなりと気づいた価値は百万両』という昭和57年に 書かれた本は、いまだに私の書棚にあります。いまなお輝きを失っていない幸 之助翁の経営の本質が脈々と流れているからこそ、松下はグローバルカンパニー へ脱皮できるのだ、と思います。 (木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。