連日の大幅下落。「株安の連鎖」はいつまで続く?
07年末から続く株安。08年に入ってからも日経平均株価が下落していることは、既にこのコーナーでもお伝えしました。そして1月21日には、前週末比500円超安の大幅安を記録。22日も大幅安となり、前日比752円安の1万2,573円で取引を終えました。これは2年4ヶ月ぶりの安値です。
なぜこれほどまでに株価が下がっているのでしょうか?日本自身の弱さもあります。しかし、世界の株式市場の流れ、特に北米市場に翻弄されていることが一番の要因です。
今回は、その北米市場を中心に「株安の連鎖」を振り返ってみたいと思います。
尾を引くサブプライムの影響
北米市場も08年開始とともに非常に軟調な展開となっています。17日にはNYダウが300ドル超下げ、10ヶ月ぶりの安値となりました。
その原因はこのコーナーで何度も取り上げてきた「サブプライムローン問題」です。昨年の金融市場における流行語大賞ともいえるこの問題は、08年に入ってもまだまだ市場に大きな影響を与えています。
サブプライム関連では、15日に世界最大の金融グループであるシティが235億ドル(約2兆5,000億円)の評価損の計上を発表。17日には米証券大手のメリルリンチも146億ドル(約1兆5,622億円)の評価損を発表しました。こうしたことから、景気後退への懸念が強まり、株価が大幅に下がったのです。
楽観的過ぎた「デカップリング論」
当初、サブプライム問題は一過性のものであり、また日本への影響は限定的であるとの論調が支配的でした。その根拠として「デカップリング(非連動)論」というものがありました。
たとえ北米の景気が落ち込んでも、それに連動して日本の景気が悪くなることはない。なぜなら、北米の落ち込みを欧州や新興国の好調な経済が支え、世界景気は全体として成長を続けるから、というものです。
しかし、私自身はさまざまな会社を訪問するなかで、07年秋ごろには北米景気の落ち込みは新興国に大きな影響を及ぼすと確認していました。そうなれば、先のデカップリング論の前提が崩れます。
以下、私が毎日配信しているメールマガジン『投資脳のつくり方』の一部を抜粋します。
業績が絶好調である商船三井芦田社長は「アジア発米国向けのコンテナ船は足元でもほぼ満船」と語っている。しかし、他の海運会社からは、「アジア発米国向けのコンテナ船のなかで、『家具』の荷動きが悪くなっている」という状況を聞いている。
アジアから米国に向けて、コンテナ船で運ばれるものとして一番多いのは実は「家具」。この荷動きが悪いということは、米国住宅事情が悪化していることを示唆しているといえる。
米国景気は堅調に推移すると見るのか。それとも一部陰りが見え始めた部分を取り上げ怪しいと考えたほうがいいのか。判断は個々人で分かれるだろう。私は後者だと考えている。3月からサブプライムは怪しいと気づいていても、そのときになってからでは、機敏に対応できない。少し株価が戻ってきたところだからこそ、慎重に状況を眺めている。
例えば中国の場合、GDPの4割を輸出が占め、先進国に比べ個人消費の割合が低くなっています。
サブプライム問題は、最終的には北米の個人消費を冷やすことになります。住宅の購入による恒常的な消費が減るだけでなく、住宅価格の値上がりによって得られていたキャピタルゲインを消費に回すという行動まで控えられるからです。
他の新興国も中国と同様の状況であれば、もし北米の個人消費が低迷し、輸出にかげりが出始めたら、景気への悪影響は避けられません。
同時多発テロ以来の下げ幅、広がる株安の連鎖
このように北米の不振が世界を駆け巡ることは、あらかじめ予想できたことなのです。実際、21日の世界市場を見渡すと、株安の連鎖が起こっていることがわかります。
サブプライムローンの証券化商品が広まっていた欧州では、ドイツ・フランクフルト市場のドイツ株式指数(DAX)が前週末比523.98ポイント安(7.16%下落)、ロンドンFTSE百種総合株価指数も同5.6%安となりました。ともに、01年9月11日の米同時多発テロ以来の下落率です。
さらに大きな下落率をみせたのがインドでした。21日のSENSEX指数は一時、約11%も下落し暫定の7.13%安で取引を終えました。また中国では、国内金融機関でサブプライム問題での損失が広がるとの一部報道を受け、上海、香港とも大きく値を下げました。
これまでサブプライム問題の影響はあまり受けないと考えられ、上昇してきた代表格であるインド株も、ここに来て大きく下がっているのです。「デカップリング」だといっていられる状況ではないことは明らかでしょう。
総悲観論、今持つべき投資スタンスとは?
ここまで見ていくと、皆さんは総悲観論、しばらくは投資から離れたほうが良い、と考えるかもしれません。しかし、私は少し別の見方をしています。以下に、私のロイター通信の取材に対する回答を引用します。
昨年秋からサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題や米景気減速で日経平均は1万4,000円程度まで下落するとみており、ほぼ想定した通りの展開になっている。そろそろ底値圏に来ており、ここからは株式に積極的なスタンスで臨む。これまで組み入れていたディフェンシブ性の強い銘柄を減らし、銀行株のウエートを上げるなど攻撃的なポートフォリオに組み替えている。
米金融機関の損失の大きさや増資なども、日本の不良債権問題を踏まえれば意外感はない。最終的には米ダウ工業株30種が1万2,000ドルを割り込むところまで行かないと底打ちに確信は持てないが、今は最初の陰の極に来ているという認識だ。
誰もが弱気になる局面では、弱気の虫が騒ぎ始めます。みなさんの中には、積極的に投資をすることは無理、とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。それも1つの投資スタンスでしょう。しかし、私は上記のような考えを持っています。みなさんも、今一度、何が起こっているのかを分析し、自分なりの仮説を導き出してみましょう。
- 株価はこれからも変動を繰り返すでしょう。しかし、一番まずいのは、考えることを放棄してしまうことです。株価が大きな変動をしたときこそ、自分自身の仮説、考え方をまとめ、起こっている事象をつぶさに観察することが求められると思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。