サブプライムローン問題再燃で急落の日米株の今後は?

NYダウ、今年2番目の下げ幅

7月下旬、米国株が急落しました。その影響で、各国の市場も大きく下げました。2月下旬の「上海発・世界同時株安」を思い起こした方も多いのではないでしょうか。

今回の米国株の急落の主な原因はサブプライムローン問題です。以前から懸念されていた問題ですが、ここに来てサブプライム関連投資の大型損失が表面化しました。

そのため、資金繰りに対する不安が高まり、住宅ローン大手のアクレディテッド・ホーム・レンダースや、不動産投資信託(REIT)大手のアメリカン・ホーム・モーゲージ・インベストメント(AHM)の株価が急落。そして、損失が他の金融機関にも波及するとの見方から、下げは金融株全般にまで広がりました。

こうした流れで、7月27日のニューヨーク市場のダウ平均株価は、前日より200ドル以上下げ、終値は約2ヶ月ぶりの安値の1万3,265ドルとなりました。これは今年2番目の下げ幅です。

その後も軟調な展開は続き、8月3日のダウ平均株価は、281ドル(約2%)安の1万3,181ドルとなりました。

私は、平日毎日更新している無料メールマガジン『投資脳のつくり方』で、サブプライムローンがここまで騒がれる以前に、以下のような警鐘を鳴らしていました。【ポイント1】

『投資脳の作り方』2007年3月19日号

私は、サブプライムローンの焦げ付きは、後々大きな問題になると考えている。

サブプライムローンとは、信用力の低い人を対象にした高金利型の住宅ローンのこと。米住宅ローン市場の規模は10兆ドル。うちサブプライムローンは約13%の1.3兆ドルにものぼる。これは、日本で銀行が貸す住宅ローン残高を上回る規模だ。

しかもサブプライムの貸し手は欧米金融界の縮図だ。上位にはウェルズ・ファーゴ、HSBC、GE、シティグループなどの大手金融機関の関係会社が並んでいる。上場廃止となったニューセンチュリー・ファイナンシャルには、UBSやドイツ銀行などが融資していた。

今のところ焦げ付き分が融資の2割程度とみられ、30兆円と巨額でも「欧米の経済規模から考えると対応可能」とする意見が多い。しかし、本当にそうだろうか。

金融は血液と同じ。何かをキッカケにして逆流を起こすことはよくある。最近私たちが経験した世界同時株安も、背景は違えど金融の本質的な部分では同じことだ。

たしかに、消費人口がまだしばらく増える米国は、株価が急落する心配は小さい。だからと言って、1つの問題を楽観視して良い訳ではない。サブプライムローンに関しては、慎重に慎重に見ておくことが肝要だろう。

サブプライムは大きな問題ではないのか

上記のメールマガジンの配信から約4ヶ月、私の懸念が現実のものとなったのが、今回の株安といえます。

しかも、さらに厄介なことに、サブプライムローン問題は米国だけにとどまりません。例えば、日本の野村ホールディングス(8604)は、2007年4−6月期連結決算で、米国でのサブプライムローンに関連する事業で312億円の損失を計上しています。欧州の金融機関でも同様の損失が出ています。

そのため、日経平均株価は、サブプライムローン問題への懸念、そして米国株の下げにひきづられる形で大きく値を下げました。

7月23日には、終値で1万8,000円の大台を割り込み、その後も軟調な展開となり、8月1日にはとうとう1万6,845円と、1万7,000円の大台を割りました。1週間ほどで1,000円を超える大きな下げ幅です。

先のメールマガジンの引用の中でも、「サブプライムローン問題はたいしたことはない」との意見を紹介しました。大きく株価が下がった今でも、そのように考えている人は多いようです。

例えば、「問題を抱えているのは中小の住宅ローン会社で、大手金融機関の経営には大きな打撃にならない」(ピーター・カネロ氏/米資産運用会社カネロ&アソシエーツ社長)、「サブプライム問題が米経済全体に与える影響は限られる。米経済は底堅く企業業績も悪くはない」(サム・ストーバル氏/スタンダード・アンド・プアーズのチーフ投資ストラテジスト)などといった声が、日経新聞の記事に掲載されていました。【ポイント2】

日本株は本当に米国株に連動する?

