安倍首相、突然の辞意表明。市場の反応と次の注目点
安倍首相の辞意表明で乱高下した市場
安倍晋三首相は9月12日午後2時、首相官邸で記者会見し「首相の職を辞するべきと決意した」と述べました。あまりにも突然の辞任表明。予定されていた臨時国会は、冒頭で首相が辞意表明するという大波乱の展開となりました。
安倍首相は7月の参院選で与党が過半数を大きく割り込む大敗を喫した後も続投を表明し、8月27日には内閣改造による「人心一新」を目指していました。
しかし、その後も「政治とカネ」を巡る閣僚らの問題が次々と浮上。政権運営への逆風が強まっていました。そこに、自身の体調不良も重なり、就任から1年弱での退陣となりました。【ポイント1】
辞意が表明された12日後場の日経平均株価は、一時、前日比154円高で1万6,000円の大台を回復する場面もありました。これは、支持率が低迷していた安倍首相の辞任により、日本株の上昇を抑えていた政治不信が打開されるとの見方によるものといえます。
しかしその後は大引けにかけて、次期首相を巡る政治混迷が嫌気され売りが優勢となり、終値では前日比80円安の1万5,797円となりました。
麻生効果?「アキバ系」銘柄が一時上昇
12日の株式市場は、首相の辞意表明で一時株価が上昇するという皮肉な結果になりましたが、他にも興味深い値動きがみられました。アニメやゲーム関連の銘柄が急上昇したのです。
キャラクター玩具のブロッコリー(2706)は12日、値幅制限がないマーケットメイク銘柄であったため、70%強の上昇をみせました。他にも、東映アニメーション(4816)は前日比90円高の2,875円、ガンホー・オンライン・エンターテイメント(3765)は同2万7,000円高の21万円といった具合です。
これは、安倍首相辞任の一報が流れた午後1時頃から、次期首相の有力候補に、漫画好きで知られる麻生太郎自民党幹事長の名前が挙がったためです。
また、総裁選が告示された14日には、一歩リードが伝えられる福田康夫元官房長官が、「親中」であるとして中国関連銘柄が上昇。一方で、苦戦を強いられる麻生幹事長の「アキバ系銘柄」は急落する場面がみられました。
私は、株価は「資産価値+収益価値+夢・希望」の3点で出来上がっていると考えています。
上記のアキバ系銘柄や中国関連銘柄は、夢・希望に反応して、一時的に大きく上がったのでしょう。しかし、こうした動きが出るということは、市場において手詰まり感があるということに他なりません。こう着状態が続く日本の株式市場の現状を表しているともいえるます。【ポイント2】
外国人投資家は次期首相に何を期待する?
自民党総裁選は14日に告示され、町村派の福田元官房長官と、麻生派会長の麻生幹事長による一騎打ちとなりました。下馬評では、各派で支持を拡大している福田氏優勢と伝えられています。
では、私たち投資家は何に注目して総裁選を見ればよいのでしょうか。やはり、現在の日本の株式市場の主役となっている外国人投資家の視点を持つ必要があります。売買の6割、保有でも3割弱の影響力を持つ外国人投資家が、安倍首相の辞意表明、総裁選を巡る動きをどうみているのかを確認するのは、投資をする上で必須といえます。
その参考になるのが、海外メディアの報道です。
「安倍首相の辞任表明はひどいタイミングだった。(中略)次期首相は、小泉前首相が始めた経済改革路線を再び推進すべきだ」(英フィナンシャル・タイムズ)
「自民党は安倍首相の後任に、経済改革を後退させる抵抗勢力を選出する可能性があるが、日本にとって誤った選択だ。安倍首相は税制改革、規制緩和、自由貿易協定などを掲げたが、実現できたのはわずかだった。何を目指すのか、目標を掲げなかったからだ。外国資本は日本を素通りし、消費者の購買意欲は低下。株式相場は停滞した」(米ウォールストリート・ジャーナル)
「日本は政治、経済、財政の無重量状態に陥った」(仏レゼコー)
このように、世界のメディアの注目は、日本の景気がこれから回復していくのか、そしてそのために必要な構造改革を推し進めていくのかという点に集まっています。投資家たちも同様の見方をしているでしょう。であれば、我々も「景気回復」「構造改革」に注目して総裁選を見ていく必要があります。
総裁選で選ばれた新しい日本のリーダーは、今の停滞した流れを断ち切らなければいけません。投開票が行われる23日は、日本の先行きを決める大事な日といえます。再び、日本の存在感を強く発揮できる総裁が選ばれることを期待したいと思います。【ポイント3】
- 【ポイント1】
- 偶然にも、辞任を表明した翌日、安倍首相の地元山口に出張する機会がありました。お会いした方々の多くは「残念」という言葉を口にされていました。確かに、安倍首相は、周りに足を引っ張られてしまった感があります。任命責任があり、参院選大敗の責任があるとはいえ、やはり「残念」な結果だったと思います。
- 【ポイント2】
- 大きく上昇したブロッコリーはその後大きく下落し、上昇前とほぼ同じ水準となっています。これはやはりスペキュレーション(投機)といわざるを得ません。株式市場にはこうした動きもあります。これを狙いに行くことを否定はしませんが、私はこういった機会を俊敏に捉えることにあまり長けていません。読者のみなさまはいかがですか?
- 【ポイント3】
- 小泉純一郎前首相は高く評価されている首相といえますが、そもそも05年9月、自民党が大勝した郵政解散総選挙の投票前には、散々な評価が与えられていました。今回登場するリーダーも、当初こそ厳しい評価が下される可能性は否定しませんが、同時に素晴らしい評価となる可能性もまたあると思います。
政治動向は短期的に株価動向に影響を与えるため、注視しておく必要があります。とりわけ外国人投資家は政治動向に過敏に反応します。今のままでは、日本は投資対象国として見捨てられてしまう可能性もあります。今回の総裁選によって、再び日本が魅力ある国として映るようになることを期待したいと思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。