地域別価格、カフェ進出…マクドナルドの次の一手と外食産業の今後

マクドナルド、月間売上げで過去最高を記録

日本マクドナルドホールディングス(以下マクドナルド、2702)は9月4日、8月の月間売上高が463億9,400万円(速報値)となり、月間で過去最高になったと発表しました。これまで最高だった07年3月を、33億4700万円上回っており、その好調振りがうかがえます。

大型ハンバーガー「メガマック」の再販売や、新商品投入による100円マックの強化、24時間営業店舗の拡大など、ここ数年実施してきたことが、結果として表れたということでしょう。

こうした施策は、04年にアップルコンピューターから転身し、「マック(Mac)からマック(マクドナルド)へ」と話題になった原田永幸CEOがけん引しました。

原田氏はまず店舗の改革を行いました。外観はもちろん、店内にはパソコンが使用できるスペースや、個室のような席を作りました。

また商品開発では、先ほど述べたメガマックや、タレントの蛯原友里さんをコマーシャルに起用した「えびフィレオ」など、話題性のある商品を次々と発表、お客を飽きさせませんでした。【ポイント1】

最近では、「マックカフェ」が首都圏を中心に15店舗オープン。ドトールコーヒーやスターバックスコーヒージャパンが主導する市場に参入し、新たな収益源を獲得しようとしています。

ここ数年のこうした地道な取り組みが功を奏し、売り上げ増につながったのでしょう。

実質的な値上げ実施も好調を維持

そしてさらに注目すべきは、8月10日に導入された「地域別価格」です。これまで全国均一を維持してきた価格を、地域の実情に合わせて設定するということです。地域によって、値上げもあれば値下げもありますが、実質的な値上げといっていいでしょう。

例えば、ハンバーガー類、ポテト、ドリンクのセット商品の価格には、値上げ(3段階)、据え置き、値下げの5段階が設けられましたが、日経MJが47都道府県を調査したところ、約3,840店のうち値上げした店舗が約9割を占めているのです。

普通、値上げを実施すれば客数が減少します。リンガーハット(8200)は06年9月、主力の「長崎ちゃんぽん」の価格を399円から450円に引き上げて以降、客数が大幅に減り、月間の既存店売上高の前年割れが続いています。

しかし、マクドナルドの場合、客数が減るどころか、上記の通り、地域別価格が導入された8月は、過去最高の売上げを記録しています。これは、店舗改革、商品開発などを通じて、お客様満足度が高まっているからでしょう。

また、客側の考え方にも変化がみられます。原田CEOは、「消費者行動はより、『実勢価格』に影響されるようになり、従来の『定価』の重みが薄れつつある」としています。実勢価格とは、各種クーポンの利用により、客が実際に支払う価格のことです。

マクドナルドでは、携帯電話を利用しクーポンを配布する会員組織「“トクする”ケータイサイト」の会員数が急増しています。03年7月開設の同サイトは、07年6月末に会員数が300万人を突破。さらにNTTとも協力し、「来年前半に2,000万人まで増やす」(原田CEO)としています。【ポイント2】

投資対象としての外食産業は?

実質的な値上げを実施しながらもクーポーンでお得感を出し、店舗改革・商品開発で客を逃さない。そんな戦略が功を奏したマクドナルドは非常に好調だといえます。では、そのほかの外食産業はどうなのでしょう。私は強気に捉えています。

先日、日本経済新聞の取材に対し、私は「正社員の給与はあまり増えないが、パートやアルバイトは仕事も繁忙で実入りが増えている」と答えました。記事は「実際、ある外食チェーンの都心店では、平日昼間の時給が1,200円と、若手正社員の時間当たり給与を上回るほどだ」と続きます(日本経済新聞07年9月8日付朝刊17面)。

つまり、パート・アルバイトの収入が増えることで、フリーターを含む若者を主要顧客にしている業界に追い風が吹いているのです。

他にも牛丼を復活させた吉野家ディー・アンド・シー(9861)など外食産業は、好調を維持しています。また、牛丼チェーンすき屋などを展開するゼンショー(7550)のように、新規出店に加え、M&Aを通じた規模を目指す企業もあります。

サブプライムローン問題など、外需企業に不透明感が強まる中、外食産業はこれからの株価上昇の期待できる、魅力あるセクターと考えられるでしょう。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
今年1月に発売したメガマック。この商品、「ガツン系」と呼ばれているとか。メタボリック症候群予防にダイエット、ノンカロリー。健康志向が常識となった世相に逆らうように、「カロリーを気にせず、たまにはガツンと食べたい」という揺り戻しの心理が背景にあるようですね。
【ポイント2】
日本マクドナルドの現在の収益規模は経常利益で140億円程度。かつては、300億円を超える利益を稼いでいたことを考えれば、この水準がターゲットになってくるでしょう。値上げの効果が業績に影響を及ぼすのは次年度以降。さらなる株高も期待できるのではないでしょうか。
【ポイント3】
内閣府が先日発表した07年4―6月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.3%減、年率換算で1.2%減と3四半期ぶりのマイナス成長となってしまいました。ただし中身を見ると個人消費は堅調で前年比プラス。なかでも好調な外食産業は統計数値からも魅力あるといえるでしょう。

小売企業は、投資対象として魅力があると思えば、実際に店舗に足を運んで確認することが大事です。できれば、様々な会社の店舗に足を運んでみましょう。実際にお客様がどうなのか、他チェーン店と比べてどうなのか、肌感覚で理解できる稀有なセクター。投資判断に活用しない手はありません。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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