メリルリンチ、9,000億円の損失で赤字転落。長引くサブプライムの影響
メリルリンチ、6年半ぶりの赤字転落
米証券大手のメリルリンチが10月24日発表した7−9月期決算は、最終損益が01年1−3月期以来6年半ぶりの赤字となりました。赤字幅は22億4,000万ドル(約2,500億円)に上ります。赤字転落の一番の要因はサブプライムローン問題でした。
このコラムでも何度もお伝えしている通り、サブプライムローンとは、信用力の低い個人向けの住宅融資のことです。メリルリンチは、このサブプライムに関連する評価損が、計79億ドル(約9,000億円)に上ったと明らかにしました。当初は、45億ドル程度の評価損を見込んでいましたが、その後の市場環境の悪化で、79億ドルにまで拡大しました。
サブプライム関連では、米大手金融機関の巨額損失が相次いで表面化していますが、今回のメリルリンチの損失は、米大手銀行シティグループの65億ドルを上回り、最大となりました。
米メディアは、スタンレー・オニール会長兼最高経営責任者(CEO)が引責辞任する見通しであると報道しています。
米株式市場では、保険最大手AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)も巨額の評価損を出すとの情報が流れるなど、疑心暗鬼の雰囲気に包まれ、メリルリンチの決算発表の翌日25日のNYダウ平均は、一時130ドルも下落しました。
06年末にサブプライム問題が表面化してから、1年近くが経過しました。しかし、今なお更なる損失が明るみになるかもしれない、そしてその規模が巨大なものである可能性が否定できない恐怖が米国市場に渦巻いています。【ポイント1】
日本企業も多額の損失
サブプライム問題といえば、真っ先に欧米の金融機関への影響が思い浮かびますが、日本企業も決して無縁ではありません。
例えば野村ホールディングス(以下野村、8604)は、メリルリンチより早い10月15日に、サブプライム問題に絡み、1−9月期に総額1,456億円の損失を計上すると発表しました。これを受け野村は、米国の住宅ローン担保証券関連事業からの完全撤退を余儀なくされました。【ポイント2】
当初は一過性のものと思われていたサブプライム問題。しかし、こうした影響を目の当たりにすると、そう看過するわけには行きません。
しかし、これをチャンスと捉える向きもあります。例えば、ノンバンク大手のオリックス(8591)。同社の米現地法人を率いるジェームズ・トンプソンが、同社社長・藤木保彦氏を訪ね、「拡大に転じるときが来たと思う」と話したというのです。
オリックスは米国での投融資をここ6年で約4割圧縮しています。それが、サブプライム問題で四苦八苦しているこのタイミングで拡大に転じるべきだ、というのです。
これはどういうことなのでしょうか?かつての日本の状況を重ね合わせると分かりやすいかもしれません。日本では、バブル崩壊後、外資系金融機関が不良債権を買い漁り、莫大な利益を得ました。
米国がバブル崩壊後の日本と同様にリセッション(景気後退)に入るのであれば、そこにチャンスがある、というわけです。
米景気はどうなる?
では今後、米景気はどうなるのでしょうか。それを考える際、サブプライム問題は不動産がベースとなっている点を忘れてはいけません。不動産は実需であるため、その影響は消費など広範囲に及びます。【ポイント3】
短期的には、FRB(連邦準備理事会)の利下げで小康状態、または期待感で株価が上昇することもあるでしょう。しかし、利下げは抜本的な解決ではありません。日本人であれば、そのことを実感しているでしょう。
日本は01年3月、ゼロ金利政策を実施しました。景気悪化を食い止めるためのものでしたが、不良債権はこの時期からさらに拡大しました。利下げで実需の悪化を食い止めることは難しいのです。
ですので、今後は米個人消費の行方に焦点が移るでしょう。では、個人消費はどのように推移するのか?そのヒントを北米依存度の高い2つの銘柄の決算内容から探ってみましょう。
1つは日産自動車(7201)。同社が26日に発表した9月中間決算は、営業利益が前年同期比5.3%増の3,671億円と、中間期で2期ぶりに増益に転じました。円安に加え、新型車の投入で米国市場がけん引した結果の好決算です。
一方、同様に北米依存度の高い船井電機(6839)が29日発表した9月中間決算は、営業利益は前年同期比81%減の20億円で、最終損益は43億円の赤字になりました。主力の北米でのテレビなどの需要が低迷した結果です。
同じ北米依存度の高い2銘柄の正反対の決算内容。これをどう捉えるのか?私は、今後米消費は徐々に悪化するのではないかと見ています。どちらにしろ、今後の推移は注意深く見守る必要があるでしょう。
- 【ポイント1】
- 日本でも、不良債権は当初はそれほど大きなものではなかったはず。住専(住宅ローン専門会社)に、初めて公的資金が導入された90年代中ごろには6,000億円を超える程度でした。それが、最終的には何十兆にも膨れ上がったのです。金融機関の巨額損失計上は、まだまだ続くと見るべきでしょう。
- 【ポイント2】
- 野村はその後、9月中間決算で純利益が前年同期比4%増の662億円となったと発表しました。投資信託の販売拡大が続く国内営業部門が好調で、サブプライム問題などによる損失を補った形です。確かに、サブプライムの影響は大きいものでした。しかし、その損失を国内で補っている点は見逃せません。
- 【ポイント3】
- あまり報道されていませんが、欧州では米国以上に不動産価格の高騰がみられます。好景気を謳歌している欧州も、不動産価格が下落に転じてしまえば影響は軽微では済まないでしょう。
年内は好材料と悪材料、どちらにも敏感に反応し、株価の変動性が激しくなる可能性が高いです。ややリスクが高まっているこの時期、無理して投資をすることはありません。休むもまた相場なり、です。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。