IXI、粉飾額800億円超の不正取引〜個人投資家はいかに身を守る?

粉飾額は800億円超?他社を巻き込んだ大規模不正取引

07年2月22日、東京証券取引所は2部上場のシステム開発会社のアイ・エックス・アイ(IXI)を上場廃止としました。同社は1月に大阪地裁に民事再生手続きの開始を申し立て、事実上倒産。東証により監理ポストに割り当てていました。民事再生手続きの申し立て、上場廃止の原因は、大規模な不正取引でした。

06年12月、IXIの監査を担当していた新日本監査法人が、同年9月中間期決算で計上されていた109億円の在庫に対し、「最終消費者をはっきりさせてほしい」と要求。しかし、同社からは明確な回答がなく、同月26日に「監査証明書を出せない。引き続き営業取引について調査したい」と告げました。

その結果、IXIは期限である07年2月4日までに上場企業に義務付けられている半期報告書の提出が困難と判断。また、監査法人の指摘を受けて行われた調査で、大規模な不正取引や103億円に上る簿外債務が発覚したため、1月21日に民事再生法手続きの申し立てを行ったのです。

IXIは、不正取引に関わったとして、常務取締役らに2人に辞職勧告、執行役員ら2人を解雇し、告訴しました。会社側はこの4人が会社の決済を受けない「社内のルールを逸脱した」取引をしていたとしています。しかし、実際にはさらに悪質な「架空循環取引」が行われていた疑いが強くなっています。

架空循環取引とは、帳票類や入出金の形式を整えて、実在しない商品を複数の業者間で転売する行為のこと。多くの場合、起点となる企業があり、架空商品は書類上だけで転々とし、起点の企業はそれを再び循環取引に流し込むことで、再び収益の水増し操作を続ける、ということになります。

大阪地検特捜部は、IXIから告訴された元常務ら4人に対する特別背任と証券取引法違反の疑いで2月28日、IXI本社や嶋田博一社長宅、同社と取引のあった日本IBMや大手リース会社の東京リース(8579)を家宅捜索しました。

日本IBMは「被害者である」との姿勢ですが、特捜部は同社の関与を慎重に調べる方針だといいます。、またIXIについては、嶋田社長など告発された役員以外が不正に関わっていた可能性についても捜査が進んでいるといい、事件はまだまだ広がりをみせそうです。【ポイント1】

優良企業とみられていたIXI

企業としてあってはならない架空循環取引に手を染めていたIXIですが、発覚直前までは、優良企業とみられていました。

05年3月期に約175億円だった売上高が、1年後の06年3月期には約401億円に急増。株価もそれにあわせ、05年5月末時点で36万円程度だったものが、06年5月末には62万円程度まで急伸しているのです(その後、06年6月に株式分割を実施)。

05年8月には、東証マザーズ上場第1号として知られるインターネット総合研究所(IRI、4741)がIXIの親会社となり、その後、同社の連結決算の大半を支える存在にまでなりました。

こうしたIXIの好調さを評価し、ライブドア事件のホワイトナイトとして一躍有名になった北尾吉孝氏率いるSBIホールディングス(8473)が06年11月、IRIを株式交換で完全子会社化すると発表していました。

しかし、IXIの好調さは見せかけ。実際は、不正取引による粉飾だったのです。不正が行われていたとされる03年から06年3月期決算と06年9月期決算の総売上高約995億円のうち、架空の売上が800億円を占めているとも報道されています。

当然ながら、不正が発覚し倒産に追い込まれたIXIの株価は急落。監査法人の指摘を受ける前の06年12月には30万円程度だった株価は、上場廃止前日の07年2月21日には600円にまで値を下げで取引を終えました。

親会社であるIRIの株価も、06年12月までは7万円後半をつけていましたが、07年1月中旬から急落、IXIが民事再生手続きの申請を決めた翌日の1月22日には、前週末比1万円安の6万500円となりました。

その後も下げ止まらず、2月に入り何度か3万円を割り込み、3月12日には3万2,800円で取引を終えました。こうした状況を受けSBIホールディングスは、IRIの子会社化を白紙撤回しました。

