メガバンク決算出揃う。悲観と楽観の間で「銀行ETF」に妙味?

大手銀行6グループの08年3月期決算が20日、出揃いました。連結純利益は合計で1兆8,600億円と、前の期に比べ34%減りました。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下三菱UFJ、8306)、みずほフィナンシャルグループ(以下みずほ、8411)、三井住友フィナンシャルグループ(以下三井住友、8316)、りそなホールディングス(8308)、 住友信託銀行(8403)、中央三井トラスト・ホールディングス(8309)の6グループのうち、三井住友を除く5グループが減益です。

減益の主要因は、もちろんサブプライムローン関連の損失です。6グループの関連損失は、合計9,800億円にも達しています。

今回は、こうした厳しい状況に置かれている金融業界の中から、三菱UFJ、みずほ、三井住友の大手メガバンク3社に焦点を絞り、その現状を詳しく分析、今後の展望や投資魅力について解説したいと思います。

三者三様の決算

今回のメガバンクの決算には、上記の通りサブプライム問題が大きく影響しました。その中でも、関連損失が一番大きかったのがみずほです。

みずほが15日発表した連結決算は、純利益が前期比50%減の3,112億円で、2期連続の減少となりました。サブプライム関連の損失6,450億円は、6グループ全体の関連損失の半分以上を占め、野村ホールディングス(8604)を超え、国内勢で最大です。

三菱UFJは、純利益が前期比28%減の6,366億円でした。旧東京三菱銀と旧UFJ銀のシステム統合の費用や、貸し出しの伸び悩みが響いたものの、サブプライム関連損失は1,230億円と他のメガバンクに比べて小さかったことで、減益幅をみずほの約半分に抑えることができました。

三井住友は、3大メガバンクで唯一増益を達成しました。純利益は、前期比4.6%増の4,615億円。米モノライン(金融保証会社)の信用低下に伴う損失300億円などもありましたが、証券化商品全体では約1,300億円の損失を計上するにとどまりました。サブプライム問題の影響について、北山禎介社長は「今期業績への影響があったとしても、ごくわずかだ」と話しています。

今回の決算内容を見ていると、メガバンク各社の戦略の違いが伺えます。特にサブプライム関連の損失に関しては、これからメガバンクを投資対象として考える上でのヒントが隠されています。

例えば、サブプライム関連の損失が邦銀で最大となったみずほ。数字を見る限りはネガティブな要因といえます。しかし、世界で戦おうとしているため、欧米金融機関と同様に、サブプライム問題で傷を負ったとみることもできます。どちらの側面を重視するのかで、みずほに対する評価は一変するでしょう。

楽観と慎重、二分される今期予想

いずれにしろ、サブプライム問題が邦銀に大きな影響を与えたことに違いはありません。そして、サブプライム問題に端を発した信用収縮は収束したのかという点は、メガバンクの今後を考える上で、最重要ポイントの1つといえます。

今、市場が懸念しているのは、米政府機関債と呼ばれる証券化商品です。同商品の大半は優良(プライム)に区分される住宅融資担保ですが、国際的な信用収縮のあおりで、その価値が毀損(きそん)することが予想されています。

邦銀の同商品の保有額は、みずほが1兆円強、三菱UFJが3兆3,000億円と巨額なもの。評価損が出るようなことがあると、業績に大きなマイナスインパクトを与えかねません。

では、各行の今期業績予想はどうなっているのでしょうか。みずほはサブプライム問題の一巡で大幅増益を見込んでいますが、三菱UFJと三井住友はほぼ横ばいと、慎重な予想となっています。

こうした状況を皆さんはどう評価されますか?メガバンクは投資魅力がないと思われる方も多いでしょう。しかし私は、投資チャンスが到来したと考えるべきではないかという意見です。

銀行セクターへの投資をどう判断する?

確かに銀行セクターは今、非常に厳しい状態です。しかし、過去を振り返ってみてください。例えば、99年に日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、日本長期信用銀行(現新生銀行)の実質国有化発表を契機に株価が急騰しましたし、03年にはりそな銀行の国有化をきっかけに空前の株高となりました。

まだ懸念が残るセクターではありますが、前期が最悪期であった可能性が高まっているように思います。であれば、そこからの急上昇も予想されるのです。

ですので、その可能性にかけ、小額から銀行セクターへの投資を検討してみるのも良いのではないかと思います。

ただ、大手メガバンクへの投資には、どうしても数十万円単位の資金が必要になります。三菱UFJは単位株を引き下げ、みずほも実質的な引き下げを発表していますが、それでもそう簡単に手の届く額ではありません。

であれば、個別銘柄ではなく数万円から投資できる東証銀行業株価指数連動型上場投資信託(1615)、いわゆる銀行ETFという商品を検討してみるのも良いかもしれません。

銀行ETFの値動きは、大手メガバンクとほぼ同じです。例えば三菱UFJと比較してみましょう。

三菱UFJと銀行ETFの連動性

まだ懸念があることを認識しつつ、今後の急上昇の可能性にかけ、銀行セクターへの投資を検討するのであれば、こうした商品も選択肢に入れておくと良いのではないでしょうか。

市場全体である日経平均株価は、銀行セクターの上昇なくしては上がらないと考えるべきです。新興国市場の盛り上がりが指摘されますが、ほぼ例外なく、新興国市場において銀行株は、軒並み上昇しているのです。邦銀は、足元ではたしかに懸念が残りますが、欧米金融機関に比べてサブプライム問題の傷が浅いため、注目を集める可能性は十分あります。投資対象として魅力ある銀行セクター。これからの動向には目を離すことができません。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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