しかし、私は上記の通り、サブプライムローン問題は楽観できない、米国株は今後も軟調な展開が続く可能性があると考えています。

そこで気になるのは今後の日本株の行方です。

日本株はよく、米国株と連動するといわれています。実際、日経平均株価は7月下旬、米国株の下落に歩調を合わせるように値を下げました。与党自民党が惨敗した参院選翌日7月30日は、前週末比154円安の1万7,042円となりましたが、参院選の結果は既に織り込み済み、この下げも米国株にひきづられたものと考えられます。

では、このまま米国株の軟調な展開が続く可能性があるのであれば、その米国株に連動する日本株にも投資できない、そうお考えの方もいるかもしれません。

しかし、本当に米国株と日本株は連動しているのでしょうか?もし連動しているのであれば、90年代に株価が4分の1になった日本と、逆に3倍に上昇した米国の状況をどう説明すればよいでしょう。

確かに今回、日本株は米国株の急落に連動して下げました。しかし、その連動のスパンは1日から数週間と短いものです。もう少し長いスパンで考えれば、90年代の日米の株価のように別の姿が見えてくるのです。

ですので、私は米国株につられ日本株が安くなっている今こそ、逆に投資のチャンスではないかと考えています。

株価は景気がよくなれば上昇します。そして、今後日本は景気が拡大し、米国は冷え込んでいくと予想しています。その鍵を握るのは、景気の7割を占める個人消費を左右する40代前半の人口推移です。

詳細は拙著『投資の木の育て方』に譲りますが、日本はこれから消費世代である40代前半の人口が増えていきます。そのため、内需が盛り上がり景気が拡大すると考えています。

※株価と40代前半の人口推移の連動についてはこちらのグラフこちらのグラフもご覧ください。

一方の米国は、今後40代前半の人口はピークをむかえ、その後は減少過程に入ります。つまり、景気は冷え込んでいくと考えられるのです。

これから景気が拡大していく日本と、景気が冷え込んでいく米国。いつまでも株価が連動するとは思いません。たしかに、「数週間」は連動する可能性はあるでしょう。しかし、「数年後」のスパンで考えれば、「連動しないこと」が高いリターンとなる、と私は考えています。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
私がサブプライムローン問題に懸念を表明したのは、かつての住専問題に似ている、と感じたからです。最初は住専という狭い範囲であったものが、数年後にはメガバンクに対する公的資金導入にまで大きくなりました。今回の米国も同様のケースが起こることは十分に考えられます。
【ポイント2】
ポイント1で書いたように、日本でも最初は不良債権はそれほど大きな論点ではありませんでした。それが、最終的には「日本はダメ」の大合唱となります。90年代は消費世代が減少し景気が悪化する局面だった、ということがその背景にあります。米国はこれから消費世代が日本ほどではないにしろ減少してきます。楽観論が大勢を占めている現在、少し危うさを感じます。
【ポイント3】
現在の日本株の売買状況を見ると、「外国人投資家売り」の「個人投資家買い」となっています。国内の個人投資家は勇気を持って一歩踏み出しています。たしかにこの時点で投資をするには勇気が必要かもしれません。しかし、勇気を出して一歩踏み出すと、より高いリターンを得ることができるかもしれない。読者のみなさまは、どうお考えになりますか?

信用リスクの収縮というのは恐ろしいものです。今は一種のパニックになっている局面とも言えるでしょう。私は、(1)サブプライムローンの影響は小さくない、(2)米国株は軟調、(3)日本株はいずれ息を吹き返す、という自分なりの理論を持っています。こういうタイミングだからこそ、冷静に自分の考えをまとめ、様子を見るか、一歩踏み出すか判断したいものです。私は「一歩踏み出す」です。(木下)

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  • よく理解できました。

    2007年08月08日 13:02 | nagaichi
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プロフィール

木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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