出鼻をくじかれた安倍改造内閣、その経済政策は?

就任から1週間での大臣交代劇

参院選の敗北を受け、出直しを期した安倍改造内閣。しかし、早くも破綻の兆しが見られます。またも現役閣僚が「政治とカネ」の問題で辞任することになりました。

9月3日、遠藤武彦農相は、自身が組合長を務めていた農業共済組合による国の補助金の不正受給の責任を取り、就任から約1週間で大臣を辞職しました。

今回の問題は、遠藤農相が組合長を務める「置賜農業共済組合」(山形県米沢市)が、農作物の天候被害を補償する共済を巡り、加入者と国との折半になっている掛け金について、約100人分の加入者を水増し申請したというもの。不正受給額は約115万円に上ったようです。会計検査院は04年に山形県にこの問題を指摘、今年5月にも補助金が未返還であると県に連絡していたといいます。

7月29日の参院選直後に組閣に踏み切らなかったのは閣僚候補の身辺調査に時間を費やすためだったはず。井上義行首相秘書官は首相のアジア歴訪に同行せず「身体検査」に専念、関係省庁も動員し、万全を期していました。

それなのにこの結果。昨年9月の安倍内閣発足後、閣僚の途中交代は今回で5回目。農相は約3カ月で3人が代わるという異常事態です。

参院選惨敗からの態勢立て直しを目指した改造内閣は、わずか1週間でつまずき、安倍政権は一段と厳しい局面に立たされたといえます。【ポイント1】

改造内閣、注目すべき経済政策は?

では株式市場は、安倍改造内閣をどう評価しているのでしょうか。現時点では、とてもプラス評価とはいえません。改造内閣が発足した8月28日の日経平均終値は、1万6,287円と、前日比14円安。「改革実行内閣」といくらアピールしても、市場には響かなかったようです。

なぜなら、今回の改造内閣は「改革を行う」という強い意思表示以上に、「無難に乗り切らなければいけない」という側面が強く現れていたからでしょう。

しかし、注目すべき点もあります。キーワードは「地方」と「成長」です。

冬柴鉄三国交相は、日経新聞の取材に対し、新内閣が重点的に取り組む課題について、「景気回復は着実に進んでいるが、その果実がいきわたっていない。それが格差だ。地方や中小・零細企業など日本のマジョリティーはまだ潤っていない」「解決策として国土交通省がやるべきことはやはり道路や港湾の整備。真に頑張っている地方で、民需を拡大し、雇用創出につながるものを、メリハリをつけて整備していく必要がある。バラマキに戻れるほどのお金はない。知恵を働かせてやっていく」と語っています。

公共工事が良いかどうかは議論が分かれるところです。しかし、格差論が叫ばれる中、地方経済に対する言及がなされたことは、ポジティブに捉えるべきでしょう。

また、額賀福志郎財務相は、「成長と財政健全化のバランスをどう取るのか」との日経新聞の取材に対し、「ここ数十年、日本経済は停滞していたので、どうしたって成長優先にならざるを得ない。成長がなければ、財政再建なんて及びもつかない。引き続き、成長を持続させながら財政再建をしていくことが大切だ」と答えています。

参院で野党に過半数を握られている現状では安倍内閣の実行力に疑問が残るのは事実です。しかし、政府として地方、そして成長を重視してることは注目に値するでしょう。【ポイント2】

改造内閣、注目すべき経済政策は?

そして、さらに注目されるのが福井俊彦日銀総裁の後任人事です。サブプライムローン問題の影響で8月は金利据え置きとなりましたが、追加利上げは引き続き検討されています。金融問題が株式市場に与える影響は大きく、日銀を巡る状況からは目を離せません。

福井総裁の任期は08年3月で切れます。額賀財務相は、「日銀法改正時に大蔵委員長だったので日銀の独立はよく承知している。(日銀総裁は)国会で承認を得る人事だ。見識と経験を持った人が選ばれることを期待したい」と日経新聞の取材に答えています。

今後、景気が拡大していく中、利上げが求められる場面が出てくるでしょう。その決断のためには、市場との対話、各国中央銀行との連携など、非常に高い資質が求められます。

政治とカネの問題は、もちろん大切です。スキャンダルに足元をすくわれているようでは政策の実行もおぼつきません。しかし、その問題をワイドショー的に面白おかしく見ているだけではいけません。投資家であれば、政策に着目し、自らの投資スタンスの参考にしたいものです。

小泉内閣時代には、首相、そして竹中平蔵氏のコメントや行動をつぶさに眺めることが投資の大きなヒントになっていました。一方、安倍内閣の場合は、小泉元首相ほど分かりやすくありません。しかし、首相、閣僚のコメントを丁寧に追っていくことは投資をする上で不可欠ではないでしょうか。【ポイント3】

課題山積ではありますが、安倍首相には今後の施策で、これまでの失点を挽回してもらいたいと思います。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
一国民として、今回の退任劇はやはりお粗末な感は否めません。8月末には中国に株式時価総額で抜かれた日本。外国人投資家は政治動向には大きな関心を示しています。日本の投資家としては、まずは安定した政権運営を実現して欲しいものです。
【ポイント2】
地方の景気は徐々に良くなりつつあります。地価動向を見ていてもそれは分かります。先日も地方への出張で駅前の再開発などを見てきました。
しかし、実感がわかない。実感がわくためには給与所得などの向上に加え、地方を活性化させる施策が求められるのかもしれません。日本全体の景気がさらに拡大するためには、地方景気の復活は不可欠。今後の動向には注目です。
【ポイント3】
金融政策は日銀の専管事項ではありますが、政府の意向を全く無視するのは難しいでしょう。また、金利だけでなく、消費税をはじめとする税制の問題もあります。なんといっても政治は国の要。それを担当する閣僚の発言には注意しておくべきです。

政治があまりにもお粗末だと、日本の市場は世界から取り残されてしまいます。賛否両論ありますが、海外に向けて明確なメッセージを送り続けた小泉純一郎前首相、そしてそれを支えた竹中平蔵氏が、景気を回復し株価を押し上げたのは事実。安倍首相の奮起に一投資家として期待したいと思います。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

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マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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