対応に追われる日米。サブプライム問題の今後は?

米、予想を上回る大幅利下げ

日銀は9月19日に開いた金融政策決定会合で、政策金利の引き上げを見送り、金融政策の現状維持を決めました。その理由は、世界経済の不確実性です。

日銀の福井俊彦総裁は、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題をきっかけとする市場の動揺について、「一段と悪化しているわけではないが、目立った改善も見られない」と述べ、「米欧の金融市場は不安定な状況が続いている」と分析しています。さらに、震源地である米国の景気については「下振れリスクが高まっている」と指摘、さらなる悪化の可能性を示唆しました。【ポイント1】

また、米連邦準備理事会(FRB)は前日18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、最重要の政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.5%引き下げ、年4.75%とすることを全会一致で決定、即日実施しています。

これは03年6月以来、4年3カ月ぶりの本格的な利下げです。市場では0.25%の小幅な利下げにとどまるとの観測が多かったのですが、大幅な利下げの実施で、米経済の安定に向けた強い覚悟を示した格好です。

FOMC終了後には、「金融市場の混乱が米経済全体に打撃を与えるのを未然に防ぎ、緩やかな経済成長を支えるのが本日の行動の狙いだ」との声明を発表。景気の悪化が深刻になる前に、予防的な利下げを決断したと説明しました。

利下げ好感、日経平均1万6,000円の大台突破

この利下げを好感し、18日のニューヨークダウ平均は、今年最大の上げ幅となる前日比335ドル高を記録しました。

また、東京市場でも19日、日経平均株価が579円74銭(3.7%)高の1万6,381円54銭で引けました。02年3月4日(638円22銭)以来、5年半ぶりの大きな上昇幅。その後も、21日まで1万6,000円の大台を保っています。香港ハンセン指数が過去最高値を更新するなど、アジア市場もほぼ全面高となりました。

19日の東京市場は、足元で下げのきつかった銀行や不動産株の急騰が目立ちました。FRBの利下げ幅が市場予想を上回り、米住宅ローン問題に端を発した世界的な信用収縮懸念に、ひとまず歯止めが掛かるとの安心感が広がったことが大きな理由でしょう。

一連のサブプライム問題、そしてこの利下げは、マネーフローにも変化をもたらしました。金融商品のリスク回避のため、実物資産に資金がシフトし、原油が最高値を更新、金は28年ぶりの高値をつけました。また、外国為替市場ではドル安が加速、対ドルでユーロが最高値を更新したほか、資源国通貨も上昇しています。

他にも、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の原油先物相場ではWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)期近物が高値圏で推移しています。ロンドン金属取引所(LME)の非鉄地金やシカゴ穀物相場なども同様の動きとなっています。【ポイント2】

新興国市場は新たな逃避地?

日米そろっての利下げ(利上げ見送り)で、サブプライム問題で大きく下げた
株価はいったん持ち直しました。しかし、まだ完全に不安が払拭されたわけで
はありません。そこで改めて注目されているのが新興国市場です。

最近では、「新興国市場は新たな逃避地」という言葉も聞かれ始めました。日米欧の銀行の業界団体である国際金融協会(IIF)は、サブプライム問題に端を発した信用不安の新興国市場への影響は限定的だとする報告書をまとめました。その理由として、新興国の金融機関による証券化商品への投資が限られている点や、経済のファンダメンタルズが堅調である点などを挙げています。

また、英シュローダーズの運用責任者アラン・コンウェイ氏は、日経新聞のインタビューで「かつて高リスク資産といわれた新興市場国株も、いまや強固な経済状況に裏打ちされた力強い投資先で、欧米市場の混乱を受けてセーフヘイブン(資金の逃避先)の役割を果たす」と答えています。

しかし少し考えてみると、こうした考えはやや不安が残ります。新興国への投資は、政治・経済両面の不安定さを考えると、やはり欧米市場に比べれば高リスクです。

また、各国の株式市場の上位企業はエネルギーか金融です。マネーフローの変化(実物資産への資金のシフト)が良い影響として現れています。しかし、逆にいえば、マネーフローが再び変わると、悪い影響を受けることもありうるのです。

これから米景気が悪化するようなことがあれば、逆回転を始める可能性は否定できません。それは、新興国だけでなく、短期的には日本株にも影響を与える可能性が高いでしょう。今は、慎重に市場を眺めるタイミングなのではないでしょうか。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
スイス国立銀行(中央銀行)は9月13日、金融政策で最も重視する3カ月物市場金利の誘導目標を0.25%引き上げ、2.25―3.25%にしました。利上げは04年6月に金融引き締めに転じてから10回目です。
同銀行は声明で「最近の市場の混乱にもかかわらず、スイス経済は期待通り成長している」と、景気の好調さを指摘。株価の波形は日本とそれほど変わらないのに、利上げに踏み切りました。日本もこれから利上げを検討するタイミングが出てくる可能性は十分あります。
【ポイント2】
日本でも、住友金属鉱山(5713)など資源関連株は上昇基調にあります。また、8月に新たに上場した金価格連動型上場投資信託も好調な動きとなっています。商品市況と株式市場は、いまや別物ではなく密接な動きをしています。株式から商品へ逃避しておけば安心と考えるのは楽観的すぎるのではないでしょうか。
【ポイント3】
20日のニューヨーク外為市場ではカナダドルが買われ、一時、1米ドル=1カナダドルと等価になりました。原油や金価格の上昇を手掛かりに、投資家がカナダをはじめ資源国通貨への投資を増やしているためでしょう。
しかし、米国とカナダの通貨が等価になることには、やはり違和感があります。 過去20年間で最も米ドルに対して強くなったカナダドルが、今後どう推移していくのか、注目する必要があるでしょう。

株式投資をしていると、いつでも投資をしたいと思ってしまいがちです。しかし、株式投資は野球と違い、どれだけストライクを見逃しても、どれだけボールを見逃してもカウントには関係ありません。自分にとっての絶好球が来るまでじっくり待っていればいいのです。今来たと考えているのであれば自信を持って投資をすればいいし、そうでないなら次のチャンスを待っていればいいだけです。(木下)

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  • 一ヶ月程前の内容ですが、木下さんの石油レポートがあります。

    http://www.terunobu-kinoshita.com/20070831-toushinou.pdf

    2007年09月28日 03:42 | 武者 流一郎
  • 資金の逃避地として、金や石油の先物市場にも流れているとも聞きますが、そのあたりどのようにお考えでしょうか?

    2007年09月25日 20:01 | 通りすがり
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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