取引低迷続くジャスダック、単独自主再建はできるか?

赤字転落のジャスダックに再編議論

ジャスダック証券取引所の今後巡る議論が活発化しています。

その直接の原因となったのが、日本証券業協会(日証協)が11月15日に開いた特別委員会です。新興株式市場を中心とする証券取引所の再編がテーマのこの委員会で、日証協は自らが株式の7割超を保有しているジャスダックの再編案を提示、年内を目処に意見を集約したいとの意向を明らかにしました。

提示された再編案は(1)東京証券取引所の統合、(2)大阪証券取引所との統合、(3)東証マザーズなど各証取の新興株式市場を1つにまとめる、(4)ジャスダック単独での存続の4案です。

こうした再編議論の背景には、ジャスダックの不振があります。ジャスダックは、売買低迷で08年3月期に営業赤字に転落する見込みです。自力での経営改善に向け、次期システムの導入による損益分岐点引き下げなどを打ち出しているものの、世界レベルで起こってる証券取引所の再編の流れの中、果たして単独で生き残れるのかとの懸念があります。【ポイント1】

※取引所の再編についてはバックナンバー『取引所間の競争激化!東証とNY証券取引所の提携で個人投資家は?』もご覧ください。

ジャスダックの筒井高志社長は11月26日の記者会見で、「まず(取引所としての)自分の力を強化していきたい」と、単独での存続を改めて強調しています。

しかし、赤字転落が確実な状況でそれが許されるのか。再編がどういった形で進むのかの結論は12月下旬に持ち越されています。

東証、大証の出方は?

今後は、それぞれの関係者の出方に注目する必要があります。特に、日証協にジャスダック買収を打診したとされる大証の出方が気になるところです。

一部報道によると、大証幹部の中には買収は「経営の重荷になりかねない」との警戒感もあるようです。

しかし、大証傘下のヘラクレスとジャスダックが統合すれば、上場銘柄数は7倍程度となり、大証にとって収益機会が増えることが予想されます。ヘラクレスの売買代金は、06年は13兆円でしたが、市場低迷により07年はその半分にも満たない見通しです。技術企業向け新市場NEO(ネオ)を創設したジャスダックは、大証にとって魅力的といえます。【ポイント2】

※新市場NEOについてはバックナンバー『新市場NEOの上場第1号が決定。新興市場の現状は?』もご覧ください。

一方、東証は統合に消極的な姿勢をみせています。斉藤惇社長は11月27日の定例記者会見で、「肝心のジャスダックが自分たちでやるんだと繰り返し主張している。第三者が力で、べき論でやってもうまくいかない面がある」と述べています。

斉藤社長は、「東証が全く関心がないという態度をとるつもりはない。考えるべきことがあれば考えるが、今のところ頭の整理がついていない」とも付け加えており、関係者として東証を完全に除外することはできません。

「新興市場底入れ」から取り残されたジャスダック

最近の株価動向も、こうした再編の動きに影響を与えているようです。

東証マザーズ、大証ヘラクレスには底入れ感が出る中、ジャスダックの出遅れが目立ちます。つまり同じ新興市場でも、市場間で明暗が分かれており、出遅れたジャスダックが変革を迫られている側面もあるのです。

例えばPBR(株価純資産倍率)を見てみましょう。日経新聞の報道によると、マザースは11月29日時点で1倍割れの比率が16%で、9月18日から7ポイント改善しました。ヘラクレスでも同期間に5ポイント改善しています。一方ジャスダックは、67%の銘柄で1倍を割り込んでいます。

PBRが1倍を割るというのは、理論的には企業が解散して残った資産を株主に分配すれば株価以上の価値が得られることを意味します。逆の見方をすると、それだけ株価が安値に置かれているということです。

一般的に、資産規模が大きい製造業は株価の下落とともに、1倍を割りやすい傾向にありますが、ネット企業などは資産が少なく1倍を保ちやすいといわれています。【ポイント3】

他の新興市場に比べ歴史が長く、製造業が多いジャスダックで1倍割れの銘柄が多いのはごく自然なことです。一方で、それは「新鮮さ」や「目新しさ」に欠けるともいえます。だからこそ、将来性に賭けて新興市場に投資する投資家を呼び込むため、NEOという新市場を設立したともいえます。

ライブドアショック以降、低迷を続けてきた新興市場ですが、ようやくマザース、ヘラクレスに底入れ感が出始めました。一方で出遅れているジャスダックの単独での生き残りは可能なのか。日本の新興市場の今後を占う上でも、目が離せません。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
再編議論のきっかけにジャスダックの業績不振があったのは事実です。上記の通り、9月中間期は赤字です。しかし、4−10月の累計実績では黒字になっており、計画を上回って推移しているとの発表もあります。ジャスダックが単独で存続することも十分考えられることです。
【ポイント2】
証券取引所もサービス業。やはり、どうやって投資家を呼び込むかが鍵を握るでしょう。その中で、ジャスダックが市場として魅力を増すことができるのかを見極めるためには、技術企業向け新市場NEOの成否に着目すべきでしょう。魅力ある企業を目利きするスキルが証券取引所にも求められます。
【ポイント3】
「バリュー投資」が流行った05年ごろに、PBR(株価純資産倍率)の低い企業への投資経験をお持ちの方も多いでしょう。ただし、新興市場のPBR1倍割れは注意が必要です。「割安には割安の理由がある」という相場格言もあるように、万年割安株も存在します。だからこそ、収益の伸びなど裏づけをしっかりと持った上で、本当に割安なのかを見極めることが大切です。

新興市場の底入れは、投資家の心理を明るくします。そのためにも証券取引所が黒子として機能することは、結果的に株高につながっていくことになるでしょう。今回の再編議論は、普段私たちが当たり前に思っている価値を、再確認する良いタイミングなのかもしれません。(木下)

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  •  JASDACはあまりにもアメリカナイズされてしまったため、今のアメリカ依存度が低下しつつある日本で機能しにくいのでは?中小企業と日本力をうまく吸い上げているのか疑問。しかしあと2年以内でなんとかしないと、再起不能になるとおもう。

    2008年07月06日 22:28 | 明日香
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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