ついに本格スタート。郵政民営化で何が変わるか

巨大グループの誕生

07年10月1日、郵政民営化がスタートしました。これは、87年の国鉄以来の大規模な国営事業の民営化です。

民営化された日本郵政公社は、持ち株会社「日本郵政株式会社」の元、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険、郵便事業株式会社と、これら3社から窓口業務を受託する郵便局株式会社の計4社がぶさらがるグループに生まれ変わりました。社員数24万人、店舗数2万4,000、金融2社の資産が335兆円という、巨大グループです。

それにしても、この規模は「すさまじい」といわざるを得ません。北海道を例にみてみましょう。3月末の道内郵便貯金残高は7兆4,000億円。道内トップの北洋銀行と札幌銀行で作る札幌北洋ホールディングス(8328)の道内預金残高6兆2,000億円強をしのぎます。また、東北6県でのゆうちょ銀の預金量の合計は10兆9,788億円で、東北最大の七十七銀行(8341)の4兆9,000億円の2倍以上です。【ポイント1】

これだけの規模を持つグループ企業が民営化され、3年後の2010年には金融2社の上場を予定されているのですから、その動向に注目が集まるのも当然です。

民営化によって何が変わるか

民営化する、ということは収益を追いかけるということです。つまり、今まで国営(公営)だったため、赤字でも行ってきた業務の見直しが行われます。実際、民営化を前に郵便の集配業務の縮小や、過疎地における簡易郵便局の縮小などが行われています。

また、郵便貯金や簡易保険などは、新規契約分に対する政府保証が、民営化された10月1日からなくなりました。

とはいえ、これまでに培ってきた信用力がすぐになくなる、ということはないでしょう。

国民の「郵便局」に対する信用は絶大です。日本郵政公社による投資信託の販売開始からほぼ2年で、純資産残高が1兆円を突破したことからもそのことが伺えます。投資信託は元本割れのリスクがある商品です。それがこれだけ売れているのです。「郵便局で売っているものだから」という信用が影響したことは否定できません。【ポイント2】

さらに郵政公社に与えられていた特権も残ります。郵便事業はその典型例です。

駐車規制が厳しくなる中で、郵政公社は有料駐車場を使う必要がなく、配達先のすぐ近くに駐車しても、取締りの対象外となっていました。警察庁7月、郵政公社民営化に先立ち、公社の車両も規制対象にするよう、各都道府県の公安委員会に通知しました。しかし、16の県が公社の車両の路上駐車を容認しているようです。

民営化により、こうした特権も徐々になくなっていくことでしょう。しかし、「特別な存在」であることには変わりありません。

投資家として民営化をどう評価する?

では投資家にとって、郵政民営化はどのような影響があるのでしょうか。郵貯部門と簡保部門が持つ300兆円という巨額の資金がどう運用されるのかは、大いに注目すべき点です。

郵政公社が7月末までの4ヶ月間で、保有する日本株約1兆1,000億円を売却したことが明らかになっています。公社としての最後の決算で利益を確保するのが狙いとみられます。これが日本株の上値を抑えていたことは否めません。

しかし、運用リターンを高めたいのであれば、今後再び日本株に積極的に投資する可能性は十分あります。これだけの規模の投資主体が動けば、日本株の上昇に弾みがつくと考えられます。【ポイント3】

また、民営化が地銀再編のきっかけとなる可能性もあります。

ゆうちょ銀行は、住宅ローン業務で、スルガ銀行(8358)と提携すると発表しました。住宅ローンは、地銀各行が今後の主力事業と位置付ける分野です。

そこにゆうちょ銀行が本格参入するわけですから、地銀も黙っているわけにはいきません。例えば、北国銀行(8363)、福井銀行(8362)、富山第一銀行の北陸3行は、10月9日より相互にATM利用手数料を無料にすると発表しました。これは明らかに「対ゆうちょ銀行」を意識したものです。こうした動きが、さらに一歩進んだ再編に発展する可能性もあるでしょう。

民営化された「郵便局」は規模が大きく、その一挙手一投足が経済に、そして市場に大きな影響を与えます。これからもその動向には注意を払う必要があるでしょう。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
「規模の経済」という言葉もある通り、規模が大きいということはそれだけでアドバンテージがあることになります。新聞報道では、ある市場関係者が「ゆうちょ銀の参入はプールにとつぜんクジラが飛び込んでくるようなもの。せめて泳ぐ場所を決めておかないとみんなおぼれてしまう」と語っていたと紹介されていました。
【ポイント2】
90年代後半、金融不安が吹き荒れる中、信用力を武器に、逆に預金残高を増やしたのが郵便貯金です。当時、私が所属していた中央三井信託銀行では、預金流出の動きが止まりませんでした。信用力は民営化されても、そう大きくは変わらないでしょう。しかし、リスク資産などは「郵便局だから安心」とはならないということは、今一度確認したいところです。
【ポイント3】
300兆円という資産の運用先に、米国債を求める声も出てくるかもしれません。赤字に苦しむ米国は、その債権(=借金)をどこかが引き受けてくれればそれで経済が回ります。その規模が数百兆円であれば、のどから手が出るほどほしいでしょう。高いリターンを得る可能性がある米国債投資は、どちらにとってもトクという判断が働く可能性もあります。

人間は基本的に変化を好みません。特に、大きな動きとなると、よく分からないまま拒否してしまうのはある意味、仕方が無いことです。しかし、そこから一歩踏み出し、考えることが必要です。郵政民営化はプラス面は多いのではないか、というのが投資家としての私なりの考えです。(木下)

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最新コメント

  • いまさら過疎地がどうこう言いだした。民間企業なのだから赤字店舗の閉鎖は当然。地元が必要と言うなら市町村が補助金を出すべきです。小泉改革時にはまったく過疎地保護はマスコミに触れられず反対=抵抗勢力と避難しながら、いまさら言いだすのは日本のマスコミの悪い癖。

    2007年10月03日 05:23 | ぺんたろう
  • きちんと、郵貯銀行が機能すればの話しですよね?きちんと経営できるかそのあたりは本当に疑問に感じられる。ただ、「でかいだけ」に終わる可能性も大きいのでは?

    2007年10月02日 18:02 | 通りすがり
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プロフィール

木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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