日本株は反転するか?金融再編と株価上昇の関連性
相次ぐ「金融再編」のニュース
11月に入り、相次いで「金融再編」に関するニュースが届きました。ひとつは、あおぞら銀行(8304)と住友信託銀行(8403)が提携するというもの。もうひとつは新生銀行(8303)が米ファンドの傘下に入るというものです。
業界再編は株価に大きな影響を与えます。中でも金融業界の再編は特に注目する必要があります。なぜなら、「金融再編は株高の予兆」とみることができるからです。
そのことを理解していただくために、こちらの表をご覧ください。
97年の北海道拓殖銀行破綻、山一證券自主廃業のタイミングでは、その後さらに大型の金融破たんが起こることが予想されましたので、株価は軟調でした。
しかし、98年はどうでしょう。日本を代表する長信銀の一角が国有化されたことで、これ以上の金融機関破綻は続かないとの認識が広がり、株価は上昇に転じました。
そして、一度山を迎えた株価は下落に転じますが、そこでも、上昇に転じるタイミングで、りそな銀行の国有化という金融再編がありました。
そして、04年にさらに上昇に弾みがつきます。この年には、UFJホールディングス(当時)と三菱東京フィナンシャルグループ(当時)の経営統合が発表されました。統合の過程では、UFJ信託銀と住友信託銀の統合問題などがあり、株価は一進一退となりましたが、問題が解決に向かうについて株価は大きく上昇しました。
今回のあおぞら銀と住友信託銀の提携や、新生銀の投資ファンド傘下入りという金融再編のニュースは、こうした事例を踏まえると、これから日本株が再び上昇基調に向かう予兆にみえるのです。【ポイント1】
中国株値上がりのきっかけも金融再編?
こうした金融再編と株高の関連性は、何も日本に限ったことではありません。
私は、平日毎日更新の『投資脳のつくり方』の中で、日経新聞の『ゴールドマンなど企業連合、中国工商銀に出資へ』という記事を紹介しながら、以下のように指摘しました。
中国の不良債権処理は、外資系にとってビッグチャンス。
米大手証券ゴールドマン・サックスを中心とする企業連合が中国最大の銀行である中国工商銀行に出資することが明らかになった。
中国の4大国有銀行は不良債権処理にあえいでいる。
しかし、外資系企業は、不良債権ビジネスが宝の山ということを知っている。
80年代、米国では金融危機が吹き荒れたにもかかわらず、株価は3倍になった。日本でも、2003年りそな銀行国有化以降株価が大きく反発した。
これから中国でも同様のケースが起こる。
その後、中国株がどのような値動きをしたかは、皆さんもご存知でしょう。金融再編が株価につながるというのは世界的にもいえることなのです。【ポイント2】
ただし、欧米の場合、現在はサブプライム問題の影響がぬぐいきれず、さらに個人消費まで冷やす状況にあります。日本でいえば、山一證券の破綻のころと同様、更なる危機を予感させるため、たとえ直近で金融再編が起こっても株高につながるとは考えにくいのです。
「これから反転」を示す各指標
一方、日本には他にも底入れをうかがわせる指標があります。
私が投資家の心理を把握するために利用している騰落レシオは、60%台と歴史的な低水準にあります。
騰落レシオは、東証上場企業の中で値上がりした銘柄の数を、値下がりした銘柄の数で割って算出します。数値が小さいほど、投資家が「悲観」であることを表し、数値が大きいほど投資家が「楽観」であることを表します。
この騰落レシオが60%台の水準というのは、過去、大型金融破綻が起こったときのレベル。投資家が総悲観となっているといっても過言ではありません。
また、11月13日の東京市場では、上場企業の配当利回りが1.53%となり、長期金利(1.49%)を上回りました。これは05年7月以来、約2年4ヶ月ぶりの逆転です。
配当利回りは、予想配当金を株価で割って求められます。この数値が逆転したということは、株式相場が下落し利回りが上昇した半面、安全性資産である債券が買われ、長期金利が低下したということになります。
こうした指標は、投資家の心理が悲観に振れ、株価が下がるところまで下がったことを示唆しています。しかし、投資家の心理は悲観に振れ続けることはありません。いずれ必ず楽観に転じます。
金融再編と株価上昇の関連、そして歴史的な割安水準にある各種指標を見ると、今こそ、投資に一歩踏み出すチャンスだと考えられます。
サブプライム問題が尾を引き、今後も株価が下落する可能性はあります。しかし、過去を振り返り、各指標を眺めることで、一歩踏み出す勇気を持てるのではないでしょうか。【ポイント3】
- 【ポイント1】
- 私は98年に社会人になったため、就職活動中、そして社会人1年目に金融破綻を経験しました。そして、その後ファンドマネジャーとして活動しているときに、所属しているチームでりそな銀行を保有していたなど、金融関連ニュースには多くの接点を持ってきました。自分自身が金融業界に身を置いているからこそ、より真剣に金融再編と株価の関係を眺めていたのかもしれません。
- 【ポイント2】
- 中国は当時、「開発業者が架空の予約販売を捏造(ねつぞう)し、銀行から不正に住宅ローンを引き出す」、「国有銀行最大手中国工商銀行の住宅ローンの不良債権比率のうち80%は契約の中身自体にうそがある」など、とても投資できるとは思えないニュースが続発していました。それでも、こういった記事を書くことができたのは、日本の金融再編の歴史を経験し、中国を眺めたからでした。
- 【ポイント3】
- 「人の行く裏に道あり花の山」という相場格言があります。今はまさにこの格言が当てはまると私は考えています。たしかに短期的にはさらなる下落もあるでしょう。そのためには、「資金管理」と「時間管理」が重要です。資金のどれだけを投資に向かわせるか、そして、どれだけの期間投資するのか、事前に自分自身に問うことが重要でしょう。
私はここ数ヶ月悲観的な論調でお話をさせていただいていました。多くの人が日経平均は年末に向けて1万8,000円を目指すと話す中で、1万4,000円台もありうると話してきました。その論調をそろそろ変える必要が出てきたと思います。みなさまはどうお感じになられたでしょうか? (木下)
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2007年11月29日 04:57 | uiser
木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。