生き残りをかけた再編、三越・伊勢丹の統合で百貨店業界は?
三越・伊勢丹が統合交渉
百貨店大手の伊勢丹(8238)と三越(2779)が、経営統合を視野に入れた資本提携の交渉に入りました。百貨店業界4位の三越と同5位の伊勢丹とが手を結べば、売上高の単純合計は1兆5,800億円となり、07年9月に経営統合する大丸(8234)と松坂屋ホールディングス(3051)を抜き、業界首位となります。
三越は日本橋本店や札幌、名古屋など全国で20店舗を運営していいます。一方、伊勢丹は新宿本店、浦和店、立川店など7店の直営店を展開するほか、グループ企業で福岡や新潟など6店舗を持っています。全国に店舗網がある三越と首都圏が中心の伊勢丹が競合するのは福岡ぐらいであり、商圏はほとんど重なりません。
また、富裕層に強い三越とファッション衣料を中心に若い世代の支持を集める
伊勢丹は主要顧客層も異なるため、魅力ある統合といえるでしょう。【ポイント1】
ただし、株価は意味深な動きを示しました。統合交渉が明らかになった7月25日、不振が続く三越株は統合による復活が期待され、終値は前日比41円(7.5%)高の587円となりました。一方、伊勢丹株の終値は前日比変わらずの1,901円でした。
統合による効果を見込んで伊勢丹株も上昇してしかるべきなのに、なぜそうならなかったのか。百貨店業界の再編の動きを振り返りながら原因を探っていきましょう。
加速する業界再編の動き
伊勢丹の武藤信一社長はかねてから、「日本の百貨店は4社程度に集約されるだろう」と語っていました。また、三越の石塚邦雄社長は「業界再編の大きな波に乗ることができるか、取り残されてしまうかは、今期の業績にかかる」と不退転の決意を明らかにし、経営陣の一新を図ったばかりでした。
三越、伊勢丹両社の提携は、こうした「再編不可避」な流れに対応したものといえます。
大消費地の東京での三越と伊勢丹の販売額を合計すると、百貨店販売額全体の3割を超えます。そもそも店舗別売上高は三越日本橋本店と伊勢丹新宿本店がそれぞれ1位、2位ですので、強者連合が実現すれば、そのインパクトは大きいでしょう。
また伊勢丹は、三越との提携交渉前から、丸井今井(札幌)、名鉄百貨店(名古屋)、岩田屋(福岡)などと業務提携などによる連携を進めています。【ポイント2】
再編の動きはこの2社に限ったことではありません。今年9月、大丸と松坂屋が統合し、J.フロントリテイリングが発足しますし、10月には村上ファンドの大量保有が引き金となり、阪急百貨店(8242)と阪神百貨店も統合し、エイチ・ツー・オーリテイリングとなる予定です。
一方、独自路線を選択しているのが高島屋(8233)です。「店舗配置を考えずに、規模を大きくするだけでは意味がない」(同社鈴木弘治社長)と業界再編とは一線を画して単独の成長を模索しています。
進む再編で株価はどう動く?
このように、同じ百貨店業界において戦略が異なる企業を比較することで、百貨店業界への投資をどう考えたらよいのかのヒントが見えてきます。
積極的に他社との提携を進める伊勢丹と、独自路線を進む高島屋。この2社の株価を比較してみましょう。
伊勢丹VS高島屋(05年を100として指数化、Yahoo!ファイナンスより)
表を見てみると、株価推移では大差ないことが分かります。つまり、投資家は両社の戦略の違いをそれほど評価していないということです。その動きは07年に入ってからも変わりません。
確かに他社との提携は規模の拡大や効率化には役立つでしょう。しかし、百貨店というのは地域に根ざしたビジネスであり、提携するだけでは相乗効果は生まれにくいのも事実です。そのため、提携を積極的に進める伊勢丹と、独自路線の高島屋の株価に大きな違いは出なかったといえるでしょう。
また、上記の表を見ていただければ、両社の株価推移が日経平均株価の推移と高い連動性を見せていることが分かります。
百貨店業界ではさらに再編が進んでいくと考えられます。しかし株価推移は日経平均との連動性で考えるとよいでしょう。今後は、連動性の高い日経平均株価を意識しながら上昇、下落を続ける展開になると予想されます。【ポイント3】
- 【ポイント1】
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伊勢丹は昭和初期、当時としては繁華街とほど遠かった新宿に移転しました。そのことが現在の隆盛につながっています。三越と違って資産家や法人を顧客に持たなかったことも、当時の新興中流層の主婦や若者に焦点を当てる戦略につながったわけです。
現状には、その「原因」となった過去があります。過去を少しひも解くことで、ニュースをより深く理解できるでしょう。 - 【ポイント2】
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西武百貨店を傘下にもつミレニアムリテイリングや小田急百貨店、京急百貨店などには伊勢丹出身の社長や店長がいます。他社にとっても魅力ある人材が伊勢丹に豊富なのは、同社の人材育成法に秘密があるようです。
仕入れのために年間で延べ400人を海外に派遣し、入社3、4年目から買い付けを経験させるといいます。もちろん、仕入れに関する知識も研修等で徹底的に叩き込まれる「体育会系」会社、というのが伊勢丹の評判です。
カルチャーが全く異なる三越との統合はすんなりうまくいくのでしょうか? - 【ポイント3】
- 百貨店株は、日経平均株価の上昇以上の上昇を見せることが多く、日経平均株価の上昇タイミングをしっかりと捉えれば、投資対象としては魅力があります。例えば、日経平均株価の底値の発見に役立つ騰落レシオなどをチェックしながら投資をしていくことで、良好なパフォーマンスを得ることは十分可能だと考えています。
伊勢丹はマネー雑誌等でも何度か取り上げたことがあります。同社の業績、取り組んできた内容等は注目に値し、投資対象として魅力がある、ともお伝えしてきました。今後の株式交換比率、ならびに両社が統合することで得られるメリットをしっかりと分析していきたいと思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。