乱高下続く新興市場の今後を占うキーワード

乱高下するアジア市場

07年10月22日の東京株式市場は、前週から続く下落に拍車がかかる形となりました。日経平均株価は一時、前週末比で500円近く下落、終値でも同375円安の1万6,438円となり、約1ヶ月ぶりに1万6,500円を割り込みました。

その要因として、米株式市場の大幅急落や急速な円高進行が挙げられます。今年3番目の下げ幅となったNYダウなど米市場の急落は、まだまだサブプライムローン問題の影響が深刻であることを物語っています。【ポイント1】

また、軟調な展開を見せているのは日米市場だけではありません。アジア各国の市場も乱高下しています。

そのきっかけとなったのはインド市場でした。17日のインド市場は一時、前日比9%以上の下げとなり、その余波でアジア各国の市場も大幅に下げました。

なぜ、インド市場はこのように急激に下げたのか。政府が外国人の投資に対する規制案を公表したことが直接的な原因といわれています。その後、政府は「海外からの投資を今後も歓迎する」との声明を発表しましたが、乱高下を繰り返す展開は続きました。

こうした各国市場、特に新興国の不安定な状況は一時的なものなのでしょうか?その点を検討するためには、値動きだけではない、広い視野が必要となります。

GDPから見えるものとは?

私は、インドを含む新興国への投資には魅力があると、平日毎日配信しているメルマガ『投資脳のつくり方』などでお伝えしてきました。そのこと自体は、今も変わりはありません。

しかし、数ヶ月から1年程度のスパンで見た場合、株価が経済規模に比べ「割高」になっており、新興国の株価が下落基調になる可能性があります。

例えばインドの場合。05年の経済規模を示すGDPは約80兆円程度。一方、インドの株式市場 SENSEX 全体の時価総額は50兆円程度でした。しかしGDPは大きく変化していないにもかかわらず、現在の時価総額は約170兆円にまで膨れ上がっています。つまり、インド株は経済規模の2倍以上に評価されているということです。

05年当時は経済規模に比べて割安だったものが、今では割高になっているのです。こうした株式市場の急成長は日本の80年代後半のバブルを思い起こさせます。そしてバブルは必ずどこかのタイミングで崩壊するのです。【ポイント2】

新興国投資、資金管理の注意点とは?

日本の場合、株式市場の時価総額がGDPを超えたのが88年。そして、89年には株価は急激な上昇をみせました。現在のインドは、ちょうどこのころに当てはまるのかもしれません。

※日本のGDPと時価総額の関連についてはこちらのグラフをご覧ください。

しかし、その後の日本株の動きは皆さんご存知の通りです。90年代の日経平均株価はピーク時の半値近くにまで下落しました。もし新興国の株価も、日本と同様の動きをするとしたら、今後、下落基調が続くだろうという仮説が成り立ちます。

しかし一方で、新興国の場合は今後、人口の増大により経済規模が拡大することも予想されています。現在はインフラ投資を中心に経済規模が拡大していますが、いずれは人口の増加による消費増を起爆剤とする拡大に変わっていくことでしょう。

つまり、日本での経験を踏まえGDPとの連動性を考えれば、新興国株価の下落基調が予測されます。しかし、さらに長いスパンで見れば、人口増による経済規模の拡大とそれに伴う株価上昇も予測できるのです。

であれば、投資家も新興国への投資の際は2通りの対応が求められるのです。直近の値動きに対応し売買を行うための資金の準備と、短期的な上昇や下落に一喜一憂しない長期投資用の資金の準備です。

長期投資とはいっても目の前で株価が動くとそれを無視するのは難しいもの。そんなときには、定期的に一定金額で購入する「ドルコスト平均法」の利用を検討してもよいかもしれません。

私自身は、長短の割合は8対2ぐらいかなと考えています。もちろんこの割合はそれぞれの考え方、資金量と相談すべきものです。しかし、、新興国投資というテーマと長く付き合っていきたいのなら、目先の変動だけに目を奪われることなく、きちんと資金管理をすべきです。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
07年8月第3週は、最後の水、木、金の3日間だけで日経平均株価が1,570円も下落しました。それだけサブプライムローン問題の影響は大きく、そして長引いているといえるでしょう。
※8月の株価急落については、バックナンバー『尾を引くサブプライム問題。米株価はこのまま下落が続く?』もご覧ください。
年末にかけてもまだまだ油断できない状況です。マクロの視点に加え、 100社近くの会社訪問で得たエッセンスを元に、まぐまぐプレミアム『なぜ、この会社の株を買いたいのか?』において、「これから3ヶ月間何を考えるべきか」という記事を書きました。よろしければ投資の参考としてください。
【ポイント2】
世界の経済規模はどうやって調べればいいのでしょうか?実は簡単、日本貿易振興機構(ジェトロ)のウェブサイトを見れば、私たちが投資対象先としてみている国の経済規模が詳細に掲載されています。新興国への投資を考えるに当たって、ぜひとも見ておきたいサイトのひとつです。
【ポイント3】
大事なことなので繰り返しますが、銘柄を選択することと同じぐらい、資金管理は重要です。どこにどれだけ、どのタイミングで資金を投じるのか、このことをきちんと把握せずに投資で成功することはできません。下落しているからといって、市場から眼を背けてはいけません。今一度、損益も含めて、自分の現状を確かめてみましょう。

投資をしていると、上昇する楽しい時間は短く、ちっとも上がらない、むしろ、下落している辛い時間のほうが長いような気がします。でも、その辛い時間にチャンスを捉える準備をしておくことが、資産を増やすことができるかどうかのカギとなります。

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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