また、不正取引で名前が取りざたされた東京リースも、IXIの民事再生手続き申請の翌日、1,741円で前週末比269円安となりました。【ポイント2】

不正を見抜くことはできるのか?個人投資家のなすべきこと

上場廃止でIXIの株式は紙くず同然となりました。保有していた投資家は大きな損をしたことでしょう。また、IXIだけでなく、IRIや東京リースといった関連の企業の株価も大きく下げています。

こうした状況を目の当たりにすると、「不正を事前に見抜いて、そうした銘柄は避けたい」と考えるのも当然のことです。

しかし、私は実体験として、個人投資家の立場で不正を発覚前に見抜くことは相当に難しいと考えています。

私は銀行員として法人への融資業務に携わっていました。その業務の中で一番注意しなければならないのが不正会計です。そのため、貸借対照表の左側、つまり棚卸資産や売掛金の中身は徹底的に調べました。今回不正に巻き込まれているリース業界を担当していたときには、担当者に対して「この項目は何ですか?」と繰り返し繰り返し質問をしていたものです。

また、現在は企業投資業務に携わっていますが、持ち込まれる案件の中には、実は債務超過だったなどというケースも多々あります。そのため改めて監査を行い、徹底的に数字を洗わなければ投資に踏み切らないケースがあります。

「上場企業だから大丈夫」という理屈が通用しない今、できることの限られている個人投資家が、不正を見抜くという「無駄な努力」に終わる可能性のあることに時間を割くのはあまり得策ではない気がします。【ポイント3】

だからこそ、不正会計を行っている企業に投資をしてしまった場合、一旦は売却をするといった投資行動が求められるのではないでしょうか。

例えば、今回のIXIの場合、監査法人が在庫過多を指摘したとき、その後、上場廃止にまで至るとは想像できなかったかもしれません。しかし、この段階で不正の可能性を感じ、株を売却していれば損は最小限に抑えられたでしょう。

もちろん、購入した価格より下落し損が出ることもあるでしょう。もしかしたら、その後何事もなかったかのように株価が上昇することもあるかもしれません。それでも売却をする。不正を見抜くことが難しい以上、こうした投資行動でしっかりとリスク管理をしていくことが個人投資家に求められていくことになるでしょう。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
架空循環取引の事例として思い出されるのが04年のメディア・リンクス事件です。伊藤忠テクノサイエンスの幹部も加担していたとして話題になりました。実はIXIもこの事件に関わっていたのです。
IXIにとっては、上場直前の01年3月期の大口取引先。上場自体も不正があったからこそだったとも考えられます。不正の原因を業界の自浄能力の欠如に求めるだけでなく、今回の事件を通じて、市場全体を改善しようという機運が高まり、改善がなされることを一投資家として期待しています。
【ポイント2】
最近話題となったのがソフトバンク(9984)の不正会計問題です。2月27日付で負債の未計上など会計処理に複数の疑問点があるというリポートがカリヨン証券から出され、株価が急落してしまったのです。 その後、ソフトバンク側から「悪意のあるアナリストリポート、及び記事に対し法的措置に入る」というリリースが発表され、会社側の強気姿勢を好感し株価は反発、上昇基調となりました。
日興グループの例をみるまでもなく、不正会計は株価を直撃します。各企業が神経質になるのも当然でしょう。
【ポイント3】
IXI広報IR室長の白神(しらが)純二氏は報道陣に対し、「すべてが虚像だった。今年3月期の売上見込みは約458億円だったが、今となっては実像かどうか分からない」と話しています。また、「株主に説明するため、売り上げ増の要因を幹部に確認したが、雲をつかむような感じだった」と話してます。内部社員ですら不正会計を見抜くことが難しいことを物語っているのではないでしょうか。

だから株は怖い―。そう感じた方も多いでしょう。でも、一部を取り上げて、全体を怖がるのはもったいないことです。米国を見ても不正会計に揺れた02年、03年以降、株価は大きく反発、その後高値を更新したのです。不正会計事件の多発により、各企業が厳正な対応が取ることで徐々に落ち着きを取り戻していくことでしょう。まずはETFなど全体に投資をし、さらにしっかりと応援できる会社を見つける。不必要に怖がるのではなく、こうした投資家として当たり前のことを実践することが必要だと思います。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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